第2話:初めての出会い
そして村に着いた俺はとりあえず情報を得たいと思い、1軒の店に入る。
「いらっしゃいませ!」
俺が店の中に入った瞬間、元気な女性の声が店全体に響き渡る。しかしそんな明るい空気とは裏腹に、店内に居るお客さん達は気味が悪いような目で俺を見てくる。きっと、俺のこの容姿が原因だろう。
白い肌や白い髪に少し青色が混じっている赤い瞳を持った人が来ると、そんな視線を向けるのも当然だろう。だが、俺はそんな視線を気にも留めず先程挨拶してくれた女性の前にあるカウンター席に腰を降ろした。そうすると女性が俺に尋ねてきた。
「ご注文は?」
「えっと、俺はついさっきこの世界に来たばっかでお金が無いんだよ……。だから今は一刻も早く仕事が欲しい!どこか仕事探しに適している場所はないか!?」
その時俺のお腹がぐううと鳴った。
俺のお腹の音を聞いた女性は手を口元に当てて、クスリと微笑しながら言った。
「それよりもお腹が空いているんじゃありませんか?今回は特別サービスで無料にしますよ。はい、こちらが当店のメニューです」
「…………」
そうして女性は俺に店のメニュー表を渡してきた。……いいのか?と、聞こうと思ったがそれはこの人の優しさを無下にする行為だと思い、言葉を呑み込みながら俺はメニュー表に目を通す。
「ならこれを」
「かしこまりました」
俺はメニュー表にある1つの料理に目が止り、その料理を女性に向けて指さす。そしてメニュー表を返して、料理が完成するまで待つ事にした。
(あまり他人に甘えた事はしたくないんだが……)
だからといって、腹が空いていたのは事実なのだから仕方がない。
と、そんな事を考えていると──
「中辛麻婆豆腐です!お待たせしました!」
「来たか」
そう、昔よく俺の為に義母が作ってくれた麻婆豆腐。俺はあまり辛いのが好きではないので、中辛にしてもらった。
「いただきます」
俺は合掌して、スプーンで麻婆豆腐を掬って口の中に運んだ。
「私が作った麻婆豆腐はどうですか?」
無言で麻婆豆腐を口の中に運んでいる俺を見ながらそう尋ねてきた。
勿論答えは決まっている──
「……美味しい」
「良かった!」
俺の声に喜びを隠せずに女性は満面の笑みを浮かべていた。それと同時にお金が払えない自分が情けなく感じてくる。
それから麻婆豆腐を食べ進め、
「ご馳走様でした」
麻婆豆腐を食べ終えた皿にスプーンを置き、再び合掌した。
「お粗末さまでした」
女性は俺の食べっぷりに満足した様子で皿を下げた。本当に良かったのかとも思ったが、それはこの人の顔を見れば分かる。
(お金より客の笑顔、か。この店は将来繁盛するかもな)
「えっと、私の顔に何かついてますか?」
「なんでもないよ」
それにこの人は、こんな気味の悪い姿をしている俺を見ても周りのお客さん達とは違い、同じ『客』として接してくれた。
死ぬ前はアメリカなどで黒人差別や人種差別が存在しているし、それは今この時も変わらないだろう。俺もそれらに近い扱いだった。クラス内では気味悪がられ、義父はそんな俺を殴っては蹴るを繰り返す。
俺にここまで向き合ってくれたのは義母を除いてこの人だけ。
「あの……本当にどうしたんですか?貴方、"泣いてるじゃないですか"」
「……え?」
俺はその言葉で初めて自分が泣いている事に気付いた。異性の前で男が泣くなんてみっともない!
「どうぞ、ハンカチです」
「ど、どうも……」
女性が貸してくれたハンカチで涙を拭う。
「これからどうするんですか?」
「仕事探しを手助けしてくれる場所ってある?」
「この村を更に先へ進んだ所にお仕事ができる場所がありますよ」
「そうなのか。分かった、行ってみるよ」
「ええ。また時間がある時にでも当店にいらしてください」
「本当になんとお礼をしたらいいか……」
「そのお気持ちはまた今度来た時に」
「分かったよ」
そうして俺は店を後にする。
(その町で仕事が見つかってある程度稼げたらまた来よう)
心の中でそう誓い、俺は町へ向かうのだった。
行間2
俺は今"自分を殺した帝国へ復讐する為に"、俺が取り逃した帝国の残党を追い、1つの小さな田舎村にきていた。
そこには俺が探し求めていた残党と、この村の住人全員が死んでいた。どうやら相打ちになったようだった。推察するに、残党の生への執着と、この村に住む人々の信念がぶつかった結果なのだろう。
それにしても、俺自らの手でケリを付けられなかったことだけが唯一の不満だ。
「まあいい。これで俺の目標に1歩近付けた。あとはこの『セカイ』について調べなきゃな」
そして、次に俺が向かうべき場所も分かっている。
読者の皆様おはこんにちは、蓮です。
本来ここは町でのお話の前日譚のつもりだったのですが、思いの他恋愛展開になってしまってビックリしています。まあこんな予想外な事もありますよね。そしてそして、そんな主人公にとっては初めて訪れた場所なのに即壊滅という爆発オチ並なことになりましたが、これは必要な犠牲でした……。
それでは次回の話は叶世が『ギルド』のある町へ向かった所からです!