転移は岸から
「ごほっ、ごほっ、しょっぱ! うぇ……え?」
目を開けると……岸だった。
突然のことで何が何だかわからない。
周りには一面の砂浜が後ろを振り向くと黄緑色の丘が並んでいる。
俺はここがどこなのかを確認するため丘に登ったが見えてくるものは記憶の中のどれとも一致しない。
コンビニもなければゲーセンもショッピングモールもない。
あるのは苛烈な戦いがあったであろう半壊した城と家。レンガ、石などを活用した異国の街並み。
俺は確信した。
(ここは『異世界』だ!)
「キターーーーーーー! 異世界だーーーー!」
俺は夢にまで見た異世界にきて胸を奮わせていた。
ケルト音楽を聴いて涙を流す日々は終わったんだ!
「やっぱ不慮の事故で死ぬと異世界に来られるのか」
……俺はたぶんあの後溺死したのだ。
たしかあれは久しぶりの外出をしたときだ。俺はとあるゲームのネット販売が終了していたこと機に最寄りの電気屋まで足を運んでいた。
来る日も来る日もゲームをしていたせいか時間間隔が変になっていた俺はその時間が学生の登校時だとは思いもしない。よって橋の上で同級生に見つかり絡まれ、ひどい罵声をあびせられた。
仕方がないことだ、ずっと休んでるやつがいればなんでお前だけは。という考えになってしまう。だが不登校にだって不登校なりの理由がある。
クラスで特に普通だった俺は周りからいいやつとしてみられていた。しかしいいやつには2種類存在する。面白いやつか自分にとって可もなく不可もない者だ。
後者だった俺は誰にだって笑顔でいる自分が気持ち悪くいつの間にか不登校になっていた。
橋で罵られた俺はそいつらに言い返すのだが。それが今回の出来事の発端だと思う。そいつらは調子に乗ってると思ったのであろう俺をそのまま橋から突き落とした。前日に大雨が降ってせいで泳ぐことができず……。
そして…………。
「…………もう過去のことは忘れよう!」
そうだ今ウジウジしてもしょうがない新しい人生だ、自分の思うままに生きよう。
この第二の人生を。
俺は気を紛らわすようにあたり一面の景色を目に焼き付けていた。
「にしても絶景だな! エルフとかドワーフとかモンスターなんかもいるのかな⁉」
そんな妄想を膨らましていると城の方からなにやら人影が見えた。どんどんとこちらに向かってきている。
俺は目を細めて確認するとどうやら城の衛兵っぽい。
「お待ちしておりましたーーーーーー、異世界のお方――――。」
どうやら俺が異世界人だと知っているようだ。
「はぁ……はぁ……陛下が……お待ちです。至急……『ミスティコ城』まで……」
そんなに急いでどうしたのだろう? 取り合えず俺は城まで同行する事となった。
しばらく歩くと城の目の前まで来た。城は半壊しているとはいえその大きさに圧倒される。
東京ドームいや、俺のばあちゃん家の田んぼくらい? どちらもわかりずらいがそれくらい巨大だ。
「さあ、こちらです」
城内に入ると出迎えるように多数のメイドたちにお辞儀をされる。
こんなんテンション爆上がりでしょう。メイドとか秋葉の通りでチラシ配ってるところしか見たことないわ。
「ようこそミスティコ城へ異世界の使者様」
「あっ、はい……」
クソー人として会話してなかったせいかテンパってしまう。
しかしどの人も容姿が整っておりかなりの美人だ。もし高校なんかに通っていたら全生徒が釘付けになるの間違いなし。
「この方を急ぎ陛下の元に頼む」
「かしこまりました」
衛兵の方はメイドさんに俺のことを頼むとまた岸の方角へ走っていった。
「では使者様こちらへ、使者様? どうかなされ、なされましたか?」
「いやっ、大丈夫です」
いけない、いけないつい見とれてしまった。
使者? もしかして勇者ってことかな。
大階段を上り入り組んだ通路を通っていた中、俺はメイドさんにある疑問を問いかけるとした。
「あっあの聞いてもいいですか?」
「はい。 なんでしょうか?」
「この国を見た感じあまり活気がないといいますか、どよんとしている気が。城も破壊されれていたのでなにかあったのかなと」
城に到着するまで結構な距離を歩いたが街の人々の顔は見ておらず、なんなら街の方も倒壊しているところがいくつかあった。きっと何かがあったのであろう。
「……はい。魔の手の者の仕業です。――数週間ほど前やつはこの国『オプロト王国』に現れました」
やつ? まさか一体でこんなに?
「最初はいつも通り王国軍の方が追い払ってくれると思っていました。……しかし想定を遥かに上回る強さに戦意喪失した兵は次々と倒されていったのです」
メイドの彼女からは憂鬱な顔が窺えた。
「そんなことが……その後はどうなったんですか?」
「最終的には陛下自らが立ち向かい勝利を収めたのです。ですが私はやつに家族も家も奪われました……。使者様お願いです、どうかやつらを――」
いきなり重すぎだろこの世界、俺まだ来てから一時間も経ってないんだけど……。
でもここで無理なんて言えないしな、よし男見せるか!
「わかりました。必ず悪魔を倒すことを誓います」
「うっ……ありがとうございます。こちらも使者様の勝利を祈っております!」
彼女は感涙しながら抱き着いてきた。
「ちょっ、ちょっと当たって…!」
女の子から抱きしめられたことなんてない俺は沸騰寸前だった。
これがリアル万乳引力ってやつか……暖かい、それになんだか優しい花の匂いがする……。
っは!ダメだ、抑えろ抑えるのだ俺。
幸せだけど恥ずかしすぎる!
「す、すみません……。このようなことを」
向こうも我に返ったのか顔を赤らめる。
「そんな謝らないでください。こっちからすればご褒美……やるべきことなので!」
そう言い直した後、彼女は穏やかに道案内の続きを始めた。
しばらくすると彼女はある扉の前で足を止めた。
「この先が王の間です」
「ここが…………」
その扉は大きく両隣にはドラゴンの石碑がこちらを睨み付けるように置かれていた。
「王の前では決してご無礼の無いようにお願いします」
ふぅー。俺は深呼吸をして扉を開いた。
「……よくぞ来てくれた異世界の者たちよ」
そこには玉座に居座る王様の姿があった。茶色い髪と髭、頭には王冠が首には金のネックレスそして深紅色のマント。the王様って感じの見た目だ。ん?待てよ……。
者たち?
俺は広間に入って早々辺りを見回すと二人の男が王の前に立っていた。
やっぱりいたか…………。俺以外の異世界人が。
面白いと思っていただけた方はブックマーク、評価ドシドシお願いします!