表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

黒電話

 昭和の終わり頃、僕は中学生でした。


 当時15歳の僕が、自分の将来を見据え、必死で受験勉強に励んでいたかというと、


 そんなことは、決して、まるで、じぇんじぇん、無くて、


 僕の頭の中は「女の子の体のしくみ」。ただそれだけでした。


 当時、今の携帯電話のような手軽な移動型の通信手段は無く、


 ポケットベルなんてアイテムが出始めるのも、もう少し後のこと、


 思えば、当時の移動型通信手段と言えば、


 建設現場や警察などの職場で使われる「トランシーバー」。


 または「伝書鳩」。


 または「糸電話」。


 または「大声で叫ぶ」。


 ぐらいのもんだった。あはは。


 マトモな通信手段と言えば「固定電話」だけだ、バカヤロー。


 いえでん、または公衆電話だ、コノヤロー。


 メールもラインもへったくれもねーぞ、コンチキショー。


 ちなみに、うちは、ずーっと黒電話。


 じーーこ、じーーこ、の黒電話。



 さて、そんな通信手段しか無い、当時少年少女だった我々の「恋愛の辞書」に、


「プライバシー」なんて文字は、探せども探せども、これっぽっち無く。


 当時お付き合いしていた彼女と、夜分にお話したいなぁ~、なーんて時も、


 自宅のお茶の間にある黒電話を、コードが引きちぎれんぱかりに隣の部屋へ引っぱり込んで、


 襖を閉めて、親が寝静まるのをひたすら待ち、


 ぴりっぴりした厳戒態勢のなか、大好きな彼女の自宅へ電話をかけるのです。


 毒蛾とハエのたかる裸電球の下、じーーこ、じーーこ、とダイヤルを回すのです。


 んでもって、その先には、更なる難関があって、


 それは「電話口に、タイミングよく彼女が出るか? 否か?」というもので、


 これも固定電話にまつわる恋愛ならではの、「あるある」だったわけです。



 ※ ※ ※ ※ ※



 じーーこ、じーーこ、じーーこ、じーーこ、じーーーーこ……


 ぷるるるるるる


 あれ? 出ねえな。


 ぷるるるるるる


 ……、ち、○○子のやつ、今晩電話する約束、忘れてんのかな。


 ぷるるるるるる


 ぷるるるるるる


 ガチャ


 よし、出た!



「もしもし」(野太い男の声)


(うわ、やっべえ、オヤジ出ちゃった。)


「……もしもし?」


 あ、あの、もしもし、僕、○○子さんのクラスメイトで、Q輔と申しますぅ。


「……」


 その~、○○子さん、おみえですか?


「……おりますが、どのような御用件でしょうか?」


 いや、つまりその、コーラス大会の実行委員同士で、いろいろと打ち合わせしたいことが……。


「コーラス大会?」


 はい、歌い出しの音階「ファ」でいっとく? それとも「ラ」にしちゃう? なんつって、あははは。


「……」


 ははは……。


「……え? 彼氏? 付き合ってる?」


 あり得ないっす!


「……」


 ぼ、僕は、コーラス大会の実行委員としての任務を遂行するためええ!


「……」


 ○○子さんと「ファ」と「ラ」の未来について、熱いディスカッションをおお!


「……分かりました、少々お待ちください」



(へん、ちょろいぜ、オヤジ)






「おーーい、姉貴、電話ああああ!」






 お、弟かーーーーーい!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ