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月並みな人生を歩んでいたおっさんがゲーム的な異世界に飛ばされて思慮深く生きつつやっぱり無双したりする話  作者: 次佐 駆人


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13章 首都 ラングラン・サヴォイア(後編)  06

ヘンドリクセン氏の許可を取った俺は、行政府の屋上に出ると、そこから『瞬間移動』でまずは城を囲む城壁の上に移動した。


俺が出現すると、城壁の上で警戒をしていた兵が慌てて俺を取り囲む。しかし今は彼らの誤解を解いている余裕はない。というか「許可をもらって『瞬間移動』しました」などと言って信じてもらえる可能性はゼロだろう。


俺は『瞬間移動』再発動可能の時間を見計らって再度『瞬間移動』、6枚翼の人物が開けた穴の中に移動をする。


その穴の周辺は、かなり強大な力で外部から破壊されたような跡になっていた。何人かの人間が間違いなく巻き込まれているであろうが、今は救助をしている暇はなかった。


そのまま奥に向かって駆け出す。


件の人物は壁を破壊しながら進んでいたようで、後を辿(たど)るのは難しくなかった。


ちなみに、この奥にいるであろう6枚翼の人物が『魔王』であるというのは実は単なる予想である。『千里眼』で見た後姿がどうにもバルバネラら凍土の民の上位者のように見えたからそう判断したすぎない。しかしまあ恐らく間違いないだろうと、前世のメディア作品群の知識が(うなず)いている。


前方で激しい魔法と剣戟(けんげき)の音、俺がその広い部屋に踏み込むと、ちょうど黒い鎧の剣士……クリステラ嬢と、筋肉の塊のような髭面(ひげづら)の戦士が吹き飛ばされたところだった。


吹き飛ばしたのは中央にいる6枚翼の男、片手をクリステラ嬢らに向けているのは魔法を行使したからだろう。


部屋の周囲には女王陛下の近衛兵と思われる者たちが倒れ伏しており、クリステラ嬢らから離れたところには、クロウ少年が立っていた。


邪な笑みを顔に張り付かせているクロウ少年は、片手に血にまみれた剣を持ち、反対の肩に女性を担いでいる。高級そうなドレスを着た女性はぐったりとして動かない。


……なるほど大体状況はつかめたが、あと一歩確証が欲しい。




-----------------------------

魔王の影


スキル:

剛力 剛体 不動

四属性魔法(炎・水・風・土)

四属性同時発動 

気配察知 物理耐性 魔法耐性

魔力上昇 魔力回復 並列処理

瞬発力上昇 持久力上昇 

縮地 高速飛行 再生 回復 


ドロップアイテム:

魔結晶10等級 

魔王城の鍵

-----------------------------




解析によると目の前の男は魔王本体ではないらしい。人間に近い姿ではあるが、ステータス表示からしてモンスター扱いの存在のようだ。


「何ダ貴様ハ」


六枚翼の男……『魔王の影』は首と手を俺に向けた。誰何(すいか)した割には問答無用で魔法を撃つつもりらしい。


「陛下が人質にっ!」


クリステラ嬢が叫ぶ。クロウ少年が裏切ったことを伝える言葉。それは俺が今一番知りたかった情報だった。


『瞬間移動』を発動、女性を担いだクロウ少年の背後に移動。


背中に向けメタルバレットを射出。大口径徹甲弾は少年の胸を貫通し、そのまま『魔王の影』にもダメージを与える。


クロウ少年……魔王軍四天王クロウは崩れ落ちるように倒れ、その姿は角と翼と尻尾が生えた凍土の民のそれに戻った。


肩に担がれていた女性はもちろん落ちる寸前で受け止めている。俺はその女性をクリステラ嬢のところまで運んでいき、『魔王の影』と対峙(たいじ)した。


「四天王ヲ一撃トハ……。シカモ今ノ動キ、我ガ捕捉デキヌナドアリエヌ」


ダメージから回復した『魔王の影』が、両手を脇に広げながら俺を(にら)む。


一見すると青白い肌の、壮年の男である。赤く輝く双眸(そうぼう)と、禍々しい刺青(いれずみ)がその整った顔をいろどっている。


「トリアエズ死ネ」


『魔王の影』の両手からおびただしい数の火箭(かせん)が放たれる。高レベルの『並列処理』を駆使した『スパイラルアロー』の超高速連射。


俺はそれを同じく『ウォーターレイ』の超高速連射で全て相殺。


インベントリから大剣を取り出し付与魔法を行使。


『縮地』で一気に距離を詰め『魔王の影』に斬りかかる。


「ヌウッ!」


『魔王の影』の手に瞬時に青黒い剣が出現、俺の剣を受け止めようとする……が、俺のインチキ付与魔法剣は、その剣ごと腕を斬り落とす。


「バカナッ!」


黒いコートを翻し、両腕を失った『魔王の影』は『縮地』で距離を取る。


取りながら『ファイアランス』『エターナルフレイム』『ウォーターレイ』などを連続発動するが、俺はそれらすべて相殺。


『魔王の影』が両腕をこちらに向ける。すでに腕が再生しているのは、さすがに偽物とはいえ魔王の名を持つモンスターと言うべきか。


その両腕の先に、極彩色の光球が3つ生まれる。四属性同時発動による破壊魔法『カオススフィア』。四天王ゲイズロウが使っていた魔法だ。


あれがここで着弾したら、恐らく城の上部はまるまる吹き飛ぶだろう。『魔王の影』は女王陛下を誘拐するつもりだったのをもう忘れているらしい。


「貴様ハ危険ダ。コノ場デ消滅サセテクレル!」


光球が発射される。三つの光球は、螺旋を描いて俺に迫る。


九属性同時発動、念動力収束――


俺の眼前に虚無の穴が出現。周囲の景色を歪めながらその場にわだかまる。


その穴は飛来した三つの光球を一瞬で吸い込むと、何事もなかったかのように消滅した。


ゲイズロウ戦で使って以来、切り札になると確信した俺は、この魔法の制御を完全にマスターしていた。攻撃魔法として使用すると前世の戦術兵器級の威力があるためおいそれとは使えないが、防御面では非常に有用な魔法である。


「……ッ!? 何ガ起キタトイウノダッ!」


再び『カオススフィア』を発動させようとする『魔王の影』。


俺はその背後に『瞬間移動』、大剣で脳天から股間までを一気に斬り裂いた。


「信ジラレヌ……。ダガ貴様ハ勇者デハナイ。貴様デハ魔王タル我ハ倒セヌ……ッ」


真っ二つにされながらもそれだけ言うと、『魔王の影』は黒い霧となり、その場には10等級の魔結晶と、青黒い色をした鍵が残された。







その後、ヘンドリクセン氏指揮の下速やかに事態の収拾が行われた。


『魔王の影』襲撃時にはやはり犠牲が出てしまったようだが、息のあるものは俺が生命魔法で治療を行なったので、被害は最小限に抑えられたのではないかと思う。


あの場所にクロウ少年がいたことについては、クリステラ嬢に事情を聞いた。


クリステラ嬢は俺からクロウ少年の正体について聞いた後、その話をすぐに女王陛下に奏上(そうじょう)したらしい。


そこでもう一度王家の魔道具でステータスを確認するという話になり、あの日城に呼ばれていたのだという。


恐らく怪しまれていることを察したクロウ少年が密かに魔王と連絡を取り、強硬手段に出たのではないかという話であった。


クロウ少年が偽の勇者としてどこまで活動するつもりだったかはすでに闇の中だが、女王陛下を誘拐するというプランはもとからあったのであろう。


俺の存在がその計画を早めた、という事なのかもしれない。


「結果として君が首都にいるうちに行動してくれて助かった、ということは言えるかもしれないね」とはクリステラ嬢の弁である。


なお、あの場で助けた女性はやはり女王陛下であったようだ。


俺が戦いを終えた時にはすでにあの場から運び出されており、ご尊顔を拝する余裕はなかったが、陛下自身は大きな怪我などもなく、すぐに職務に復帰されたとのことであった。


さて、そのような大事件もあり、俺の『恩賜(おんし)の儀』は無期延期になるのかと期待していたのだが……


襲撃の日から2日後、俺は城の謁見の間にて膝をついて(こうべ)を垂れていた。


大型の劇場並みに広い部屋には鮮やかな青の絨毯(じゅうたん)が玉座まで伸びており、俺はその上で1人かしこまっている状態である。


左右には城勤めの貴族と思わしき人たちが並んでいるが、頭を下げている俺には、彼らがどのような表情でいるのかを見ることはできない。


「リュナシリアン・サヴォイア女王陛下の御成りである」


しばらくすると呼び上げとともに謁見の間の玉座の脇の扉が開き、4人の人間が入ってくる。


彼らはゆっくりと進み、1人は玉座に座り、1人はその脇に立ち、2人は玉座の左右に少し離れて立った。


広い謁見の間に、空気が硬質化したかのような緊張がみなぎる。


これが絶対的な権力者の与える重圧か……と、もと現代日本人としては他人事のように感じてしまうのはきっと良くないことなのだろう。


「これより恩賜の儀を執り行う。騎士爵ケイイチロウ・クスノキ、面を上げよ」


「は」


典礼官の声に従って俺はゆっくりと顔を上げ、目の前の4人を確認した。


1人はクリステラ嬢、1人はおなじく『王門八極』の1人、ドワーフ族のガストン・ドータム氏。


ドータム氏は、魔王襲撃の時クリステラ嬢と一緒に吹き飛ばされていた髭面の筋肉戦士である。


そしてもう1人はヘンドリクセン氏、そしてもう1人は――


「クスノキよ、10日ぶりだな」


まあ正直予想はしていたのだが、玉座に座っていたのはやはりあの深窓の令嬢風金髪碧眼の美少女、リュナス嬢であった。

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