プロローグ
父が死んでから三年が経った。
18歳になった私は、自室のベッドで違和感を覚え、目覚めた。
「…」
いつもの朝と何かが違う。そう思った私は、母の寝室やリビング、そして父の書斎へ向かった。父が死んでからは書斎に入る事は無かった。正確には入りたくなかったというのが正しい。父の仕事は警察官だった。詳しく聞いた事は無いが、母によると警部補という立場だったらしい。その為、書斎には生前父が追っていた事件や、父と母と私の三人の家族写真がある筈だった。
「ない。写真も、書類も、本も何冊かない気がする…」
父は比較的細かい性格だった。しかし書斎のデスクの上には、数枚の書類らしき物が乱雑に置かれており、びっしりと本が詰まっていた筈の本棚は、隙間だらけになっていた。
「スミレ? どうしたの。めずらしいわね。あなたがお父さんの書斎に入るなんて。」
母が起きたようだ。元々見た目はふくよかな方ではなかったが、最近は少し痩せ、窶れたように感じる。父が死んでからというもの、女手一つで育ててくれている。
「おはようお母さん。昨日誰か家に来た? それか、私が寝た後とか。」
「いいえ。私は昼間仕事に行っていたし、夜もあなたが寝た後、すぐに寝たわ。なぜそんなことを聞くの?」
母は困った様な、それでいて何かを恐れているような、表情をしている。この表情には、見覚えがあった。父と母が、私に隠れて話をする時、よくしていた顔だった。
(何かあるのだろうか…)
「朝、書斎のほうで物音がしたから、見に来たの。そうしたら、ここにあった写真もないし、なんだか部屋も少し荒らされてるみたいだったから。誰か来たのかなと思って。ほら、父さんの同僚の人とか。」
「…そうかしら? 当時と変わっていないように見えるけれど。写真は、お父さんが手帳に挟んでいた気がするわ。スミレはここへ入りたがらなかったけれど、私は掃除するために出入りもしていたから、そのせいじゃない?」
(こんなに弁解するなんておかしい。なにか隠したいことか、触れられたくないことがあるのね)
「そっか。私の勘違いだったみたいね。朝ご飯食べよう。」
この時、私は決意した。今まで考えまいとしてきた謎を解明する事を。先ずは、今日の父の書斎の変化。次に母の隠し事。最後は私の戸籍について。