13章 → 14章
―― サヴォイア女王国 首都ラングラン・サヴォイア
ラングラン・サヴォイア城 仮女王執務室
「陛下、定時報告でございます。今回は少し量が多うございます」
「ふう、色々あったばかりだというのに休む暇もないな」
「仰る通りとは思いますが致し方ないかと。真に陛下が無事でようございました」
「ロイド爺にとってはそうかもしれんがな……。まあ余としても、あそこで魔王の虜囚となるよりはマシではあるか。では報告を聞こう」
「は。まずは例の侯爵ですが、やはり怪しい動きが目立ちますな。彼の領のハンターが多く他領に出入りしている他、灰魔族を含めた裏の人材の動きも激しいようです。彼の娘も度々出かけるところが目撃されております」
「叔父上とニールセン子爵からの情報の通りか。『闇の皇子』の軍勢は現れているのか?」
「いえ、そちらは確認されていないようですな」
「娘がニールセンに保護された関係で、しばらくは大人しくしているつもりなのかもしれんな。引き続き監視をさせよ」
「はっ。次に『厄災』と対になる存在についてですが、『魔王』に対する『勇者』、『穢れの君』に対する聖女は再確認がとれております。また『邪龍』に対しては『聖なる弓とその使い手』が、『悪神』に対しては『神器』が、『闇の皇子』には『光の巫女』が対応するという記述が見つかったようです」
「なぜその話が今まで見つからなかったのだ?」
「古い国々の正史には記載がなかったようですな。何らかの理由、恐らく後を継いだ王家にとって都合の悪い事実でも含まれていたのではないかと」
「なるほど、いかにもありそうな話だ。それと『厄災』にはもう一つ、『奈落の獣』というのがいたな。そちらはどうなのだ?』
「それに関しては特にこれといった記録がないようです。ただ、『奈落の獣』は美味なものに大変弱いとか」
「なんだそれは?」
「『奈落の獣』は記録にある限り3度歴史に登場するのですが、いずれも美味につられて誘い出され、そこを勇士たちに退治されておるのです」
「ふぅむ……。特定の何かが必要と言うのでなければ、その方がやりやすくはあるな」
「そうでございますな」
「うむ、いずれにせよ早くに記録が見つかったのは重畳、研究員を誉めてやれ」
「有難いお言葉ですな。彼らも喜びましょう」
「次はそれらの在処を探すことになろう。すでに動いているか?」
「陛下の御下命があればすぐにでも」
「さすが爺だな。すぐに取り掛かってくれ。次は何だ?」
「ははっ。次はロンネスク近郊に大規模なダンジョンが出現したとの情報です。今のところ氾濫などの兆候はなく、騎士団とハンターを中心に調査中とのことです」
「大規模とは?」
「今のところ6階層まで確認されているようですな。6階層には5・6等級のモンスターが多く、そこで調査が難航しているとのこと」
「ロンネスク付近は何かと『厄災』の兆候が多いようだな。叔父上も大変ではあろうが……クスノキが帰ればそれは解決しそうだな」
「そうですな。彼の御仁がいれば問題はありますまい」
「ほう? クスノキに対するロイド爺の評価はやはり高そうだな」
「今回接してみて、報告にあった能力が確かであると確認できましたからな。人柄についてはあれだけの力を持つ人間としては妙に不釣り合いな部分がありますが、信用に足る人物と見受けられましたので」
「そうだな、『厄災』と何か関係があるかと思ったが、どうやらそれは杞憂であったようだ。むしろあれほど善良な人間もめったにおるまいよ。理性的かつ理知的な人間でもあるようだし、頭もそれなりに切れそうだ」
「善良なだけに貴族社会の理解が甘いのは危険かもしれませんな。彼が今後気を付けるべきは『厄災』よりも『人』かもしれませんので、エイミをつけたのは御英断かと。どうやら女性には大層弱いようですので」
「ん、その話は初めて聞くが、弱いとはどういう意味だ?」
「あれだけの力をもった人物ですからな、自然と女性も寄ってこようというものです。すでに『王門八極』メニルとクリステラ、さらには『黒雷』ローゼリスまでもが彼に近づいておるようです。さらにはロンネスクの『魔氷』アシネー、メニルの姉アメリア、それから教会の聖女2人とその従者それに……」
「待て待て待て、数が多い上に聞いた名が並ぶではないか!? メニルとアメリアについて話は聞いてはいるが、あれは裏のある話だったはずだぞ?」
「エイミにはその辺りの真偽も調べるように申しつけております」
「そうか、抜かりはないな。しかしあれほどの男なら仕方ないのかもしれんが、あまり側室が多くなるのも困りものだ。どこかで釘を刺さねばな」
「……陛下、今何か妙な事を仰いませんでしたかな?」
「可能性の話だ。あの男が子爵なぞで終わるとも思えんからな。候補の一人にはなろうよ」
「それはそうかも知れませんがな……今のは聞かなかったことにさせていただきますぞ、陛下」




