30.元神童vs8星ヴァルニール&腹心ライオス
俺が探していたヴァルニールという男が見つかったのだが――
なんかいきなり殺す宣言をされてしまった。
え!? 見覚えがない人なんだけど!?
グランツ――ではなくて、ライオスらしい――も俺の命を狙っていたし、これはどういう意味なのだろうか。
「そいつを捕えろ!」
ライオスの言葉とともに、部屋にいた5人の男たちが俺に襲いかかってくる。
……どうにも話が見えないな。不法侵入者をとがめる感じではないのだが。殺す気まんまんみたいなので、とりあえず自衛するか。
俺は腕ずくで抑え込んでいる男の腹に当身を喰らわせた。鈍い声とともに沈む男の身体。そうこうしているうちに他の男たちが俺の元に殺到してきた。
「覚悟しやがれえええええ!」
そんなことをわめきながら。
話をしたいのだが――どうにも話をする余裕がない。とりあえず、黙ってもらうか……。あの自称ヴァルニールとライオスさえいれば状況はわかるだろう。
俺は5人組をあっという間に気絶させた。
……やれやれ。5対1でむしろ助かった。お互いが邪魔をして、うまく俺を攻撃できなかったのだろう。でなければ俺に勝ち目などない。
ライオスがわなないた。
「な、なんだと……? 俺の部下たちをこんなにもあっさりと……」
「臆するな、ライオス。8星の私がいるのだ。あの男に勝ち目などない」
「そ、そうですね! わかっております、ヴァルニールさま!」
とりあえず、空気が落ち着いてきたので俺は話しかけてみた。
「すまないが、あんたがヴァルニールなのか?」
「いかにも」
「そうか。別に俺は何もするつもりはないんだが……頼まれごとをしていてね。これをあんたに渡してくれと」
そう言って、俺は赤い水晶を取り出して2人に見せた。
瞬間、ヴァルニールが急に色めき出す。
「き、貴様、それは!? どこで手に入れた!?」
「え? ヘルハウンドに襲われた男から渡されたんだよ。これをあんたに渡してくれって」
状況がなんだかよくわからない……。この宝玉を押し付けて、さっさと家に帰ろう……。
「あの男からだと――!?」
なぜかヴァルニールが興奮状態になっている。
「あの男から何か――聞いたのか?」
何かを聞いた?
「そうだな、いろいろとな」
俺はそう答えた。話をしたのは事実だからな。
「その後、息を引き取ったよ。己の果たすべき使命を託した――そんな誇らしげな表情でな」
「使命を託した、だと……き、貴様――! 知ってしまったのか!?」
ヴァルニールの顔が真っ赤に染まっている。
……え、あんたの部下を褒めたんだけど、どゆこと?
その後、ぼそぼそと――
「あいつめ……やはり気付いていたのか……」
とか小声で何かをつぶやいている。
「どうやら、やはりお前は生かしておけない人間のようだな……!」
ええええええええええええ!?
なんでその結論にたどり着くの!?
「待ってくれ、俺にはなんのことだか――」
「黙れ! マジックスピア!」
ヴァルニールの差し出した右腕から白い閃光のような槍が飛び出した。
反応――右に動いてかわす。
轟音とともに俺の背後にあった壁が崩壊した。
「ライオス! あいつを逃すな! 仕留めるぞ!」
「わかりました!」
ライオスが剣を引き抜きつつ俺に襲いかかってくる。同時、俺の動きを制限するかのようにヴァルニールが素早い速度でマジックスピアを打ち放ってきた。
ライオスの高笑いが響き渡る。
「俺の攻撃とヴァルニールさまの援護! 長い時間をかけて磨き上げた連携を突破できたものはいない! お前ごときに――ぺぶぅ!?」
俺の一撃を受けてライオスが派手に吹っ飛び、壁に激突して気を失った。
ヴァルニールが露骨に動揺する。
「バ、バカな!? 我々の連携をこうもあっさりと!?」
俺はあまりヴァルニールの言葉を聞いていなかった。
何がどうなっているのか、俺なりに考えていたのだ。まともに質問しても答えてくれないからな……。
この2人は俺を殺したいらしい。だが、俺には殺される理由が思い当たらない。
あの水晶を見るなり、ヴァルニールは俺への怒りを強めた――だが、あの男はヴァルニールに渡してくれと言っていた。その言葉と明らかに矛盾する……。
そもそも8星とか言っていたが、さっきの連携、ちょっと弱すぎないか?
そこまで考えて俺は結論に至った。
……ああ、そうか。そういうことなのか……。
俺は自称ヴァルニールをぴっと指差した。
「わかったよ、すべてが。お前たちが何を企んでいるのか」
俺の言葉にヴァルニールがピクリと身体を震わせる。
「……なん、だと!?」
「お前は偽物だ、『黒竜の牙』の人間でも、ヴァルニールでもない」
「え?」
冷静沈着だったヴァルニールの顔に動揺が走った。
俺は確信した――そうか、図星か。
「お前たちは『黒竜の牙』の人間を騙り、その評価を貶めようとしたのだ。2ヶ月前、そこのライオスを使って見ず知らずの俺を殺そうとしたのもその一環だろう」
頭の中で組み立てた推理がすらすらと口から出てくる。
素晴らしい! 今日の俺は冴えている!
「ここで出会った瞬間――てっきり俺はお前たちを『黒竜の牙』の人間だと思ったが、違うな。お前たちもまた不法侵入者。お前が本物のヴァルニールなら、この赤い水晶を嬉々として受け取るのにそうしなかったのが証拠だ」
俺は『自称』ヴァルニールを指差した。
「お前は何者だ!? 名を名乗れ!」
「え、いや……」
俺の言葉に自称ヴァルニールの目が泳ぐ。
「その……ヴァルニールだが?」
「まだ言い張るのか! いい加減、諦めろ!」
俺の言葉にヴァルニールが顔を真っ赤にした。
「わ、訳のわからないことを言いおって! かまわん! 8星の私を怒らせたこと、後悔するがいい。オルフレッドさまほどではないが、私もまた剣魔の使い手よ!」
言うなりヴァルニールが腰のブロードソードを引き抜いた。
「エクスプロージョン!」
ヴァルニールの声とともに、俺のいた空間が爆ぜる。
だが、遅い。
すでに俺はヴァルニールへと走り出してそこにはいない。
「なめるな! エクスプロージョン!」
さらなる発動。
魔力が空間に作用するのを俺は感じた。それは狙いすましたかのように、俺の進行方向――今まさに俺が通り過ぎようとしている空間に展開していた。
俺の速度を読んでの『置き』か――
足を止めればやり過ごせるが、コンマ数秒後の話だ。そう簡単には止まれない!
ならば――
俺は走り抜けると同時、短剣を振り抜いた。
一閃!
展開されていた魔力そのものを切り捨てる。
「な――!」
驚く自称ヴァルニールに俺は肉迫する。
「ちっ!」
舌打ちと同時に繰り出されるヴァルニールの剣を、俺は短剣であっさりと弾く。次々とヴァルニールが振り下ろす刃を俺は次々とはじき返す。
「おのれえええええええええええ!」
絶叫ともに剣を大きく振り上げるヴァルニール。大ぶりすぎる! 俺はできた隙を見逃さず、鋭い蹴りをヴァルニールの腹に叩き込んだ。
「ぶふぉあ!?」
悲鳴をあげながら、ヴァルニールがすっ飛んで壁に激突する。
「かはっ……。こ、この私が……8星の、この私が……」
「8星? やめておけ、その嘘はバレている。証拠は上がっている――」
俺は自称ヴァルニールを指差して続けた。
「8星がそんなに弱いはずがないだろ?」
帝都最大戦力の一角が、俺ごときに倒せるはずがない。
俺の言葉を聞いた瞬間――
だん! と大きな音を立ててヴァルニールが床を殴った。
「き、貴様ぁぁぁぁ! 言わせておけば! この私を、愚弄するのも大概にしろ!」
その目は怒りに燃え上がっていた。
……うん? 8星じゃないと言われて図星だったのかな?
ヴァルニールがゆらりと立ち上がった。
そして、ふところから小さな容器を取り出す。中には薄紅色の液体が入っていた。ぺきっと自称ヴァルニールの親指が容器の先端をへし折る。
「ドーピング・コボルトの研究で作り出した薬だ。こいつだけは使いたくなかったがな……お前だけは許さん――!」
言うなり、自称ヴァルニールがいきなり容器の液体をあおる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
まるで体内から溢れるエネルギーを吐き出すかのような、自称ヴァルニールの絶叫が部屋に響き渡った!
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