プロローグ
辺り一面が白い光に包まれていた。
俺はその乳白色の空間の中で、一人ぽつんとたたずんでいた。
いや、たたずんでいるのかどうかは分からない。
何しろ今、俺には身体がなかった。
『病院のベッドにいたはずなんだが……』
その言葉は声にはならなかった。
声を出す口もなかった。
楠 圭一郎、それが自分の名前だ。
地元の高校大学を出て地元に就職。
職場で妻と知り合い、子ども二人を授かる。
郊外に建てた家のローンが終わり、長男の就職が決まったところでガンが発覚。
1年程の闘病ののち、薬石効なく永眠……。
そんな人生だったはずだ。
『……サンプル12番、クスノキケイイチロウの覚醒を観測』
一面の白い光の輝度が下がったと思うと、同時に唐突に声が脳内?に響いた。
『サンプル12番に所定のスキルを付与。生前のスキルは継続付与。転送先の肉体の生成を完了』
極めて機械的な女性の声だ。
『あの、自分は今どうなっているんでしょうか?』
突然の展開に一瞬呆けた後、俺は声に向かって質問を投げかけた。
それなりに長い人生を歩んできたが、さすがにこの状況は何が何だか分からない。
『転送先世界との同調に成功。サンプル12番の単独転送を開始』
しかし声は、俺の質問などまるでなかったかのように機械的に言葉を続けた。
乳白色の空間が、いきなりその輝きを増す。
光は俺の意識を塗りつぶし……。