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月並みな人生を歩んでいたおっさんがゲーム的な異世界に飛ばされて思慮深く生きつつやっぱり無双したりする話  作者: 次佐 駆人


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18章 邪龍討伐  04

結局のところ、結論としては女王陛下にはそのまま伝えるほかはないということになった。


ただし公爵閣下の方から陛下に「『邪龍』撃退は、『聖弓』の力によるところが大きい」と対外的に発表したらどうかと進言はしてくれるらしい。


それによって俺の持つ『力』そのものは多少誤魔化せるのだろう。


しかしいずれにしろ『聖弓』とその『使い手』を見つけた功績までどうにもならない。結局はまた首都に顔を出す羽目にはなりそうであった。


その時はもちろん今回の殊勲者であるネイナルさんも一緒ということになるだろうが、またネイミリアをなだめる必要があるかと思うと早くも胃が……。


とみぞおちのあたりをさすりながら、俺は公爵館を出て家路についた。


なぜかアシネー支部長とローゼリス副本部長は距離をとって、後ろの方でヒソヒソ話をしているのだが……女性同士の話に首をつっこむなどという自殺行為を行うほど俺は愚かではない。


すでに辺りは薄暗く、夕餉(ゆうげ)時ということもあり人通りは少ない。


俺が遠く鐘の音を聞きながら歩いていると、ふと隣に『気配』を感じた。


そう、「ふと」である。その『気配』は、俺の『気配察知』を完全に欺瞞(ぎまん)して現れたのだ。


『なぜだ』


咄嗟(とっさ)に飛び退こうとした俺の耳に、恐ろしいほどの圧を秘めた声が届く。


『なぜ邪龍を拒む。汝らに必要なものぞ』


俺の足はその声に絡めとられたように動かなかった。


何かのスキルか……とも思ったが、俺の勘がそれを否定。


これは『謎の存在の声を聞く』という強制イベントだ。


「……必要とはどういうことだ?」


『邪龍は汝らを間引くための『(ことわり)の遣い』ぞ』


「間引く? なんのために?」


『古より汝らは星を、世界を蚕食(さんしょく)する存在。間引かねば星が滅ぶ』


「『理の遣い』というのは、星を守る管理者の使いということか」


『然り。汝は理解が早い。『理』を受け入れよ。汝らという種の存続のために』


「悪いがそれは俺一人では決められない。しかし誰に相談しても恐らく断ることになるだろう」


『愚か。『理の遣い』は邪龍のみではない。(あらが)うほど苦しみが増えるのみ』


「たとえそうだとしても抗うだろうさ。今までもそうだっただろう?」


『然り。『理』に身を任せれば無駄に苦しまぬものを』


そこまで言うと、『気配』は一瞬にして夕闇に散った。


後ろを振り返ると、支部長と副本部長はまだヒソヒソ話を続けている。


なるほど俺にしか聞こえない声というわけだ。


さて、先程の気配、おそらく『星の管理者』みたいな存在だろうが、彼が言っていたことをまとめると次のようになる。


「人間は放っておくと星を破壊する。だから星の管理者としては、人間の数を一定数以下に減らしておかねばならない。『厄災』は人間の数を減らすための使い走りだ」


多分この世界の人間に言ったら腰を抜かすほど驚くような話だろう。


しかしまあ、前世のメディア作品群だと随分と使い古された設定なんだよなあ。正直聞いていて、「ありがちな話ですね」とか言いたくなってしまった。


ともかく、彼が俺に接触してきたのは、恐らく俺が『理の遣い』、すなわち『厄災』を圧倒する力を持っているからだろう。


俺が『厄災』をさっさと倒してしまうと、『人間を間引く』という彼の目的が果たせなくなってしまうわけだ。


だからといって恩着せがましく「黙って間引かれろ」と言うのもどうかとは思うが……。


溜息をつきつつ、俺は再び前を向き歩き始めようとした。


その足が止まったのは、再び強制イベント……というわけではなく、前方に見慣れた人影がいたからだ。


「……アンタに話があるんだけど」


けだるそうな声でそう言ったのは、紫髪を左右で束ねた美貌の女悪魔。


ダウナー系魔王軍四天王バルバネラであった。





「聞こう」


「……頼んどいてなんだけど、アンタ何も言わずに聞いてくれるんだね」


バルバネラは眠そうな目をすこし見開いた。


「君はここに長居できる身じゃないだろ? 手短に話してくれ」


「……そうだね。とりあえず魔素が集め終わった。魔王様がそろそろ動くよ。でも私たち全員がアンタたちと戦いたいわけじゃない。だから戦わないで済むように何とかしてほしいんだ」


「それは戦う意思のない、つまり魔王に従う気のない凍土の民を救ってほしい、ということでいいのか?」


「そうだね。『魔王派』……と呼んでるんだけど、そっちまで助けてくれとは言わない」


「どうすればいい?」


「私たち……『魔王派』に対して『隠棲(いんせい)派』って言うんだけど、私たちは人質を取られてるのさ。それを解放してほしい」


「なるほど。例えば君なら妹さんが人質ということか?」


「どうして……、ああ、あの時の話を聞いてたのか。抜け目ないねアンタ。その通りだよ」


「どこに捕らえられてる?」


「魔王城。ただし詳しくは分からない」


「分かった。確約はできないが、善処しよう。ただし成功した場合は後で何らかの報酬は要求させてもらうぞ」


「それは当然だね。妹以外なら渡すよ。……こんな話簡単に信じるのかい?」


「君も俺を信じたからここに来たんだろう?」


「……ちっ、そうだよ。アンタ変な奴だよ、なぜか信じていい気がしちまう……おっと、じゃあ頼むよ」


後ろから支部長と副本部長が近づいてくる。


それに気付いたバルバネラは羽を広げ、一瞬で夕闇の空に消えていった。


「今のはもしかして魔王軍の四天王ではありませんの?」


アシネー支部長が俺の横に来て言った。


「ええそうです。以前お話した召喚師のバルバネラですね」


「彼女がバルバネラ……魔王軍の四天王と親しげに何を話していたのですか?」


ローゼリス副本部長も反対側に並ぶ。


「そろそろ魔王軍が動くそうです。ついては『隠棲派』……反魔王派の凍土の民を助けてほしいということですね」


「お待ちくださいご主人様。少し理解が追いつかないのですが……そのような重要な情報を四天王から話に来るなど、いったいどういうことなのでしょうか?」


「彼女とは二度ほど会っていて、その時に友誼(ゆうぎ)を結んだというか……」


改めて聞かれると、バルバネラが俺を信用してあんな依頼をしにきた理由は俺自身よく分からないんだよな。


確かに力は見せつける形にはなったし、命を取らなかったから恩義的なものを感じているということもあるのかもしれないが……。


「そのあたりは後程詳しくお話しいただくとして、ケイイチロウ様がなぜ同じ四天王でも、バルバネラだけ逃がしたのか理由はよく分かりましたわね」


「なるほど確かに。美しい女性ならば魔王軍ですら落としにかかるとは、ご主人様の二つ名は『節操なし』の方がむしろ相応しいかもしれませんね」


左右からの冷たい視線とゴミ扱い視線が物理的に痛いレベルで俺に突き刺さる。


「いや彼女は何か訳ありに見えたからで、それ以上の理由はないのですが……」


「美しい女性には訳を忖度(そんたく)して差し上げるのですね」


「どこで訳ありと判断されたのでしょう?」


「それは彼女がキラキラキャラだったからです」とは間違っても言えないんだよなあ。


心の中で半泣きになりながら、俺は領主の館に引き返した。


いきなりこんな情報が増えたらさすがの公爵閣下もパンクしてしまうかもしれないが……そもそも重要キャラが連続で雑に接触してくる展開が悪いのである。


文句は是非そちらに言ってもらいたい。

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