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月並みな人生を歩んでいたおっさんがゲーム的な異世界に飛ばされて思慮深く生きつつやっぱり無双したりする話  作者: 次佐 駆人


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21章 聖地と聖女と  11

――さすがにこれは『詰み』だな。


確認したいことは確認できた。幕引きをさせてもらおう。


俺は建物の影から飛び出すと、大聖女様一行の方に走り出しながら『聖龍浄滅(じょうめつ)光』を連射。


極太レーザー光が7体のボーンキメラ、2体のレヴナントプリーストを一瞬で消滅させる。


一瞬の殲滅(せんめつ)劇に大聖女様が目を見開く。


「何が……何が起こったのですか!?」


「この魔法は……クスノキ様!」


ソリーンがこちらを振り返ると、リナシャとカレンナルも遅れて俺を見る。


「クスノキさん! やっぱり来てくれたんだ!」


「クスノキ様、よかった……」


心底安心したような顔をする3人に「遅れて済まないね」と言って、俺はそのまま『(けが)れの(きみ)』の前まで進み出た。


「ぬぬぬうううぅぅぅ、きききき貴様はあの時ののののの。ふふふふ再び我を阻もうというのかかかかか。だだだだが此度は思う通りにはならぬぬぬううぅぅ」


『穢れの君』は憎々しげに俺を見下ろしながら、両腕を広げさらに瘴気を発生させようとする。


もちろんそれを待つ義務はこちらにはない。


「セイクリッドエリア」


俺は最大出力で浄化魔法を発動。爆発的に広がる光のヴェールが『聖地』全体の瘴気をすべてきれいに消し飛ばす。


「なんという神々しい力……。クスノキ卿は一体……」


後ろの方で大聖女様の声が聞こえる。確かにちょっとやりすぎましたが、それでも「神々しい」は言いすぎです。


ともあれ浄化魔法を至近距離で食らった『穢れの君』はボロボロになって地上に落下した。


「あががががが馬鹿なああぁぁぁ。ここここれが人の力などあり得ぬうううぅぅぅ」


全身が崩れかけた状態で地面を這う最上位アンデッド。


うん、ちょっと可哀想だな。


「大聖女様、封印をお願いします。リナシャ、ソリーンも頼む」


「はいっ」


聖女二人の返事は頼もしい。しかし、


「申し訳ありません、私は魔力がもう……」


近くまで歩いてきた大聖女様の顔は蒼白であった。そういえばそうだった。


「では魔力をお渡ししましょう。お背中を失礼します」


説明する時間はないので、俺は大聖女様の後ろに回って手を背中にあてる。


もちろんいつもの『魔力譲渡』であるが、やはりどうしてもアノ副作用が……


「はい? ……あっ、これは……あぅ……んんっ……」


清楚系大聖女様が漏らす切なそうな声に、それまで呆気に取られていたホスロウ枢機卿がいきりたった。


「貴公っ、いきなり出てきて何をするかと思えばっ!! その手を離さんかっ!!」


「枢機卿閣下、これは魔力を譲渡しているのです」


と言いつつ、俺は手を離して、槌鉾(つちほこ)を振り上げる枢機卿から距離を取る。


「ホスロウ枢機卿、今のは確かに魔力を譲渡する術でした。武器を収めてください」


大聖女様に言われ、俺を睨みつけながらも下がる枢機卿。


「クスノキ様、ありがとうございます。お話をうかがいたいところですが、まずは『穢れの君』を封印いたします」


「よろしくお願いします」


大聖女様はしっかりとした足取りで『穢れの君』の前に行くと、リナシャとソリーンを呼び寄せた。


3人は頷き合うと、両手を前にかざした。


「シールインピュアリティ」


美しい声が響き渡り、いまだ地面でのたうつ『穢れの君』が強烈な光に包まれる。


キラキラ美少女3人による封印術の行使は、まさに英雄譚の一場面のようである。


「ままままさか何もせぬうちに再び封じられるなどどどどどど。そそそそのようなことが許されると思うなあああぁぁ」


恨み言を垂れ流しながらも、光に包まれ圧縮されていく『穢れの君』。


今にも封印球に変じようかというその時であった。


ドォンッ!!!


大音声とともに霊廟(れいびょう)の大扉が開き、そこから濁流の如き瘴気が噴き出した。


「セイクリッドエリアッ!」


俺は咄嗟(とっさ)に最大出力の浄化魔法を放射、瘴気の奔流を押しとどめる。


あの密度の瘴気を浴びれば、聖女といえどもタダでは済まないだろう。


神官騎士たちのレベルでは瞬時にアンデッドに変化させられてもおかしくない。


「全員下がれっ!カレンナル、大聖女様たちを下がらせてくれっ!」


「はいっ!」


『シールインピュアリティ』の術はすでに中断されていた。


あと少しで封印されるはずだった『穢れの君』は、霊廟の扉の中に吸い込まれるように消えた。


かなり力ずくだが、これはボスの逃亡イベントか。


俺は瘴気を押し返しながら、霊廟の中に強引に入っていった。


霊廟がダンジョンになっている以上、中に入ってこの瘴気の元を絶つ必要がある。


そう考えたからであるが、俺が足を踏み入れると同時に瘴気の濁流は勢いを減じ、やがて消えていった。


「クスノキさんっ!」


リナシャたち3人が俺を追って霊廟に入ってきた。


「『穢れの君』は奥に行っちゃったんでしょ?追いかけるんだよねっ!?」


「そうだな、急ぎ追った方がよさそうだ。大聖女様たちは?」


「メロウラ様は消耗されて動けないようです。外でお待ちになっているそうです」


ソリーンが答える。この2人はまだ魔力には余裕があるようだ。やはり勇者パーティとして活動したのが大きかったのだろう。


「分かった。俺が先頭で行くからついて来てくれ」


いつもの『最適ルート探知』スキルを頼りにして、ダンジョン化した霊廟を進んでいく。


時折出現するモンスターはどれも高等級のアンデッドだが、すべて『ホーリーランス』で瞬殺していく。


幸い霊廟ダンジョンの広さはそれほどではなかった。


15分ほどで、明らかに最奥部といった雰囲気の広い部屋にたどり着く。


しかしそこに『穢れの君』の姿はなく、代わりにあったのは――


「クスノキ様、これはロンネスクのダンジョンにあったものと同じ転移装置では?」


カレンナル嬢が指摘した通り、部屋の壁には水晶球が設置され、床にはあの転移魔法の魔法陣が刻まれていた。


問題なのは、魔法陣の上に転移魔法が発動したことを示す魔力の残滓(ざんし)が漂っていること。


つまり『穢れの君』は今……


「首都のダンジョンに転移した、か。考えたな」


『穢れの君』を『聖地』で復活させ、首都に転移させる。


「永遠の楽園」派の信者が転移装置つきダンジョンを作り出す術をもっているのかどうかは不明だが、策としては非常に上手い。


この転移装置は一度しか起動できないとネイミリアが言っていた。


つまり、よしんば聖女達が健在で『穢れの君』をここまで追ってきたとしても、転移した『穢れの君』を追いかける手段はないのだ。


聖女達が首都に取って返すころには、首都は死の都と化している。


そんなシナリオになるのだろう。


「とりあえず大聖女様たちと合流しよう。急いで首都に戻らないと大変なことになりそうだ」


まあしかし、それも俺というイレギュラーがいなければの話ではある。


この筋書きを書いた『誰か』には申し訳ないが、遠慮なく台無しにさせてもらおう。

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