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月並みな人生を歩んでいたおっさんがゲーム的な異世界に飛ばされて思慮深く生きつつやっぱり無双したりする話  作者: 次佐 駆人


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20章 凍土へ(後編) 07

砦に戻ると、俺たちは大歓声に迎えられた。


あの恐ろしい魔王の姿は多くの兵が目にしており、それを倒した勇者パーティの姿もまた同様であった。


その夜は当然のように大宴会となった。


その中心にはもちろん勇者ラトラを中心とした勇者パーティがいるわけだが、絵面的にお邪魔虫な俺はその場にはいない。


彼女らの面倒はメニル嬢とクリステラ嬢にお願いして、俺は作戦室でエイミとグリューネン司令官、そして『王門八極』のガストン老と今後の話をしていた。


「ノストン・ベルゲン大佐は魔王とのつながりを否定せんかったよ。ベルゲン家は魔王に脅されていたという話での、仕方なく今回の仕儀に至ったという話をしておる」


グリューネン司令官はそう言って茶をすすった。その表情が冴えないのは、ベルゲン大佐の言葉が真実をすべて語っていないと感じているからだろう。


ガストン老はそんな司令官を……彼らは旧い友人同士らしい……横目に見ながら言った。


「ベルゲン大佐については我らが身柄を預かり、首都まで連行するつもりじゃ。むろん陛下に事情もお伝えする。当然クスノキ卿も事情を聞かれるだろうが、まあそのまま答えればええ」


「分かりました。そうするとベルゲン家には王家が調査が入ることになりますね」


「当然じゃ。審問官も派遣して厳しく取り調べられることになるじゃろう。何か気になることでもあるかの?」


「私のような素人が口を出すことではないのですが……あの魔王は策士でした。策士が人を使うのに、鞭だけということはないでしょう。当然飴も提示していたはずです」


「ふむ、脅していたのも事実だが、それだけではないと?」


「ええ。従わねば鞭、しかし従えば飴、それが一番効きますから。魔王は必ず何かベルゲン家の利になるようなものを渡していたと思います。それが何かと問われると困りますが――」


俺が頭をかいていると、今回の影の殊勲者エイミが遠慮がちに口を開いた。


「クスノキ様、魔道具などはどうでしょう?」


「魔道具?」


「はい。ベルゲンが魔王に連絡を取るのに使っていた魔道具は明らかに女王国のものではありませんでした。恐らくですが、魔王にしか作り出せない高性能なものです。もしそれを都合すると言われれば、かなりの飴になり得ると思います」


なるほど。そういえば偽の勇者クロウが身につけていた『ステータス偽装』の魔道具も非常に貴重なものだという話だった。可能性としては高いかもしれない。


しかしもしそうだとすると……


「その魔道具はどこに?」


「それならここにあるぞ」


グリューネン司令が机上にあった箱からトランシーバーのようなものを取り出して俺に渡してくれた。




-----------------------------

遠話の箱



遠距離での会話を可能にする魔道具


使用するには2つ以上の『遠話の箱』が必要


製作者は『魔王』



特定の魔力に呼応して『枯渇』の呪いを周囲にふりまく。

(この機能は秘匿されている)

-----------------------------




高性能な魔道具と見せて、実は呪いのアイテムという二段構えの策。


いかにもあの魔王のやりそうなことだが、これが最後であってほしいものだ。


俺が溜息をついていると、ガストン老が眉を顰める。


「その魔道具がどうかしたかのう?」


「ええ。この魔道具は特定の魔力に反応して呪いを発生する機能が隠されているようです」


「なんと、それは真か!?」


「自分のスキルが嘘をついていなければ本当です。問題は、もし魔王がベルゲン家にこういった魔道具を融通していたとしたら、それらにも同様の機能が隠されている可能性があることです」


「由々しき事態になりかねんのう。魔道具がベルゲン家にすべて残っておればよいが、売却していたりすると面倒なことになりそうじゃ」


ガストン老があご髭をさすって渋い顔をする。


「まあこれは仮定の上に仮定を重ねた話ですので。いずれにせよ調査を待つしかないでしょうね」


と言ったものの、俺の勘が推測通りだろうとささやいている。前世ではこの手の予測が当たることは半々だったが、この世界に来てから外れたことがない。


しかしもしこの予測通りだったとしたら、ベルゲン家は取りつぶしだけでは済まないだろう。


それを理解してか、グリューネン司令官の顔色は悪くなりっぱなしだ。ベルゲン家はグリューネン家の本家筋という話だから仕方ないのだが。


「ゴルドよ、そう暗い顔をするでない。陛下は好き好んで貴族家を取り潰すようなお方ではない。本家の不祥事を分家までおし広げることはせんよ」


「……うむ、そうだな。今更思い悩んでもしかたあるまい。済まぬなクスノキ卿、魔王討伐を祝わねばならぬ時にこのような話に付き合わせてしまっての」


「いえ、祝う時に悩むのが人の上に立つ方の苦しさと思いますので」


「儂の悩みなど所詮は己が家の行く末に過ぎんよ。人の上に立つ者の悩みとは言えぬ。だがまあ、貴殿のありようを見れば、儂も己が家の行く末などに一喜一憂している時ではないと心に決めねばな」


グリューネン司令は俺から『遠話の箱』を受け取ると、それを元の箱に戻し、そのままガストン老に手渡した。


「ガストンよ、陛下への報告を頼む。儂はこの砦にてもうしばらく北に睨みをきかせておかねばなるまい。まだ四天王の1人は健在というしの」


ああそういえばそうか。まだバルバネラはそういう扱いになってしまうんだな。


『凍土の民』は放っておいても何もしないだろうが、戦った以上戦後処理をしないとならないのが国というものである。






夜更けすぎ、俺は何となく砦の裏門の上にいた。


勇者パーティは戦いと宴会で疲れ果てて部屋で全員泥のよう眠っている。


エイミだけはまだ起きている気配を感じるが、彼女もじきに休むだろう。


兵士たちは一部はまだ騒いでいるものの、多くは砦のあちこちで死屍累々となっていびきをかいていた。


さすがに最低限の見張りはいるようだが、少なくともこの裏門の周りにはいない。


『イベント』が起こるにはうってつけのシチュエーションである。


『――また逆らうか、(ことわり)に』


いきなり現れる異質な『気配』。『星の管理者』らしき存在。


「理不尽な暴力に逆らうのが人の理だからな」


『否、理不尽ではない。汝こそ理に適わぬ存在』


「俺は少しだけ強い人間にすぎない。それに阻まれるなら、それが世界の理なんじゃないのか?」


『否、我こそが理。我が行為を阻む者は理外の異物』


「……異物は排除すると?」


『是。『理の遣い』からすべての力が戻りしとき、我は顕現(けんげん)し汝を滅ぼす。理を受け入れるか、汝自身の滅びを受け入れるか選択せよ』


そこで『星の管理者』の気配が消えた。


うん、わざわざ俺に接触してきて先の展開のヒントをくれるなんて、よく分かっている裏ボスだな。


しかし今度は「お前が死にたくなければ黙って間引かせろ」と来たか。さすがにちょっとそれは聞けないよなあ。


と思いながら月を見上げていると、


「……なんでちょうどいい場所にいんのさ」


空から下りて来たのはダウナー系女悪魔のバルバネラ。なんか前も同じような展開があったな。


ちょっと違うのは、バルバネラが妹のリルバネラを連れているところか。


「まあいいや、呼ぶ手間が省けたし。リルがどうしてもアンタにお礼を言いたいんだって」


そう言ってリルバネラを下ろす。


下ろされたリルバネラはもじもじしながら、俺をチラッチラッと見上げている。


「やあ、お姉さんのところに戻れてよかったね」


と言いながら、俺が膝を折って視線の高さを合わせると、リルバネラは恥ずかしそうに口を開いた。


「ええと、その、クスノキ……さん、わたしを助けてくれて、お姉ちゃんと会わせてくれてありがとう。それと怖がってごめんなさい」


「どういたしまして。それと怖がってたことは気にしないから大丈夫だよ。それが普通だからね」


「……うん。それと約束、守るね」


リルバネラはそう言うと、いきなり俺の襟首をつかんで唇を頬に当てた。


ああそう言えば「お姉ちゃんを助けたらキスしてあげる」とか言っていたような……。


さすがに恥ずかしかったのか、リルバネラはその不器用な『約束』を遂行すると、すぐにそのまま姉の後ろに隠れてしまった。


「えっ!? ちょっ、リル、なにしてんのっ!? アンタまさかリルにまで変な事したのっ!?」


「いや違うって。人質になってるのを助けた時、バルバネラを助けたらキスしてあげるってリルバネラが言ってたんだよ」


「だからってそれをやらせるワケ!? 普通冗談で流すところでしょ!」


バルバネラは牙を剥きだして、俺の襟首をつかんで揺すってくる。


彼女は妹であるリルバネラを大切に思っているみたいだし、気持ちは分かるけど、子どものすることだからなあ。


「お姉ちゃん、約束を守っただけだから。何もされてないからわたしは大丈夫」


リルバネラが後ろから引っ張ってバルバネラをなだめる。


何度かそんな問答をすると、ようやくバルバネラは落ち着いたようだった。


「もうお姉ちゃん。お姉ちゃんもお礼を言うんじゃなかったの?」


「……そうだけど、今ので言う気がなくなったし……」


「そんなんじゃダメだよ、ほら」


幼い妹にうながされ、「うう~」とか唸りはじめる元魔王軍四天王。


彼女が「……ありがと」と言うまでに、結局10分ほどを要したのであった。

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