ラジカセ
「君が貸してくれたカセットテープから幽霊の声がする」
小学生の頃、ある友人から、そう言われたことがある。
それは、前日に僕が友人に貸してあげた「仮面じゃないのよ笑顔は」という歌謡曲が入ったカセットテープだった。
「気味が悪いから返すよ」
友人は僕にそのカセットテープを不機嫌に押し返した。
ちなみに、そのカセットテープは、一昨日の晩、夕食の時間に、テレビの歌番組から流れてくるヒット曲を「録音」したものだった。
「君の家には絶対に幽霊がいるよ」
その友人いわく、曲のサビの部分をよ~く聞くと、不気味に囁く女の声がすると言う。
囁き声? うーん、僕は、まったく気が付なかった。
最近の若者に「録音」と言っても、なんのこっちゃ分らぬかも知れないが、ビデオもまだ高価だった当時は、テレビのスピーカーに、ラジカセをこれでもかとピッタリと近づけて、再生ボタンと録音ボタンを同時に押して、テレビ番組の音声のみ「録音」するという、惨めな行為をよくした。
現代で言うところの「違法ダウンロード」に近い。(違うわっ!)
昭和も令和も、やってることは、変わらない。
「ダウンロード」=「録音」
「インストール」=「ダビング」
「保存する」=「カセットのツメを折る」
少し呼び名が変わっただけだ。(違うわっ!)
僕は、この心霊テープを録音した時の状況を思い返してみた。
このテープは、母と二人で夕食のカレーライスを食べている時、お気に入りの歌手が歌番組に登場したので、僕が慌てて録音した。
もちろん、録音中はテープに外部の雑音が入らないよう、私語禁止。
僕は、一緒に食事をしている母に、通夜式のような静けさを強いた。
これ、昭和あるある。
で、実際に、その心霊テープを聞いてみた。
仮面じゃないのよ笑顔は~「助けて」ほっほ~♪
た、確かに、微かに、
何となく「助けて」と聞こえる。
もう一度聞いてみる。
仮面じゃないのよ笑顔は~「ソスけて」ほっほ~♪
ん? ソスけて?
……なんだか、嫌な予感。
僕は、その嫌な予感を確信に変えるべく、
何度もテープを巻き戻し、耳を澄ませて曲を聴いた。
仮面じゃないのよ笑顔は~「ソスけて」ほっほ~♪
仮面じゃないのよ笑顔は~「ソースとて」ほっほ~♪
仮面じゃないのよ笑顔は~「ソースとって」ほっほ~♪
「助けて」
のんのん。
「ソースとって」
あはーーん。
友よ。
うちには、幽霊なんていません。
うちには、カレーにソースをかける母がいます。
この先品は、なろうラジオ大賞3への投稿したものを、タイトルを変えて再投稿しています。