45.元神童、隠し部屋の奥へと突き進む
宝箱の前に立ち、瞳に金のマークを浮かべるフィオナに俺は話しかけた。
「いいんじゃないですか。ダンジョンや遺跡で見つけたものは発見者のものなので。依頼主であるフィオナさんに権利があるかと」
俺は宝箱に手を当てる。
「ディテクトマジック――魔力の反応なし。鍵は……閉まっているのか。アンロック」
同時、かきん、と鍵の外れる音がした。
「どうぞ」
「ななな、何をしたんですか!?」
「魔力による罠がないか調べて、閉じている鍵を開けたんですよ。俺の魔術で。ああ、そうだ。もうひとつ魔術を――ストップギミック。もし物理的な罠があっても、これで大丈夫です」
「おお、おおおおおお! なんでもできるんですね、イルヴィスさん!?」
「これくらい普通ですよ」
「普通なんですかねえ?」
そんなことを言いつつ、フィオナは宝箱を開けた。
宝箱の中にはいくつかの装飾品が入っていた。
「おおお、おおお、おおおおお! わたし貧乏なのであんまり価値がわからないですけど! これ、価値がありそう! ……おや、この隣にある黒いのはなんですか?」
「……ああ、爆弾ですね。罠がありましたね」
「えええええ!? もしもイルヴィスさんが止めていなければ……」
「ドカン! 今ごろフィオナさんはあの世にいっていたかもしれません」
「う、う、うおおおおおおお……!」
ガタガタとフィオナが震えている。
それはそれとして――俺は俺で別のことを考えていた。
どうにも露骨だ。
ここに入った人間はフィオナのように、宝箱に意識が向くだろう。そして、首尾よく罠を解除して宝をゲットすれば興奮し、この隠し部屋を見つけてよかったと満足するだろう。
……できすぎている……。
俺が罠を用意する側ならば、その宝自体を罠にする。本当は気づかれたくないものへの意識を誘導するために――
それに少しばかり気になることもある。
空気の流れが違うのだ。
俺が開けた出入り口以外に部屋は壁で閉ざされている。だが、それだと部屋にわだかまる空気の感触が説明できない。
まるで、もうひとつ出入り口があるような。
俺は怪しい壁に近づき魔術を行使した。
「ディテクトマジック」
壁に反応があった。つまり、何かしらの魔力がかかっている。
俺が壁に手を伸ばすと、俺の手は壁をすり抜けた。
「ほお」
俺は振り返り、フィオナに話しかけた。
「どうやら、ここの壁の先にも何かあるようですよ」
「え、本当ですか!?」
俺の隣にやってきたフィオナが壁を触って――その手が壁の中へと吸い込まれた。
「おお!?」
「幻影のようですね。それでは奥へと向かいましょうか――ディスペルマジック」
俺が魔力を霧散させる魔術を行使すると幻影の壁が消え去った。
瞳の中の金マークを2枚重ねにしてフィオナが言う。
「お宝! お宝あるんですかね!?」
「い、いや、どうでしょうね……」
研究のための調査はどこに行った。
俺たちは隣の部屋へと移動する。
そこはさっきよりも大きな部屋だった。縦横だけではなく、ずいぶんと高さもある。
部屋の奥には大きな金属製の、両開きのドアがあった。
ドアの左右にはフルプレートの鎧が飾られていた。その両手は、床に突き立てられた大剣の柄先に置かれている。
「あのドアの向こう側に何かあるんですかねえ……」
俺の背後から部屋を覗き込みながらフィオナが言う。
「でも、こういうパターンとして、あのドアに近づくと左右の鎧が動き出すって感じですよね? どう思います、イルヴィスさん?」
「近づいてみましょうか」
俺が部屋の半分まで進んだところで――
ぎぎ、ぎぎぎぎ、と鈍い音を立てながら、鎧たちが動き出した。両手剣を両手に握り、俺を迎え撃とうと構えを取る。
「イイイイイ、イルヴィスさん!? どうするんですか!?」
「そうですね――」
俺は右手を右の鎧武者に向けた。
……おそらく人間ではないだろう。生身の人間が、こんなところにずっと突っ立っていられるはずがない。
なので、手加減はいらない。
「マジックアロー」
ついで、左の鎧武者に右手を向ける。
「マジックアロー」
どっごおおおおおおおおおおおおん!
どっごおおおおおおおおおおおおん!
派手な音が2連発。白い閃光の直撃を受けて、鎧武者は木っ端微塵に砕け散った。ばらばらと音を立てて鎧の残骸が地面に転がる。
「終わりましたよ」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお! すすす、すごいじゃないですか、イルヴィスさん!?」
「はははは、まあ、鎧も古くなって傷んでたんじゃないですかね?」
そんなことを言いつつ、俺は奥にあるドアを押し開けた。
3番目の部屋にたどり着く。
そこには――
「魔術陣?」
部屋の床には何重もの同心円が描かれていて、各円には複雑なルーン文字が描かれている。魔術陣は名前の通り魔術に関するものなのだが、いくつかパターンがある。
さて、これはなんだろうか。
……詳細に調べれば、どんな魔術かわかるが――とりあえずは壁でも調べよう。
さっきの宝箱と同じく、意識をそらせるためのフェイントの可能性もあるからな。
そうして俺が壁を調べていると、
「わ、わああああああああああああああああああ!?」
突然の悲鳴が響き渡った。
振り返ると、フィオナが魔術陣のど真ん中に入っていた。そして、耳障りな音を立てながら、魔術陣を構成する文字が白く輝いている。
――なっ!?
「イイイイ、イルヴィスさん!? こ、こここ、これ、急に光だしたんですけど!? はは、入っちゃいけなかったですか!?」
普通の冒険者なら、こんなもの言わなくても踏みはしないだろう。
だが、彼女は普通の研究者で――
それを注意しなかったのは俺の確かな落ち度だ!
「早く出て!」
「え、ええ、その、あ、足がすくんで――!」
彼女の身体がすっと薄くなっていく。
俺は瞬間的に判断した。護衛としての責務は果たさなければ!
床を蹴って魔術陣へと飛び込み――
魔術陣から広がる閃光のような輝きに飲み込まれた。
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