アナログテレビ
電子レンジが壊れたので、新しいのに買い替えた。
へ~、今はすっかりタッチパネルが主流なんすねえ~。
何しろ先代の電子レンジは、結婚してから20年使い続けたからさ、
この度の購入で、我が家のガラパゴス化を痛感してるのよね。
今回特に驚いたポイントは、か、か、か、回転する皿がねえー!
え、嘘、今はこれが主流なの?
染野丞・染太郎もびっくり!
え? マジ? 皿、回さなくていいの?
てか、これなら、でっかいコンビニ弁当、角に当たってカックンカックン事件は起きないわけね。
動物園の檻の中で、壁に頭打ち付けながら同じところ行ったり来たりしてる、
ノイローゼのミーアキャットみたいな、悲しいお弁当見ないですむわけね。
ご飯ぜんぜん温まってねーのに、ポテトサラダはボコボコ煮えたぎってるっちゅう惨事は無いわけね。
ふえー、目まぐるしいねえ、家電の進化。
もうねえ、僕なんかねえ、逆に、昔の家電の佇まいが、脳裏に懐かしく思い出されちゃうのよね。
ちゅうわけ、今回からしばらくは、「昔懐かし昭和家電列伝」と洒落込もうかねえ。
※ ※ ※ ※ ※
さて、懐かしの家電と言って先ず思い浮かぶのが、アナログテレビね。
もち、チャンネルを手動で、がっちゃんがちゃん回すタイプのやつね。
我が家には、当然ながら、リモコンなんてねーからさ、
僕なんか、お茶の間のポジションがテレビに近いちゅうだけで、
父から、否応なしに「人間リモコン」として酷使されていましたよ。
「おい! チャンネル回せ! ユーに変えろ!ユーに!」つって。
あはは、出た! 幻のチャンネル、Uチャンネル!
今の若い子知ってっかなあ、Uチャンネル。
んで、休日ともなれば、父がゴロ寝しながら、足で器用にチャンネル回してたりする。
ったく、行儀悪りいったらありゃしねえ。
んで、そんな横着してるから、チャンネルの取っ手が、バキッと取れちゃうのね。
外れた取っ手を無理やり本体に当てがって回すと、一応チャンネルは変わるんだけどさ、
壊れた部品だから、手を放すと、どうしてもまた、ぽろんと取れちゃうのよ。
しょうがないから、テレビの上に置いとくじゃん。
すると、見事に行方不明になるのね、あれ。あはは。
おい! チャンネルどこだ! チャンネルどこいったああ!
つって、酒乱の父なんか大騒ぎでさ。
まあ、テレビの後ろに落ちてるだけなんだけどね。
ホコリまみれの白い靴下と一緒に。
でも父は、一刻もはやくナイター中継見たいから、ろくに探しもせず、そわそわしちゃってさ。
結局、工具箱からペンチ出してきて、チャンネル部の突起をペンチでつまんで回してんのね。
あはは、器用だねえ~~。
そんな我が家のアナログテレビが壊れた時のことは、よく憶えている。
ある朝、僕が何気にテレビをつけたら、
バシュッ! という、何かが弾け飛ぶような音がして、
内部から、白い、細い、けむりが一本。それっきりだった。
そのテレビは、母にとって、結婚当時から愛用した思い出の品だった。
母は、どこからか表彰状の用紙を買ってきて、
壊れたテレビ宛てに「感謝状」のようなものを筆で書き、
姉と僕と妹にも、壊れたテレビ宛てに「さよならのお手紙」を書かせた。
僕らはそれを、壊れたテレビに、セロハンテープでベタベタ張り付けて、
ある日の早朝、みんなで近所のゴミ捨て場に捨てに行った。
その帰り道、おっかあ、たぶん、泣いてた。
目、真っ赤だったもん。
※ ※ ※ ※ ※
ちなみに、我が家で愛用していた先代の電子レンジ。
この17年間、一度たりとも故障することなく、見事に仕事をやり遂げてくれた電子レンジ。
思えば、あの電子レンジが、結婚当時の我が家のメンバーの、最後の選手だった。
他の家電は全て故障してとっくに買い替え、飼っていたペットたちも、みんな死んでしまった。
……本当に、あいつだけだったんだなあ。
あいつの最期は、
新しいレンジと入れ替えに、家電屋さんに引き取ってもらった。
ただ、そんだけ。
ちっ。
しまったなあ。
あの日、あの時の、母のように、してやればよかった。
何故してやらなかったのだと。
ずうずうしくも、今頃になって悔やんでいるのです。