2章 城塞都市ロンネスク 06
「ええ、オーガを一人でやったのかよ……」
「背嚢ぱんぱんじゃねえか。一人でどれだけオークやったんだよ……」
すっかり気に入ったオーガの斧を手に持って谷を出てきたら、注目の的になってしまった。
とはいえ、空間魔法を隠す以上、またソロで活動する以上、多少目立つのは仕方ないと割り切った。
どうもこの国には『王門八極』と呼ばれる人間離れした人たちがいるらしく、ちょっと強い人間がたまにいる程度は、そう珍しいことではないらしい。
正直俺の能力はそこそこ人間離れしたレベルのようだし、『アイツなら仕方ないか』とか思われるようになっておいた方がやりやすくなるだろう。
思わぬ面倒も背負いそうな気もするが、フラグにならないことを祈るのみだ。
「よお、オーガをやったのか?」
声をかけてきたのは谷に入る前に銀貨を握らせた男だ。
「ええ、驚きましたが何とか倒せました」
「いやいや、そんな簡単に倒せるモノじゃねえんだけどな」
男は苦笑いをして、肩をすくめてみせた。
「アンタこのまま帰るのか?よかったら俺のテントに来ないか?」
「いえ、このまま帰ります。まだ時間はあるので」
「そうか、残念だ。俺はゴレムって言うんだが、ここにはオーガを狩りにきてるんだ。もしよかったら情報交換と行きたかったんだが」
「自分はここに来るのが本当に初めてなので……。ああ、奥の方でオーガが6匹出ましたけど、結構出るんですね」
そう言うと、男――ゴレムの顔色が変わった。
「それ嘘じゃねえよな。オークじゃなく、オーガが6匹なんだな?」
「ええ、多分奥にはもっといるんじゃないでしょうか。気配探知に同じ奴がいくつも引っかかっていたので」
「いやそりゃマジならかなりマズいぞ……。確かに最近モンスターの出方が変わってはいるんだが……。何か証拠はあるか?」
「これなら……」
背負い袋から、オーガがドロップした魔結晶を6つ取り出す。
等級はオークと同じ2等級だが、大きさが倍ほど違う。
「いやこれ、アンタ一人で倒したのかよ!?」
ゴレムは目を剥くが、すぐに冷静さを取り戻す。
「アンタこのまま帰るなら、協会に急ぎ報告してくれないか。これはマジでヤバい案件だ。ここの連中にはオレの方で情報を広めとく。下手すると何人も死ぬ恐れがある」
「本当ですか? 分かりました、急ぎ報告します」
なるほど、比較できる情報がないから危険な状況だと気付けなかった。
考えてみればここに来るハンターの実力も全員同じではない。
5級に上がったばかりのパーティでは、オーガ複数を相手にするのは荷が重いだろう。
俺はゴレム氏に別れを告げ、全速力でロンネスクに戻った。




