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月並みな人生を歩んでいたおっさんがゲーム的な異世界に飛ばされて思慮深く生きつつやっぱり無双したりする話  作者: 次佐 駆人


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21章 聖地と聖女と  09

翌日、俺は念のためネイミリアとラトラを首都に呼び、女王陛下の守りにつくように頼んだ。


ネイミリアは俺と一緒に『聖地』に行きたがったが、一応隠密行動になるので連れていけないと諭した。


無論、ダンジョンからモンスターが溢れた時にネイミリアの魔法が非常に重要な戦力になるという理由もある。


「それで師匠のお役に立てるならそうします」


と最後は分かってくれたが、ついでに『聖地』に一緒に行く約束もさせられた。


観光地としても有名らしいので、騒動が終わって『聖地』が立ち入り可能となったら皆で行くのもいいだろう。


さてそんなわけで、俺は1人で『聖地』へと向かった。


と言っても実は転移魔法で一発である。


転移魔法はこの手の魔法のお約束として、「一度行った場所にしか転移できない」という縛りがあった。


ところがどうやら「ある程度の距離で視認」することで「行った」判定になるようなのだ。


そこで俺の『千里眼』スキルと組み合わせてみたところ、見える範囲でという制約はあるものの、事実上「行ったことがなくても転移できる」というインチキ魔法と化したのである。


さてその『聖地』だが、首都からはるか西、天を()くようにそびえる『霊峰アルテリア』のふもとにあった。


俺は『聖地』を囲む城壁の上に転移し、広大な庭園を見下ろした。


大聖女様一行の到着は今日の夕方になるだろうが、その前に様子を見ておこうというわけだ。


城壁によって囲われた広大な土地の奥には、大聖堂に匹敵するほどの壮麗な建物……霊廟(れいびょう)が建っている。


城壁と建物の間は美しい庭園になっているという話であったが、今は立ち上る瘴気(しょうき)によって見るも無残な死の(ちまた)と化している。


草木は枯れ、池は血の色に変色し、枯れ木や朽ちた建造物の間をスケルトンやゾンビなどアンデッドモンスターが群をなして徘徊しているのだ。


教皇猊下にはアンデッドモンスターの話は出てこなかったので、ここ数日で湧いたのだろう。


『魔力視』で見るとどうも奥にある霊廟付近は半分ダンジョン化しているように見える。


なるほどイベント間近という感じはあるが、大聖女様一行もこれでは攻略に手間取るかもしれない。


しばらくすると石畳の路を行進してくる大聖女様一行の姿が見えた。


彼らは『聖地』の城門から500メートルほど離れたところで陣を敷き始めた。数名の神官騎士が偵察に動き出すのが見える。


俺は城壁の上を伝って見つからない場所まで移動した。


できればリナシャたちには自分の存在を知らせたいところだが……たまには彼女らだけでどれくらいできるのかを経験するのもアリだろう。


俺は城壁の上で飯を食いながら、アンデッドの群を見て慌てている様子の偵察部隊を眺めるのだった。





翌朝、日の出とともに大聖女様一行は行動を開始した。


聖堂騎士団が前に出て城門を開放、『聖地』の中に入って行くのが城壁の上から見える。


それに遅れて大聖女様たちが城門をくぐったところで、視線を『聖地』の中に向けると、アンデッドモンスターがウヨウヨと集まってきて聖堂騎士団に襲い掛かるところだった。


が、さすがにそこは教会の対アンデッド専門部隊だけあり、低等級のアンデッドはまったく相手にしないようだ。


神官騎士たちは短槍で次々とスケルトンやゾンビを粉砕していく。


時折黒い瘴気が集まり、ぼろをまとった幽霊……リッチも現れるが、魔導師系の神官騎士が『ホーリーランス』を放って消滅させる。


悠然と霊廟に向けて進撃していくその様は、なるほど精鋭部隊と呼ぶにふさわしい戦いぶりである。


俺が1人で感嘆していると、彼らの前にいきなり強い瘴気が立ち上った。


出現したのは5等級のエルダーリッチ3体、間髪入れずに杖から放たれる『ファイアランス』。


しかし神官騎士たちは冷静に盾で防御する。


直後に聖女ソリーンの『ホーリーランス』が三度閃き、エルダーリッチ3体を一瞬で吹き飛ばした。うん、最初に会った時とは比べ物にならない威力だな。


一行が少し奥まで進んだ時、大聖女メロウラ様が両手を広げて魔法を放った。


彼女を中心にして光が広がると、周囲一帯の瘴気が消滅……浄化されたように見える。


効果範囲は半径200メートルほどだろうか、かなり強力な『セイクリッドエリア』である。


成長著しいソリーンに勝るとも劣らない魔力、やはり大聖女という肩書に相応しい実力を持っているようだ。


俺は『聖地』内に点在する枯れ木や大型の石灯籠のような建造物に隠れながら、彼らの後についていった。


奥の霊廟までは一時間もかからずにたどり着く。しかしそこで大聖女様一行の動きが止まってしまった。


霊廟内がダンジョン化しているのに気付いたのだろう。


もとは美しかったであろう壮大な霊廟は、今や不気味な瘴気を吹き出す魔窟の様相を呈していた。


四角い体型のホスロウ枢機卿が、大聖女様の側に歩いていくのが見える。


俺は建物の影で耳に意識を集中。


「メロウラ様、やはり霊廟全体がダンジョンと化しているようです。予定通りこのまま突入したいと考えますがよろしいですかな」


「はい、構いません。ダンジョンの最奥にいるであろう元凶を倒し、この地を我らの手に取り戻しましょう」


大聖女様のセリフがやや芝居がかっているのは、聖堂騎士団の士気を高揚させる狙いもあるのだろう。


結果として神官騎士たちの意気が上がったようだ――


「お待ちください司教様! そちらは我らと共にせねば危険です!」


その時、鋭い制止の声が響いた。


叫んだ神官騎士が追いかけようとする先には、あのギラギラ司教、コンコレノとギザロニ2人の走る姿がある。


ダンジョン最奥部で動くのかと思っていたが、まさかここでとは。


見ているうちに両司教は霊廟の大扉の前に行き、禍々しい光を帯びた銀の球……封印球を3つ天にかざした。


「コンコレノ司教、ギザロニ司教、一体なにをしているのかっ!」


ホスロウ枢機卿が叫ぶ。大聖女様とリナシャら3人も様子を見に前に出る。


「あれって封印球じゃない!?」


「確かに。ということは、封印を解いて、『穢れの君』を復活させる気ではないでしょうか!?」


リナシャとソリーンは一度封印球から『穢れの君』の分霊が出現したことを知っているため理解が早い。


「なんとっ、それはまことか!? なぜ奴らが……いや、それより2人を取り押さえよ!!」


枢機卿の命令で多数の神官騎士が両司教のもとに向かおうとする。


しかし彼らが両司教のもとにたどり着くより先に、三つの封印球から凄まじい量の瘴気が吹き出した。

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