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月並みな人生を歩んでいたおっさんがゲーム的な異世界に飛ばされて思慮深く生きつつやっぱり無双したりする話  作者: 次佐 駆人


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16章 セラフィからの手紙  04

「私が依頼主のトリスタンだ。この地の領主でもある。依頼を受けてくれて感謝する」


鋭い視線を俺に向けるトリスタン侯爵は、そこにいるだけで周囲に威圧感をふりまくような雰囲気を漂わせていた。


以前ちらりと見た時はそこまで感じなかったが、これが領主として本来の姿なのだろう。


「俺はスミスと言う。済まないが敬語は話せない、許してほしい」


「重要なのはハンターとしての腕だ。気にする必要はない」


「そちらの方は自信がある。報酬分の働きはしよう」


「期待している。ふぅむ、そうだな、私はここに身体を動かしに来たのだが、少し相手をしてもらえぬか」


そう言って侯爵は腰に()いた長剣に手を当てた。見ると軽装であり、確かに運動をする格好である。


後ろには侯爵の(そば)仕えと思われる青年が立っているのだが、彼が特に顔色を変えない所を見るとこれは『いつものこと』なのだろう。


「構わない。普通に剣を使っていいのか?」


「無論だ。後ろにいる者は落ちた腕ぐらいなら魔法で戻せる。私もそれなりに剣には自信があるゆえ手加減は必要ない」


「分かった」


俺と侯爵は訓練場の真ん中に行き、距離を取って向かい合う。


侯爵の抜剣から構えまでの動きには無駄がない。構えと同時に刺さるような冷気が(ほとばし)る。


侯爵が高位の剣士であるのは間違いなさそうだ。


俺も侯爵に(なら)って長剣を構える。いつもの大剣でないのは、少しでも『クスノキ』とは違う印象を持たせるためだ。


「参る」


侯爵の姿がブレるように眼前に迫る。『縮地』を使う貴族がニールセン子爵以外にいるとは驚きである。


鋭い一撃を受け止め、そのままの勢いで俺も一撃を返す。


それを侯爵が受け止めると、剣士としての互いの挨拶は終わりだ。


そこから始まるのは高レベル者同士の、嵐のような斬撃の応酬。


地を滑り、風を切って有利な位置を奪い合い、身体が交錯するごとに銀光が重なり弾け合う。


侯爵の剣撃は速さ、重さ、正確性ともに極めて高い。


総合力では『王門八極』にも比肩するレベルであろう。


なるほどこれは普通の1段位ハンターでは相手にならない。部下が慌てないのも納得である。


俺は剣を合わせながら、さてこの突発イベントをどう処理するかと少し悩む。


わざと負けても恐らくバレる。なにしろこの程度では汗一つかかない身体である。


となると、侯爵が満足するまで付き合うしかないか。


侯爵と打ち合うこと十数分、強烈な一撃を見舞ってきたと思ったら、侯爵は大きく距離を取った。


俺もそれに合わせて下がる。どうやら十分に「身体を動かす」ことができたらしい。


「ふぅ……、ここまでとしよう」


侯爵が剣を納め、俺もそれに倣う。


息を整えると侯爵は目を細め、肩を揺すって笑いはじめた。


「くくっ、ふははっ、ここに来て貴殿のようなハンターが現れようとはな。私でも勝ち筋が見えぬ剣士がいるとは、世の中も広いものだ」


そういうと侯爵は握手の手を伸ばした。


「スミス殿、私は貴殿のような者の力を欲しているのだ。今回の依頼では貴殿の力を頼ることが多くなるかもしれん。無論その分の報酬は約束しよう。今後ともよろしく頼む」


「俺にできることなら」


握手を返しながら、俺はこの侯爵もまた強い信念を持っているのだろうと感じずにはいられなかった。そうでなければ、これだけの剣技を修められるはずがない。


イレギュラーな存在である自分がそれを阻むことに、いくばくかの罪悪感を抱かないではない。


とはいえ、あの(はかな)そうなセラフィの姿を思い出すと、侯爵の在り様は決して肯定できるものではないのも確かであった。





それからダンジョン調査当日までは特に動きはなかった。


同じ宿舎の1段位ハンターとは顔見知りにはなったが、この件が解決したら『スミス』は消滅する人間であるので深い付き合いは避けた。


そして当日、俺はトリスタン侯爵領の南部鉱山地帯にある、とある坑道の入り口の前に立っていた。もちろん調査隊の一員としてである。


「この坑道がダンジョンの入り口となる。事前の打ち合わせ通り、わが軍の斥候及びハンター諸君に先行をしてもらう。3階層までは3から4等級のモンスターが出現するが、諸君なら問題はあるまい。今日は3階層への階段前で一泊する予定であるので、そこまではたどり着きたい。よろしく頼む」


調査隊の隊長は領軍の大隊長らしい。今回参加する領軍兵士は50人しかいないのでかなり異例の人事であるが、それだけ重要な任務ということだ。


30人の兵士はひと固まりになっているが、その真ん中あたりに異質な二つの気配がある。


一つはシルフィ、一つは闇魔法を操る灰魔族だろう。兵士に阻まれて残念ながらその姿は見えない。


「では斥候が先導するのでハンター諸氏はその後をついていってくれ。行動開始!」


二人の身軽そうな兵が坑道に入って行き、俺たち12人のハンターがそれに続く。


少し間をあけて後ろから一団となった兵士がついてくる。彼らは基本的にシルフィを護衛する兵ということなのだろう。


坑道をしばらく進むと、周囲の雰囲気がいきなり変化した。


岩壁の道が急に神殿のような石積みの通路に変わり、幅も横に4~5人並んで歩けるくらいに広がったのだ。


ニールセン子爵領でセラフィが祈りを捧げていた『闇の皇子』のダンジョンと同種のものに違いなかった。


「前方モンスター複数あり。対応頼む」


先行していた斥候が戻ってくる。


「通路だと厄介だな。スミス一人でいけるか?」


ハンター側のリーダーは、俺より先に依頼を受けていた1段位のヨザリク氏だ。


30代のベテランで、とあるパーティのリーダーをしていたが、そのパーティが解散となって侯爵領に身をよせたらしい。


実は俺が侯爵と手合わせをしているのを偶然見ていて、「頼りにする」と言われている。


「問題ない」


俺が前に出ると、奥からオークソルジャーが3匹走ってきた。鎧袖一触、長剣で3つの首を飛ばす。


「3等級とはいえ3体を一瞬か」


「ヨザリクが言ってたのは嘘じゃないようね」


残り2人の1段位ハンターが感心したように言う。彼らも侯爵と剣を合わせたらしいが、結果は(かんば)しくなかったようだ。


「アイテムは我々が回収する。そのまま先に進むからついてきてくれ」


領軍の斥候がドロップアイテムを回収し、そのまま奥に向かって歩き始めた。

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