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月並みな人生を歩んでいたおっさんがゲーム的な異世界に飛ばされて思慮深く生きつつやっぱり無双したりする話  作者: 次佐 駆人


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20章 凍土へ(後編) 06

「師匠、とどめを刺さないとだめです!」


「待て、今攻撃しても無駄だ。魔王が真の姿にならないと恐らくとどめはさせない」


「えっ? 真の姿って何ですか?」


ネイミリアが首をひねっている間に、魔王の身体が青黒い瘴気(しょうき)をまといながら、ゆっくりと空中に浮かび上がった。


赤く輝く魔王の両の目が俺に向けられる。


「キサマ……余ノ真ノ姿マデ知ッテイルトハ、一体ドノヨウナ人間ナノダ……」


いやだってラスボスの魔王が変身するのはお約束だし……という言葉は飲み込んでおく。


「コノ姿ニナレバモハヤ後ニハ戻レヌガ、今回バカリハ仕方アルマイ。(ことわり)ノ遂行コソ我ガ使命。己ノ存在ヲ賭ケテデモ完遂セネバナラヌ」


青黒い瘴気が魔王の身体に開いた傷口から吹き出し、その全身を覆い隠した。


人型の瘴気の塊となった魔王は、次第にそのサイズを増していく。


一回り、二回りとシルエットが膨らんでいき……身長5メートルほどになったところで膨張は止まった。


瘴気が吸収されるように消えていくと、そこには部分部分が黒い鱗で覆われた、青い肌の巨人がいた。


ねじれた角が四方に突き出た頭部には黄色く濁った目が4つ輝き、その口には剣山のような歯が並ぶ。


元の美形壮年の面影は、そこには微塵も残っていなかった。


「魔王が変化した……。これがクスノキ様がおっしゃっていた真の姿なのですか……」


醜悪にして奇怪な魔王の姿を目の当たりにして、声を出せたのは年長のカレンナルだけだったようだ。


「そうだね、これを倒せば本当に終わるんだろう。皆、動けるかい?」


俺が声をかけると、驚愕の表情で魔王を見上げていた面々が、ハッと我に返った。


「だっ、大丈夫ですご主人様っ!」


ラトラが『聖剣ロトス』を構え直す。うん、今はそのまま突っ込んじゃだめだからね。


「コレガ余ノ力ダ!」


醜い巨人となった魔王が、胸を反らして息を吸い込むような動作を行った。


ブレスを吐く予備動作だと直感した俺は障壁魔法『地龍絶魔鎧(ぜつまがい)』を発動し、勇者パーティの前に壁を作り出す。


魔王は上半身ごと口を前に突き出して、極彩色のブレスを放った。


予想通りの四属性混合のブレス――だがその狙いは俺たちではなかった。


水平に放たれたブレスが伸びる先にあるのは北の砦。


魔王は少しでも人間に被害を与える方を選んだのだ。


「そっちかっ!」


俺は瞬時に九属性同時展開の暗黒球を生成、射出。ブレスを後ろから追いかけさせ吸収させる。


しかしすべてを吸収する前に、ブレス先端が砦に着弾する……その直前、砦前面に乳白色のヴェールがかかった。


そのヴェールに阻まれた魔王のブレスは急速に光を失い、塁壁の一部表面を吹き飛ばすにとどまった。


「何ダト!?『吸魔の器』ガ健在ダトイウノカッ!」


魔王の四つの目が見開かれ、牙がギリギリと音を立てる。


今の言葉でベルゲン大佐が魔王の指示で動いていたことは、状況証拠的には確定である。


しかしエイミとグリューネン司令官がうまくやってくれて助かった。どれほどのインチキ能力を持っていても、やはり俺1人ですべてをカバーするのは不可能だな。


「ヌアアッ、コレモ貴様ノ仕業カッ! ドコマデ余ヲ出シ抜クノダ異物メガッ!」


憎悪に狂った表情で魔王が巨大な拳を打ち下ろしてくる。ここで肉弾戦を選ぶあたり、もはや正常な判断もできていないのだろう。


俺はその拳を真正面から受け止めた。神がかった『剛力』『剛体』『不動』スキルがそれを容易く可能にする。


丸太のような腕を両腕でホールドし、全身をひねって魔王の腕をねじりあげ、全開の念動力をも駆使して青い巨人を一本背負いで投げる。


巨体が宙を舞い、背中から大地に叩きつけられる。轟音と振動、しかし勇者パーティで転倒する者はいない。


「攻撃っ!!」


「はいっ!!」


俺が叫ぶと、少女たちは弾かれたように倒れた魔王に魔法を放ち、斬りかかった。


カレンナルは真っ先に魔王の足を一本切断し、リナシャはメイスで頭部を滅多打ちにしている。


ネイミリアとソリーンの聖炎槍セイクリッドランスが上空から何十本も降り注ぎ、魔王の身体に突き刺さる。


「ウガアアァ!! 馬鹿ナ馬鹿ナ馬鹿ナァッ!!」


胸の上に乗り心臓を突き刺そうとするラトラを、魔王は腕で払おうとする。


しかしその腕は、すでに俺の大剣によって地面に転がされていた。


「ラトラやれっ!!」


「はいっ!! たああああっ!!!」


逆手に持った『聖剣ロトス』を天高く掲げた勇者ラトラは、その切っ先を一気に魔王の胸に突き下ろした。


『聖剣ロトス』は自らの存在理由を証するように、急所を守る鱗を貫き、その刃を宿敵の心臓に届かせた。


「ウゴァッ!! ガアアアァァァッ!!!!」


魔王の胸から突き出た『聖剣ロトス』の柄が輝きを放ち、その周辺から魔王の身体に光のひびが広がる。


その光のひびが魔王の全身を覆いつくすと、地を震わす断末魔とともに、魔王の巨体は黒い霧に還っていった。


残るは青黒い大剣と、12等級の魔結晶。


「やった! ご主人様、やりましたっ!!」


ラトラが満面の笑顔で俺のところに駆けてくる。


「ああ、ラトラよくやった。今度こそ俺たちの勝ちだ」


俺はその小さな体を抱きとめて頭をめちゃめちゃになでてやる。


魔王だった黒い霧が、宙に開いた黒い穴に吸い込まれていくのを見上げながら。






その後魔王軍の残党はバルバネラに率いられ速やかに撤退していった。


『千里眼』で見た限り兵士として出征してきた凍土の民は500人程であり、魔王軍の戦力のほとんどはモンスターであったことがうかがい知れた。


陣中には糧食を載せた荷車がそれなりの数あったので、彼らが集落に帰りつくまでに飢えることはないだろう。


砦からは追討の部隊が出てきたが、モンスターの背に乗って退却する凍土の民に追いつくのは不可能とみて、グリューネン司令官は早々に中止を命じた。


凍土の民が帰る場所が分かっている以上、また魔王を倒した以上、ここで無理に追撃する意味はない。


後日女王国から正式な使者を送り、敗者に賠償を求めればいいだけである。


こうして双方大きな人的被害を出すこともなく、魔王軍との戦いは幕を閉じたのであった。



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