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月並みな人生を歩んでいたおっさんがゲーム的な異世界に飛ばされて思慮深く生きつつやっぱり無双したりする話  作者: 次佐 駆人


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17章 エルフの里再び  04

「いきますっ」


勇ましい声とともに『聖弓』から光の矢が放たれる。


その鋭い光は一体の『邪龍の子』に突き刺さる……ことはなく、『邪龍の子』の群のはるか上を素通りして消えていった。


もう一度射るが、今度は下。うん、ネイナルさんやっぱり手が震えてるな。相手が『厄災』だから仕方ないのかもしれない。


「ネイナルさん落ち着いて、一緒にやりましょうか」


「すみません……。一緒にって、あっそんな……っ」


俺は背中から覆いかぶさるようにして、ネイナルさんの両手に自分の両手を重ねた。


二人羽織みたいにして射撃の補助をしようとしたわけだが……どうもスケベなテニスコーチ状態になっている気もする。


『聖弓』の攻撃だと気づいたのか『邪龍の子』の接近速度が上がっているからこの際気にするまい。


「さあいきますよ。大丈夫ですから落ち着いて」


「あうぅ……はいっ」


狙いをつけ矢を射る。


なるほど手に直接『魔力譲渡』をしていると、『聖弓』がいかに多量の魔力を消費しているのかがよく分かる。


放った光の矢が一体に命中、その『邪龍の子』は光の粒子となって消滅した。


「やった、当たりました!」


「やりましたね。この調子でいきましょう」


次々と矢を放ち、さらに数体の『邪龍の子』を光に還す。


そこでブレスの射程圏内に入ったのか、いまだ十体以上残っている『邪龍の子』が火球を一斉に放ち始めた。


「ケイイチロウさん! ブレスが!」


「ブレスは全部防ぎます。ネイナルさんは射続けてください」


俺は『九属性同時発動』スキルによってブラックホール的暗黒球を生成、上空に固定する。


飛来する火球の軌道を念動力で少しずらしてやると、火球はすべて暗黒球に吸い込まれていった。


「ケイイチロウさんすごいですね……。私はもうダメみたいです……」


腕の中でネイナルさんが何やら危険なセリフを言っているような……見ると大きく肩で息をしている。


「魔力は大丈夫なのですが、体力も消耗するみたいで……」


「すみません、それは考えていませんでした」


これだけ強力な武器だ、魔力以外の消耗も考えるべきであった。


俺は力を失う寸前のネイナルさんの身体を抱え、上空に目をやった。


『邪龍の子』は7~8体にまで減っている。初めてと考えればネイナルさんは十分に頑張ったと言えるだろう。


俺は上空の暗黒球を『邪龍の子』に向けて射出する。


暗黒球はブレスごと残りの『邪龍の子』すべてを飲み込むと、そのままはるか上空まで上っていき爆発四散した。


『気配察知』の感が完全に消える。これでひとまず襲撃イベントは終わりのようだ。


『聖弓』をインベントリにしまいネイナルさんをお姫様抱っこしていると、ユスリン女史が近づいてきた。


「さっきのはケイイチロウ殿の魔法なのか? ブレスやドラゴンを吸収する魔法など聞いた事もないのだが」


「九属性を同時に発動するとああなるみたいです」


「九属性同時発動だと? 四属性同時なら『厄災』が使うと聞いた事はあるが……」


ユスリン女史が絶句する。九属性だけでもとんでもない話であるから、それを同時発動など埒外(らちがい)の現象もいいところであろう。


「師匠、こちらは大丈夫でした。あっ、お母さんどうしたの!?」


ネイミリアが顔色を変えて小走りに寄ってくる。


「『聖弓』の使い過ぎで体力を消耗してしまったみたいなんだ。多分大丈夫だと思うけど、家でゆっくり休ませてあげよう」


「よかった、何かあったのかと……ん、お母さん……?」


ネイミリアが俺の腕の中にいるネイナルさんの顔をじっと見て、急に目つきを険しくした。


「……怪しい。師匠、多分お母さん歩けますよ」


「え、いや、そんなことはないと思うけど……」


「いえ、目を合わせないようにしてるときは何かウソをついてるんです。多分師匠に抱っこしてもらいたくて弱ったように装ってます」


「もう、ネイミリアちゃんはいつからそんな風に私を疑うようになったのかしら……?」


そう言いながら、ネイナルさんは両腕を俺の首にからめてきた。


「ケイイチロウさん、体力を使ったのは本当なんです。このまま家までお願いしますね」


「あ、分かりましたからあまり力を入れて抱き着かれると……いえなんでもありません」


遅れてやってきたラトラとエイミまで半目でこちらを睨み始めたのを見て、俺は余計なことを言うのをやめた。


とりあえず何も気づかないフリをしよう。それが今できる最善の行動である。






『邪龍の子』襲撃の翌日。


「では里長、行ってまいりますね」


「うむ、ケイイチロウ殿がついていれば問題はあるまいが、気をつけてな。里長でなければ私も一緒に行きたいところなのだが残念だ」


里の入口前でネイナルさんとユスリン女史が挨拶を交わす。


もともと3日ほどを見ていた調査だが、すぐに『聖弓の使い手』が見つかったために早めの切り上げとなった。


もちろん、『聖弓』の存在を感知した『邪龍』が、本格的に活動を始めるだろうと考えてのことでもある。


なぜかネイミリアとラトラとエイミが早く戻ろうと主張していたのも理由としてはあるのだが……。


「ケイイチロウ殿、今回は事情もあって短い滞在であったが、必ずまた里に来てほしい。次は長期滞在の予定でな」


ユスリン女史が俺の方に向きなおって強い調子でそう言った。


見送りに来ていた他のエルフ(全員女性)も、その言葉にしきりに頷いている。


「ええ、『邪龍』の討伐が終わったら一度ネイナルさんをこちらに送り届けることになるでしょうし、その時はもう少しゆっくりしたいですね」


「うむ、ぜひそうしてくれ」


と言いつつ、ユスリン女史は俺の側まで来て「その時はネイミリアや他の娘はなしでな」と耳打ちしてきた。


離れ際にウィンクまでされたのだが……これもエルフの習俗か何かなのであろうか?


ウチの娘3人の視線が急に刺さり始めたということは、何かまたマズいことを俺がしてしまったということかもしれない。


その後ユスリン女史たちに別れを告げ、俺たちは森を抜けロンネスクに向かった。


ただ森を走る際、ネイナルさんが俺たちについてくることはさすがに難しく――


「ケイイチロウさん、重くはありませんか?」


「いえ、むしろ軽いくらいですね」


俺はネイナルさんを腕に抱え、森の中を走ることになったのであった。


さすがに露出の少ない服に着替えてはもらったが、その暴力的な柔らかさまではいかんともしがたく、俺は木石と化して対応していた。


いやだから、木石と化しているので、そんな冷たい目で見るのはやめてくださいね3人とも。

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