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月並みな人生を歩んでいたおっさんがゲーム的な異世界に飛ばされて思慮深く生きつつやっぱり無双したりする話  作者: 次佐 駆人


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13章 首都 ラングラン・サヴォイア(後編)  04

「今日は助かったよクスノキ。おかげでウチの連中も一皮むけた気がする。やはり外部から刺激を入れるのは大切だね」


依頼を終え、練兵場を辞した俺は、少し疲れた心を引きずりながら通りを歩いている。


心が疲れているのはクロウ少年の件もあるが、今隣を歩いているクリステラ嬢の存在も大きかった。


「役に立てたのはよかったけど……どうしてその格好なんだ?」


「何か変かな?」


そう言ってポーズを決めるクリステラ嬢は、なぜか女装……ではなくて、女性の姿に戻っていた。白を基調とした儀礼服のようなスーツ。下半身はスカートではなくズボンだが、全体的にタイトな服らしく身体のラインがはっきり現れている。

そのプロポーションは鎧姿からは想像もつかないほど女性であることを強調するもので、道行く男性が結構な頻度で目を見張っている。


「いや、変じゃないけど大丈夫なのか? 女だって隠してるんだろう?」


「ああ、その事か。大丈夫さ、堂々としていればバレないものだよ。それよりクスノキが何の話をしてくれるのか気になってさ」


「いやだから、あまり面白い話じゃないぞ」


「まあいいじゃないか。それでも2人きりで食事をするというのは心躍るものさ。おっと、こっちだ」


クリステラ嬢はそこで路地に入り、一軒の古びた店に入った。


こうして彼女と遅い昼食を共にすることになったのは、依頼が終わった後内密に話をしたいと俺が申し出たのがきっかけだった。どうせ2人きりで話をするなら行きつけの店に行こうと誘われたのだ。


その店はオシャレなカフェといった佇まいで、クリステラ嬢がわざわざ案内してくれたことを考えると隠れた名店なのだろう。昼を過ぎて大分経つため客はほぼいなかった。


俺とクリステラは端の方の人目につかない席を選んで座り、注文を終えて一息ついた。


「話って言うのは、もしかしてクロウの事かい?」


クリステラ嬢は頬杖をついて、俺を見つめながらそう言った。


「やはり分かるか? それともクリステラも気になってたのか?」


「いや、ボクは命令のままに彼の面倒を見ていただけだよ。特に何かを感じたことはなかったね。ただ君は……手を合わせながら何かを探っていただろう?」


「さすがに隠せないか。ちょっと気になって追い詰めてみたんだが、そこで分かったことがある」


「まったく君は……あの状態のクロウはボクでも手を焼くのに、余裕が有り余っているのか」


そう言うクリステラ嬢の目には何となく熱がこもっている。やはり『勇者』に関することだけに力が入るのかもしれない。


「万一誰かに聞かれるマズいことだから、『精神感応』スキルを使う。心に直接語りかけるから驚かないでくれ」


「なんだいそれは? いや、君のことだからそんなこともできるんだろうね」


ちょっとだけ目を見張ったクリステラ嬢は、すぐに呆れたような顔に切り替えた。彼女自身順応性が高いのだろうが、この世界の『スキル』という言葉も便利すぎる。


『聞こえるかクリステラ。聞こえたら頭の中で返事をしてくれ』


『あは、これはすごいね。君の声が頭の中に入ってくるよ。これで返事はできてるかい?』


『大丈夫だ。さて、クロウのことだが、彼には恐らく裏がある』


俺がそう語りかけると、クリステラの顔から笑みが消える。


『裏っていうのは穏やかじゃない感じだね。それはもちろん悪い意味で、ということなんだろう?』


『そうだ。彼は間違いなくどこかで裏切る。それもこちらにとって最悪な形で、だろう』


『なぜそんなことが言えるんだい?』


『彼が魔王軍四天王の1人だからだよ』





クロウ少年との立ち合い、彼が獣と化したその時、彼の瞳に宿っていたのは恐らくは強い狂気だった。


俺はその瞳に強い既視感を抱いた。そして思い出したのが、以前相対した魔王軍四天王のゲイズロウである。


俺に人を殺めることを決断させるほどの強い狂気、それと同じモノがクロウ少年の瞳には潜んでいた。


『どこでそう思ったんだい?』


クリステラ嬢が料理を口に運びながら言う。


『妙な話をするようだが、俺は怪しい奴というのが見ただけで分かるんだ。何ていうか、ギラギラした感じが見えるんだよ』


『確かに妙な話だね。でもそれだけに嘘って感じでもなさそうだ』


『それでクロウのことをよく観察したんだが、彼の目が似てるんだよ、以前倒した魔王軍四天王に』


『君が四天王を討伐したという話は聞いていたけど、まさか本当のことだったとはね。で、それだけが理由かい?』


『以前ダンジョンに潜った時に言ったと思うが、俺は相手のステータスを見ることができるんだ。人に対してはめったに使わないんだが、彼に関しては使った方がいいと判断した。案の定魔王軍四天王という称号がついていたよ』


結局俺は『解析』をクロウ少年に使っていた。




-----------------------------------


名前:クロウ・フェンブール

種族:凍土の民 男

年齢52歳

職業:魔法剣士

レベル:70

スキル:

格闘Lv.16 長剣術Lv.19 短剣術Lv.15 

投擲Lv.11 四大属性魔法(火Lv.18

水Lv.16 風Lv.17 地Lv.16)

算術Lv.2 魔力操作Lv.8 魔力回復Lv.3 

状態異常耐性Lv.9 魔法耐性Lv.7

変身Lv.5 暴走Lv.5 気配察知Lv.8

暗視Lv.12 隠密Lv.11 俊足Lv.12 縮地Lv.18

剛力Lv.18 剛体Lv.17 不動Lv.9 

瞬発力上昇Lv.14 持久力上昇Lv.17 


称号: 魔王軍 四天王

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全体的には確かに魔法剣士的なスキル構成である。


悪魔的な見た目のはずの凍土の民であるにもかかわらず、また年齢が高いにもかかわらず彼が人族の少年の姿なのは『変身』スキルのおかげだろう。


戦闘力が爆発的に上昇したのは『暴走』スキルを使用したからか。




『それが本当だとして……、こちらの魔道具にはひっからなかったんだよね。犯罪歴を調べる魔道具はもちろん、多分王家に伝わるステータスを見る魔道具も使っているはずなんだけど』


『そうか……なにか欺瞞(ぎまん)する魔道具とかがあるのかも知れないな』


『しかし困ったな。ボク個人としては君の言うことは真実だと確信できるけど、他の人間は王家の魔道具を信用するだろう。すでにクロウ自身も周囲の信用をかなり得ているからね』


クリステラ嬢は「ボク個人としては」のところでウィンクをする。今そこを強調されても困るんだが……。


しかし確かに、国の重鎮にいきなり俺の言うことを信じてもらうのは難しいだろう。というか、普通は信じなくて当然である。


『クリステラが信用してくれるのはありがたいが……やはり俺自身が国の信用を得ないと駄目だろうな。これでもそれなりに『厄災』関係のモンスターは討伐してきたつもりだけど』


『そうだね。とはいえ一人のハンターが次々と『厄災』に立ち向かってるなんて、信じたくない連中も上にはいるからね。君自身も周囲には気を配った方がいいかもしれないよ。今回の依頼で、ボクと仲がいいという部分で釘をさせたとは思うけど』


『ああ、そういうこともあるのか。ありがとう、助かるよ』


『ふふ、君にはダンジョンで助けられた借りがあるからね。しかしそうだな……クロウの件は陛下に直接伝わるようにしておくよ。今後恩賜(おんし)の儀で陛下とは顔を合わせるんだろう? もしかしたら陛下からアプローチがあるかもしれない。覚えておいてくれ』


『わかった。なんか余計気が重くなってきた……』


俺が胃にストレスを感じていると、こちらに近づいてくる2つの気配があった。新しい客だろうが、なぜかこちらに強い視線を向けているような……。


「これはご主人様、このような隠れた名店をご存知とはさすがです。それにしても、あの二つ名はやはり事実を表していたのですね」


「ケイイチロウさん、こんな所でお会いするとは奇遇ですね。素敵なお嬢様と食事をなさっていらっしゃいますが、依頼の方は終わったのでしょうか?」


テーブルの横に立ち、ゴミを見るような目で俺を見下ろしているのは、メイド姿の女ダークエルフと協会の美人受付嬢だった。

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