表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月並みな人生を歩んでいたおっさんがゲーム的な異世界に飛ばされて思慮深く生きつつやっぱり無双したりする話  作者: 次佐 駆人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

173/251

21章 聖地と聖女と  06

それから3日後の午前、俺は首都のとある建物の近くに立っていた。


3階建ての古い商館と見えるその大きな建物には、今も数名の人間が出入りしている。


エイミからの報告では、コンコレノ司教を始め『邪教徒』と思わしき人間がこの館に出入りしているのだという。


ではこの館を捜査すれば……と思うのだが、事はそう簡単ではなかった。


なぜならこの館の持ち主が貴族であったからである。


スインベリ男爵というらしいが、エイミによると取り立てて報告するべきこともない平凡な貴族らしい。


コンコレノ司教らが『後援者』の存在をほのめかしていたが、それがそのスインベリ男爵ということなのだろうか。


それはともかく貴族の館にちょっかいを出すのは、バレた時のリスクの大きさを考えるとさすがに難しい。


なので俺の超高レベル『気配察知』と『魔力視』、そして『千里眼』を使って脱法的に捜査しようと言うわけだ。


ちなみに俺はすでにかなりの有名人なので、街に出る時は『朧霞(おぼろかすみ)』スキル常時発動状態である。


さて、まずは気配を探ると……


ふむ、館の1~3階には30名ほどの人間がいて、それぞれ2~3人に分かれて何かをしているようだ。


普通の商人的な業務もやっているのだろうか。魔力的にも普通の人たちである。


問題は館の地下だ。


何人もの人間が1階と地下を行ったり来たりしているのだが、その地下には大きな地下室があるらしく、そこに50人程の人間がいる。


そして彼らは、地下室の一点を中心に放射状に座っていて、ほとんどの人間がじっと動かない。


祭壇のようなものがあって、それに向かって信者たちが祈りを捧げている……そんな感じである。


魔力を探ると、祭壇があると思われる場所に奇妙な『揺らぎ』が感じられた。


ただ偶像的な祭具か何かを置いて祈っているのではなく、実際に何らかの『意味あるもの』に祈りを捧げている、ということだろうか。


さらに魔力を辿(たど)ると、どうもその祭壇に発生している魔力の『揺らぎ』は、その地下にまで続いていることが分かる。


地下室の下にさらに何らかの空間があるのだろうか?


調べる必要がありそうだが、さすがにそこまでは俺の『魔力視』でも捉えきれない。


一旦諦めて『魔力視』を解除。そこでふと俺は視線を路上に落とした。


たまたま目に入ったのは、道端に敷設された鉄製の(ふた)


マンホール……そこでピンときてしまった。ああ、そういうことか。


確かにゲーム的には結構なお約束だよな、『下水道探索イベント』は。





俺は館の件を女王陛下に報告すると、その場で下水道調査の許可を取った。


「卿は次から次へと色々なことを思いつくものだな」


と呆れたように言われてしまったが、どうにも前世の記憶がこの世界にマッチしてしまうのだから仕方がない。


俺は行政府の下水道管理の部局へ行き下水道の地図と作業服を受け取ると、人通りのない所のマンホールから下水道へ下りた。


首都の下水道は、通路の真ん中に汚水が流れ、その左右に管理用通路が走るいかにもな構造であった。


臭いはもちろん酷いのだが、神聖魔法と光属性魔法と風属性魔法をこねくりまわして除菌消臭の魔法を編み出して解決する。


光属性魔法で光源を出し、地図を見つつ『最適ルート感知』スキルも併用して、例の館の下あたりに向かう。


『下水道探索イベント』ということで下水道ならではのモンスターがいるかと少しだけ期待していたのだが、残念ながらいるのはネズミとGだけである。


普通に考えれば首都の下水道にモンスターがいたら大問題なので当たり前ではあるのだが。


などと考えていた矢先――


「おいおい、なんでいるんだよ……」


カシャッ、カシャッという乾いた足音が行く手から聞こえてきた。


『魔力視』で見る限り、こちらに近づいて来るのは明らかにアンデッドモンスターだ。


視界に入って来たのはスケルトンであった。


数は一体で武装もしていないため最下級のランクではあるが、それでもモンスターはモンスターだ。


『ホーリーランス』を最小出力で放って消滅させると魔結晶が落ちる。やはり間違いなくモンスターだ。


何かが起きていることを確信しつつ先に進む。


例の館の近くと思われる区画に入った時、前方の景色に違和感を覚える。


下水道の通路は続いているように見えるのだが、よく見ると、ある場所から線で区切られたように下水の流れが止まっているのだ。


「まさかダンジョンか?」


『魔力視』を発動すると、通路を塞ぐように魔力の壁のようなものが広がっているのが見えた。


その壁を境界線にして向こう側がダンジョン化しているに違いなかった。


よく見ると、その壁には小さな裂け目がある。


恐らくそこから『魔素』が漏れだし、さっきのスケルトンを発生させたのだろう。


「とりあえず入り口を探すか」


雰囲気としては『邪教徒』の『儀式』によってダンジョンが発生した、みたいな感じなのだろうか。


どちらにしろダンジョン内に入って、ダンジョンを発生させている元凶をなんとかする必要がある。


俺は地図を頼りに入り口を探ってみたのだが……


「ここもダメ、か」


残念ながらすべての通路は魔力の壁でふさがっており、ダンジョンへの入り口は見つからなかった。


地図で見る限り例の館を中心にしてダンジョンは広がっているようだ。


これが『邪教徒の暗躍』イベントで発生したものであるのは間違いないだろう。


しかし入り口がないというのはどういうわけか。


考えられるのは館の地下室に入り口があるということだが、もしそうならあの館からモンスターが出てこないのはおかしいだろう。実際裂け目からはモンスターが発生していたのだし。


とすると、このダンジョンは『その時』が来ないと攻略できないタイプのものなのかもしれない。


つまりお約束の強制イベントなのだ。ダンジョン開放のフラグは恐らく『聖地』の浄化と『穢れの君』の復活、そんなところか。


こんなことを言って果たして信じてもらえるのだろうかと不安を覚えつつ、俺は来た道を戻り、一路女王陛下へ報告に向かうのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ