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月並みな人生を歩んでいたおっさんがゲーム的な異世界に飛ばされて思慮深く生きつつやっぱり無双したりする話  作者: 次佐 駆人


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21章 聖地と聖女と  04

「リナシャやソリーンに話を聞くうちに、どうしてもクスノキ様には一度直接お話をしなければと考えたのです。ご多忙のところご面倒をおかけし申し訳ございません」


「いえ、私も『魔王』討伐ではリナシャ様ソリーン様カレンナル様には大変お世話になりましたので、こちらからお(うかが)いしなければならないところであったと恥じ入るばかりです」


俺は対面に座るキラキラ和風美少女に深く頭を下げた。


俺が褒めたせいか、横に座るリナシャとソリーンはちょっと恥ずかしそうに顔を伏せ、後ろに立っているカレンナル嬢は小さく首を横に振っている。


「ふふっ、本当にリナシャたちの言うとおりの方でいらっしゃるよう。彼女たちがクスノキ様のことを口をそろえて褒めるのも分かる気がいたします」


口を隠してニッコリを微笑む仕草もどうにも日本的で、急に郷愁をかきたてられる思いがする。


いや、こんな清楚系超絶美少女は芸能人にもいなかったが。


「は、はあ……、いえ、身に余る光栄です。私としては常に依頼を果たしているだけですので、そこまで評価されると面映ゆいところではありますが……」


「クスノキ様にとっては当たり前のことなのでしょうね。私にとってはまるで神話の英雄のお話を聞くようで、お恥ずかしながら少し胸が高鳴るのを感じたくらいですけれど」


「それはまた……お耳汚しでございました。私としては英雄はむしろ勇者や聖女様たちの方かと思っています。彼女らの力なくしては『厄災』は退けられませんでしたので」


「そうですね、それもまた事実ではあるのでしょう」


そこで言葉を切ると、大聖女様は居住まいを正し、いきなり頭を深々と下げた。


「勇者といえば、どうやら私の受けた神託があらぬところに流れて、クスノキ様たちがご面倒をこうむられたとか。この場を借りて謝罪いたします。申し訳ございませんでした」


「いやそれは……分かりました、その謝罪はお受けいたします。ですのでどうかお顔をお上げください」


まさかここでまたその話が出てくるとは思ってもみなかった。というか、この手の謝罪は大聖女様レベルの人間が簡単にしてはいけないと思うのだが……。


大聖女メロウラは顔を上げると、再度俺の方を見据えた。


「後程王家の方にも教皇のラースキンから謝罪があるかと思いますが、それとは別にどうしても私個人としては謝りたかったのです。ご迷惑でしたか?」


「いえ、個人的にというのであれば迷惑などということはございません。私としてはもう忘れかけていたことなので少し驚いただけです」


「そう言っていただけるならばありがたく思います」


大聖女様はそこで手のひらを胸にあて、ホッとしたような表情を見せた。


このあたりの仕草がいやがうえにも清楚な感じを与える。のだが、その裏で瞳にうっすらと鋭い光が宿ったのが確かに見えた。


「ところでリナシャたちに話を聞くと、クスノキ様は色々と不思議な力をお持ちとか。そのお力は、やはり大変な修練の末に身に付けられたのでしょうか」


おっとここからが本題のようだ。「俺に興味を持った」というのが「そういうこと」であるのは分かってはいたが……まさか「クスノキは危険だ」とかいう神託が下ったとかないよな?


「自分では自覚はあまりないのですが、恐らくそうなのだと思います。ただ、人より多少才に恵まれたのも確かなようです」


「そのお力を正しい方向にお使いになるところがクスノキ様の素晴らしいところなのでしょう。ご出身はどちらなのですか?」


「申し訳ありません。私の出自についてはお話しすることができません。一応、以前は商人のようなことをしていたとだけは人にも言っております」


実は今まで出自を探られることはほとんどなかった。どうもハンターの過去は探るな、という暗黙の了解が存在するらしい。なのでいざ聞かれた時も下手に嘘をつくより「話せない」としたほうがいいだろう、と前々から考えていた。


「すみません、貴族様に失礼なことをお聞きしました」


と言いながらも、大聖女様の目の光はさらに強くなる。え、まさかやっぱり神託が?


そういえば、この世界に神託があるとして、それは誰が下しているのだろう。


あの人間を間引く気まんまんの『星の管理者』だったとしたら、大聖女様経由で俺を排除しようとしてもおかしくない。


いやでもそれなら『勇者』の神託も遅らせるよな。そうすると別の神がいるか、『神託』そのものが実は神とは関係ない予知スキルだったとかそういう可能性もあるか。


「あの、やはりお気に障りましたか……?」


「あ、いえ、そういうわけではございません。少し考え事をしてしまいました」


「それならよろしいのですが。ところで、クスノキ様はリナシャやソリーンとかなり親しいとうかがっております。それもきっかけは教会内部の不祥事が原因とか」


ギラギラ大司教クネノ氏の話も懐かしい思い出になってしまった気がするな。それだけ色々なことがありすぎたのだが。


「はい、まったくの偶然ではありましたが」


「そうであるならば、クスノキ様はすでに教会内部の不和や騒動も少なからずご存知でしょう。実はこの度お呼びしたのも、それに関してクスノキ様にご相談申し上げたかったからなのです――」


大聖女様がいよいよ依頼の話に入ろうとしたその時、部屋の扉が強くノックされ、こちらの返事を待たずに開かれた。


数名の神官騎士を廊下に待たせ入って来たのは、四角い体型をした40歳位の男性神官だった。


法衣の上に装飾の多い肩当や胸当てをしているところから、神官騎士を束ねる人間のように見える。


彼は厳つい顔をさらに厳つく引き締めながら、大聖女様の前に行き一礼した。


「大聖女メロウラ様、ご機嫌うるわしゅうございます。こちらに大聖女様と、勇者の供として名高いロンネスクの聖女様がいらっしゃると聞き急ぎ参りました」


「ホスロウ枢機卿もご無事でなによりです。今回の遠征も特に問題はなく終えられたのですか?」


「はっはっ、アンデッドの群程度、我ら聖堂騎士団に敵するところではありません。それより大聖女様たちがお揃いになった今、『聖地』浄化の機が到来したと考えてよろしいのですな?」


「それは教皇猊下(げいか)が判断なさることです。むろん私も『聖地』の浄化は最優先で行いたく思っておりますので、猊下が判断されればいつでも向かうつもりです」


「ロンネスクの聖女様たちも?」


「ええ、彼女たちも協力してくださることになっています」


「それは重畳(ちょうじょう)。では私も騎士たちも、一休みしてその時を待つといたしましょう。ときに大聖女様、まさかこのような重要な仕儀に、外部の、それもハンターなどの協力を仰ぐなどということはございますまいな?」


そう言って、ホスロウ枢機卿は三白眼の目で俺をジロリと睨めつけた。


なるほど誰かが彼に俺のことを注進したに違いない。大聖女様が『魔王』討伐に功のあったハンターを呼び出したとなれば、そういう話になってもおかしくはないだろう。


そして内部の実力者、とくに現場を束ねる人間がそれをよしとするはずがない。


「ホスロウ枢機卿、彼は大切な客人です。あまり失礼な態度はお控えくださいますよう」


「おお、これは申し訳ない。いよいよ『聖地』浄化かと思うと私も気が(はや)ってしまいましてな。ともあれ大聖女様、くれぐれも教会内部に波風が立つことはお控えくだされ」


そういうと枢機卿はもう一度俺を睨みつけ、そのまま大股に部屋を出て行ってしまった。


なんとも嵐のような御仁(ごじん)であるが、もと組織人として言うことは分からないでもない。


扉が閉まるのを見届けると、大聖女様は俺に頭を下げた。


「申し訳ありません。ホスロウ枢機卿は信心深く、神官騎士の長としても有能ではあるのですが、己の領分を侵されるのを好まない人間なのです」


「お気になさらず。私も彼の言うことは理解できます。しかし『聖地』の浄化、などという言葉を私に聞かせても良かったのでしょうか?」


俺がそう言うと、大聖女様は少し目を丸くした後、ふふっ、と笑いを漏らした。


「確かにそうですね。まだその話をクスノキ様にはしていませんでしたのに。しかしクスノキ様は女王陛下の信も厚くいらっしゃいますから、『聖地』についてはすでにご存知なのではありませんか?」


「多少はうかがっております。先程の相談というのもその件でしょうか?」


「もし可能ならば……と思っていましたが、ホスロウ枢機卿にああ言われてしまったのではさすがに難しそうです。彼は教会の財務にも目が届く身分ですので」


なるほど、ハンターに礼を出そうとすればすぐバレるというわけだ。


俺もさすがに礼を出せない相手に、自分から「タダで手伝います」などと言うつもりはない。対価を求めないやりとりは、それはそれで色々と問題を生むものだ。


「私としてはどちらでも構いませんが、その『聖地』の浄化には聖女リナシャ様とソリーン様も参加されるのですね?」


「ええ、そうなります。二人とも問題はありませんね?」


大聖女様に声をかけられ、リナシャとソリーンは「はい」と頷く。


真面目なソリーンはともかく、奔放なリナシャが硬くなっているのが少し面白い。


「お二人とカレンナル様が参加されるのなら、余程のことがない限り大丈夫でしょう。私がでしゃばる必要もないと思います」


俺の言葉に、横でリナシャが「え~!?」と小声で言い、ソリーンにつつかれる。


大聖女様はそれを見て笑いを漏らしつつ、軽く溜息をついた。


「そうですね。私から見てもリナシャとソリーン、それにカレンナルも相当な力を持っているのは分かります。彼女たちと神官騎士たちの力を信じなければ、大聖女として(かなえ)の軽重を問われますね」


そう言って、大聖女様は立ち上がり一礼をした。


「この度は招聘(しょうへい)に応じてくださり真にありがとうございました。本来ならばもう少しお話をうかがいたかったのですが、ホスロウ枢機卿が戻ったとなると、すぐに色々と動き出すと思いますので、今日はここまでにさせてくださいませ。お帰りの際は土産を用意してございますので、聖堂の神官に一声おかけください」


再度礼をして、大聖女メロウラ様はしずしずと部屋を去っていく。


うん、イベントの導入としてはありがちな感じだが、ちょっと物足りないんだよな。


さっきのホスロウ枢機卿もギラギラはしてなかったし、大聖堂をもう少し見て回る必要があるかも知れない。


などとゲーム脳を全開にしながら、俺は黒髪の美少女の後姿を見送ったのであった。

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