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月並みな人生を歩んでいたおっさんがゲーム的な異世界に飛ばされて思慮深く生きつつやっぱり無双したりする話  作者: 次佐 駆人


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14章 勇者パーティ(前編) 07

翌日、特に問題もなく9階層は踏破できた。


気になったのはボス部屋で出現したのが『ロイヤルガードゴーレム』というモンスターだったことだ。


これはあの『邪龍』の山ダンジョンの山頂手前で出てきたモンスターであり、それを考えると10階層が最下層である可能性が高いということになる。


そして同時に、そこで待ち構えているのが『厄災』関係のモンスターである可能性が高いということをも示していた。


「師匠、どうしますか? 一気に10階層まで攻略してしまいますか?」


10階層へ下りる階段の前で立ち止まった俺にネイミリアが聞いてくる。


「そうだな……」


時間的にはこのまま進んでも問題ない。しかし『邪龍』の山ダンジョンのことを考えると、どうにもまた妙な強制イベントが始まるような予感がしてならない。


勇者パーティはかなり強くなってはいるが、8等級以上が出てくる『厄災』関連イベントはまだ危険度が高すぎるだろう。


「いや、予定通り一度戻ろう。恐らくこの先が最下層だけど、俺の経験からいって8等級以上のモンスターが出る可能性が高い」


「……私たちではまだ早いと言うことですね」


俺の意を汲んでエイミが応答する。


「クスノキさんがいれば楽勝な気もするけど、他にも何かありそうなの?」


「罠とか……でしょうか?」


リナシャとソリーンの言葉に頷いて俺は言った。


「それもある。一旦戻って、もう少し強くなってから準備をしてまた来よう。皆には悪いが、もしかしたら俺一人で攻略することになるかもしれない」


正直な話、可能ならそれが一番簡単な解決法である。でも恐らくそれは許されないだろうという気もするのだ。


『イレギュラー』な俺ではなく、『この世界の誰か』が巻き込まれないとイベントが進まないという妙な確信。でも結局解決してるのは俺だから、ちょっともやもやするんだよなあ。





2日かけてロンネスクまで戻った俺たちは、城門で一旦解散した。一応、2日間休息を取り再度ダンジョンに潜る予定でいてほしいと伝えておく。


聖女一行は教会に戻り、ネイミリアとラトラとエイミは家に向かう。


俺は報告があるので、そのままハンター協会に足を向けた。


夕暮れ時の協会前の通りには、狩りを終えたコスプレ軍団が多数練り歩いている。


その通行を邪魔するように、一台の馬車が協会の入口前に停まっているのだが……馬車が明らかに貴族のものであるのを見て、俺はそのまま帰りたい気分になった。


実際の所、協会建物の中から「困ります」というサーシリア嬢の声が聞こえなかったらそのまま帰っていたかもしれない。


「私は貴方のような美しい女性は見たことがないのですよ。この出会いは間違いなく神の導き。是非とも今夜は私のところにおいでいただきたいのですよねえ。これでも末は子爵になる身、貴方にとってもよいお話と思いますよ。是非是非色よいお返事を」


協会に入ると、やはりというか、果たしてというか、そこにはサーシリア嬢に言い寄っているギラギラ青年貴族……ケルネイン子爵の長子ボナハの姿があった。


そこそこのイケメン顔に好色そうな笑みを張り付かせたボナハ青年は、カウンターに身を乗り出して、美人受付嬢に手を差し出している。


「ですから、何度お誘いされてもお断りいたします。今は就業中なので、御用がなければお引き取りください」


その手が届かないところまで下がって、サーシリア嬢は拒否の姿勢を示していた。いつもならこの手の誘いはそれとなくかわすはずだ。あそこまできっぱり言うのは、よほどしつこくされているからだろう。


他のハンターたちが遠巻きに見ているのは、さすがに貴族相手だと口を出しづらいからか。それともボナハ青年の後ろに立つ、腕の立ちそうな2人の制服武官を気にしてか。


「もちろん、仕事が終わった後は私のところに来てくれると一言おっしゃっていただければ、すぐにでも本来の用事に戻ります。それゆえなにとぞここで契りの言葉を」


「ああ、お話中のところ申し訳ありません。そちらの受付嬢に仕事の報告があるので、個人的な用件なら後にしていただきたいのですが」


仕方がないので声をかける。どうせこの後嫌でも顔を合わせないとならない相手だ。


ボナハ青年付きの2人の武官……男女のペアだった……が一瞬だけ構えを取り、それに遅れてボナハ青年がこちらを振り返る。


「君ぃ、今私が取り込み中だと言うことを分かって割り込んでいるのだろうねえ。私が誰であるか知っていたら、そのようなことは言えないのだがねえ」


「ケルネイン子爵のご子息、ボナハ殿でしょう。ニールセン子爵領で一度お会いしましたので覚えております」


俺がそう言うと、ボナハ青年は一瞬目を細め、次の瞬間にはその目を最大限にまで見開いていた。


「きさ……貴殿はあの時の……!? 我がアメリアを狡猾にも奪い取った貴殿が、どうしてここにいるのかな?」


「ロンネスクは私の活動拠点ですので。それよりもボナハ殿は協会の支部長に用事があるのではありませんか?」


「それは後でも良いのですよ。今私にとって最も大切なのはこちらのご婦人なのです。邪魔をしないでいただけませんかねえ」


「ロンネスクの安全に関わる重要な報告がありまして。申し訳ありませんがこちらが最優先事項ですので、どうかご理解を」


俺がちらりと目配せすると、サーシリア嬢はニッコリと笑った。


「まあケイイチロウさん、お仕事お疲れ様です。支部長がお待ちですのでご案内いたしますね」


「待ってくれたまえよ。私の誘いに対する答えをまだ聞いていないのだがねえ」


ボナハ青年の言葉に、サ―シリア嬢のニッコリ顔が一瞬で無表情になる。その豹変ぶり、滅茶苦茶怖いんですが……。


「すでに何度もお断りしています。ケルネイン様、もし支部長に用がおありでしたら他の者が控室に案内いたしますのでそちらでお待ちください」


「随分とその者との間で貴方の対応が違うように思うのだがねえ。業務上問題があるのではないのかな? あまりに無礼な態度を取られると、こちらとしてもしかるべき対応を……」


「ケイイチロウさんはロンネスクにとっても、協会にとっても、私にとっても大切な方ですので。業務の妨害をされる方と対応が異なるのは職務上当然のことです」


「んな……っ!?」


えっちょっと待ってくださいサーシリアさん。今「私にとっても」とか必要ない言葉を強調して言いましたよね。そこまで露骨に弾除けにしなくてもよくありませんか。


ほら、ボナハ青年がすごい顔でこっちを睨み始めたんですけど……。


「きっ、貴殿はまたしても私の邪魔をするというのか!? あの姉妹を卑劣な手段で手に入れておきながら、こちらのご婦人にまで毒牙にかけようとは。恥を知りたまえよっ!」


「あの姉妹ってアメリア団長と……その妹の『極炎』メニルのことか?」


「まさか両方手を出してたとはな。さすが『美女落とし』、エゲつないぜ」


「サーシリアって普通に彼と同棲してるんでしょ。エルフの女の子も一緒みたいだし」


「しかも支部長まですでに攻略済みって噂もあるからな。3段位は何でもありか」


ちょっ、ギャラリーの皆さんが恐ろしいことを言い始めてる気が……このままでは俺の社会的地位が大崩壊しかねない。


「とにかく私は報告に上がりますので失礼いたします。そこまで時間はかからないと思いますので、お待ちいただいた方がよろしいかと思います」


俺はサーシリア嬢を急かして、支部長室へと向かった。


階段を上る途中で「姉妹を手に入れたってどういうことか後で説明していただきますね?」と言われて背筋に冷たいものが……。


サーシリアさん、感情のないニッコリ顔なんて器用な真似ができるんですね。でも俺の胃が恐怖で縮みあがるので1回限りにしてくださいお願いします。

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