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青春の果実は美味しそうです。

「友達百人でっきるかっなぁ~♪」そんな歌詞を思い出すたびに、小学一年生が持っている無限大の可能性と純粋さを羨む中学時代を過ごしてきました。はい、どうも籠島郁之です。あ、読めないよね。かごしまふみゆきって言います。小学生の親友には「かーご」っていわれてました。中学時代? 何それ、江戸時代の仲間? とにかく僕は真新しい制服で最寄り駅から五駅先にある入学が決まった高校へと向かっています。若干感じています、乗車時間の長さを。でもね、考えてみよう、「友達or乗車時間」。さぁどっちを選ぶ? 答えは余裕で「友達」。だから耐えます。だけど一つだけ心配があるんだよね、そう入学式が季節外れの大雨で中止。みんなと顔を合わせるのは始業式が初めて。だけど大丈夫、スタートラインがずれただけ。そんな事を考えているうちに列車は目的地に到着。僕は眩しい太陽が照らす人影のない駅へ降りた。そう、「人影のない」駅へと。


「え・・・・???」


 期待で満ちあふれた胸は一瞬で干潮へ、慌てて鞄から取り出した始業式のお知らせプリントに汗が垂れる。汗が垂れる先には「始業式は十時からですが、九時に出席をとります」。現在時刻八時四十五分。道順はGoegleマップで予習済み。走るしか・・ないかな・・・。

 八時五十六分。重罪の初日遅刻は免れたけど、ずっと抱えていた嫌な予感は当たってしまった。なんで? なんで・・・? 既に仲良しグループできちゃってんの? 一旦、心を落ち着かせよう。これからはこんな時を想定したプラン八だ。やることは簡単。①座席表で席を確認 ②席に着く ③周りに座っている人の中から友達予備軍をチョイス ④自己紹介 簡単だね。すでにステップ②を進行中。座席は教室の後ろ側のドアに一番近いとこ。そして③を進行中。席に座って周りを見ると、前は黒髪ロングの女子、左はショート茶髪の低身長系女子、左斜め前は空席。既に黒髪と茶髪は仲良く話している。え? 詰んだ? 始業のチャイムは高校生活終了の同義として僕の耳へと届いた。


 「今日から三組の担任になりました! 九鬼智恵子くき ちえこです! よろしくお願いいたします! クッキー先生って呼んでねっ!」


 うわぁ名前とアンバランス。しかも語尾がうるさい。だけど可愛いかも。担任枠はあたりかな。青い顔で可愛さは文句なしの担任を評しているけど、友達作り諦めていないからね。次なる策を考えていると後ろのドアが大きな音を立てて開いた。驚く僕に「お、すまん」と声をかけるのは長身金髪男。顔は整っていて多分おそらく120%モテる。そんな金髪は大声でクッキー先生に声をかけた。

 

 「すんませーん遅れました~。東宮一晃とうみや かずあきす。席どこっすか??」

 

 陰キャレーダーが反応した。こいつはヤバい奴なのか? 友達予備軍申請リストから排除決定を脳内会議に申し出ようとした瞬間、クッキー先生の優しい声が聞こえた。

 

 「あなたがかずくん!? ありがとう! 校長先生を救ってくれて! 席はあそこよっ!」

 

 クラスの皆はすげぇあいつみたいな顔してるけど、僕の顔は青から緑へと変色していった。それもそのはず。クッキー先生が指す方向は間違いなく僕の左斜め前。特に未来予知とかの異能はあいにく持ってないけどはっきりと見えてしまった。茶髪と黒髪が金髪とウフフしてる姿を。最悪だよ。せっかく友達作ろうプランまで考えてきたのに。何だよ、仲良しグループ早速作っちゃって。これ、もはや僕が入る隙間なくない? コミュ力ないやつって人権ないの? 遅刻してホームルームの途中にドアを勢いよく開ける奴って大概悪い奴じゃないの??? 

 こうして、自分自身が遅刻寸前だったことを棚に上げながら、僕は登校一日目のホームルームから来年のクラス替えを夢見るようになった。そして、後にクラス替えはないことを知る。

 その後の流れは全国始業式協会も満足するほどのテンプレ。ホコリが少し積もっている体育館の床に体育座りをしながら、ありがたさを微塵も感じさせない校長先生の話を聞く。そういやさっきクッキー先生が言ってた「救ってくれて」は何だったのだろうか。ま、頭から出血している訳ではなさそうだし、よかったね!校長! そんな事を思いながら放心状態に移行して五分後、唯一知っているクラスメイトの名前を校長が言った。


 「え~新入生の東宮一晃くん。私は・・・彼に個人的に感謝しなければならない。本当にありがとう。そして、君のような生徒が我が校に来てくれて本当に嬉しい。え~今年の一年生は皆、彼のような人格者を目指してほしい。それでは、始業式を終わりとする。」


 ざわめきが止まらない。周りを見渡すと、間違いなく生徒は頭の上にクエスチョンマークが立っている。僕が言いたいことを誰かがボソッと言ってくれた。ありがとう!


 「何したんだよ東宮・・・」


 あぁ決まっちゃったよ。明日から東宮くんは人気者。僕みたいな陰キャとはお友達になれない。いや別に?金髪を?友達に? いぃや全っ然友達になりたくないけどね? だけどパンダ君はいいなぁ。僕もパンダになりたかったよ。明日から髪を染めてこようかなぁ。そうこう考えているうちに、東宮君は明日からクラス内カーストの頂点に立つであろう一際目立つウェイ系グループに質問されていた。


 「ねぇねぇ、カズってこーちょーに何したの?」

 

 「ほんとそれなぁ?教えろよぉ」


 最初に聞いた女子もそれに乗った男子も絵に描いたようなチャラチャラ君。いや東宮君もなかなかチャラいけど何かチャラさのベクトルが違う。すごい個人的な見解だよ? 深夜のコンビニの前でたむろしてタバコ吸ってるようなチャラさ。何か本能的に関わりたくないなって感じ。


 「ん? 踏切でコケてたから肩貸しただけだぞ。」


 「あとコンビニで絆創膏を奢ったな、ちょっとトイレ行ってくるわ。」


 いややめてよっ。すぅぅごい謙虚っ。いい人だ! 友達になりたいな! この後のウェイ系グループの会話なんか聞かずに、必死に東宮君と友達になる方法を自分の世界に浸って考えている。いやわかっているよ? 東宮君がパンダで僕がカラスだって事ぐらい。気がついたらみんな席についている。クッキー先生も教室に戻ってきたらしい。


 「それでは皆さん! 早速ですがグループになってもらいますっ!」


 ほんの一瞬だけ背筋が凍ったけど、次の一言に救われた。


 「グループは決めていま~す! こんな風に近くの四人だよ~! 早く机を動かしてねっ」


 本当にこの先生は僕たちを高校生だと思っているのだろうか。だけど・・・グループ勝手に決めてくれてありがとう。陰キャにとってグループ作りは「苦」でしかない。最悪の場合は保健室へ仮病を使い直行である。

 クッキー先生の話の通りにグループに分かれると、東宮君と低身長の茶髪さんと黒髪ロングさんになった。移動し終えたタイミングでクッキー先生が口を開く。


 「これから皆さんは、このグループメンバーと一緒に体育祭や文化祭やその他学校行事を過ごしてもらいます! これがみなべ高校名物のグループ制ですよ~! それでは最初はグループの中で自己紹介してくださいね! 十二時二十五分になったら各自帰ってOK! 私は帰るね! 皆さんまた明日!」


  教室内のほぼ全員が脳内突っ込みをしただろう。

 

 「マジかよ、クッキー・・・」


 ほんの数秒の静寂からざわめきが復活する。僕のグループでは一番最初に黒髪ロングさんが口火を切ってくれた。僕? そんな超大役背負い切れません。


 「じゃあ私から自己紹介するね。小長谷菜乃こながや なのです。気軽に菜乃って呼んでもらって構わないわ。順番は右回りで良いかしら?」


 「あ~そうなると次は俺だな。さっきも聞いたと思うけど東宮一晃。呼び方はかずでいいよ。よろしく。」


 ヤバい。順調に自己紹介が進んでいく。言う内容は少ない。とりあえず名前だけは言わなくちゃ・・・。


 「それではウチの番だね! 名前は一岡裕梨いちおか ゆり。呼び方は何でもいいよ! あとよく言われるけどこれは地毛だからね! もしかしてカズっちも仲間? やったね!」


 「いや俺染めてるんだけど・・・」


 「それなら敵だね! こうなったら意地でも仲間にしなくちゃ。さぁかずっち! 今から美容院に行こう! 料金は負担しないよ!! 」


 「はいはいそこまで。裕梨は落ち着いて。まだ自己紹介最後まで終わってないでしょ?? えーと、お願いできるかな? 自己紹介。」


 やめてよ! 申し訳なさそうな目で見るのやめて! タイミング悪すぎ! 心の中で超高速の悪態をつきながら言うことを整理する。そう、簡単なこと。名前を言えばいい。名前さえ言えればいい。そして口を開く決意をした。


 「か、籠島郁之ですっ。」

 

 次の言葉を待っているのだろうか、反応が薄い。続けて何か言った方がいいのか、いや言わなければならないってことは僕でも分かってるんだ。だけど・・・ごめんね! 母国語能力失っちゃったよ! 


 「おう、よろしくな籠島。籠島って言いにくいしなんて呼べばいい? ってか中学校ではなんて呼ばれてたんだ? 」


 さすがいい人東宮君。だけどね、僕が中学時代になんて言われてたのかなんて、君がさっき言ったもので正解だよ。そうさ、あだ名なんて高貴なものはつけてもらえずに、その呼びにくい名字で必要最低限の時だけ声をかけられていたのさ。だけど、今日の僕は違う。罪悪感も少し感じるけど小学生の時のあだ名を流用させてもらうよ。そう、僕の中学時代のあだ名は「カーゴ」さ!


 「カーゴって呼んでもらっていたよ。」


 あれ? おかしくね? ここは「呼ばれていたよ」じゃないのか? 満面の作り笑いを浮かべながら僕は僕の日本語の使い方に疑問を持っていた。本当に母国語能力失ったのかな? 英語の勉強の仕方は分かるけど日本語の復習方法は分からないや。ドリルでも売ってんのかな。どうでもいいけど関所は通り越せたよ。やったね。


 「お、それならそう呼ばしてもらうぜ。よろしくなカーゴ。」


 「うん! よろしくねカーゴっ!」


 「よろしくね。カーゴ君。」


 おぉ神よ。僕に生を授けてありがとう。やっぱり人生山あり谷ありだよね。中学時代が谷だったから今は山へ登山中だね。それにしても東宮君がイケてるのは間違いないけど他の二人も顔面偏差値高くないですか? こんな可愛い女子と高校生活を過ごしてバチ当たらない? 班の平均顔面偏差値を割り出すと55~60になりそう。ちなみに僕が抜けると65~70。すっごーい。けど決して僕は自分のルックスに不満を持っているわけではない。確かに、あともう15センチぐらい身長が高くて185センチ前後の長身で、顔は俳優さんぐらい整っていればなぁって思う時もあるけどそれは望みすぎってやつじゃない? だけど東宮君を見てると憧れちゃうな。いいな高身長モテ男。

 結局、その後はニコニコしながらみんなの話に相槌を打って、話を振られたらなんとか答えて十二時二十五分を迎えた。クラスの半分が帰り始めている中、一岡さんが声を上げた。


 「ねっねっ、カズっち聞いてー。あれって今週から掃除で最初の掃除当番ってこと??」


 「いやいや、この席からだとあんな小さな掲示見えねーよ。カーゴ見えるか? あの黒板の左にある掲示らしいけど」


 自慢ではないけど視力は良い。いやこれは唯一の長所。自慢にしてしまおうか。深刻な悩みを持って黒板の左の掲示を見ると、四月八日~十二日の欄に赤文字で一班と書いてある。そういえば、クッキー先生が後ろから一班だよっとか言ってた気がする。小さな文字で他にも書いてあるから目を細めて見てみる。


 {掃除当番は一班から毎週回っていくよ~! サボったら罰がありますっ!}

 

 うわぁ鬼だ。何だよ罰って。怖すぎでしょ。

 

 「うん、見えるよ。一班が今日から掃除で、しなかったら罰だって。」

 

 「マジかよ。ダルすぎ。初日掃除はめんどいって。」


 「そんなことを言わずに、さっさと終わらして帰りましょ。私は空腹に耐えかねるわ」


 「その前にLINFのグループ作らない? 菜乃ちゃんはツエッターでLINF交換したから知ってるけどカズっちとカーゴの知らないから教えてっ!」


 この一言で納得した。僕に足らないものはツエッターだ。そう、初めて顔を合わせたはずなのにグループができていたのはツエッターで知り合っていたに違いない。事前にメールで何組かを学校が教えてくれていたいたから容易に友達作り出来たに違いない。クソっ。無理だよ。ツエッターって好きなアニメの公式アカウントをフォローすることにしか使ったことないよ! 何だよ文明。進みすぎだろこの野郎。それにしてもLINFの友達なんて三人しかいない。ちなみにその三人は母、父、姉の三連コンボだ。初めてなんじゃない?! LINFに「友達」追加すること! もう友達と言って良いのか引っかかるけど! 難しいね!


 「確かにそれは便利かもな。交換しようぜ。ほいQR読み込んでくれ。」


 な、なぁにあっさり交換しちゃってんの? もうちょっと恥じらい持とうよ東宮君! 女子

と交換するなんて超レアイベントじゃないの? それともこれが普通なの? 僕はどうすれば良いの東宮君! なんて脳内で叫んでたら


 「ほら、カーゴ出せよ。交換しようぜ。」


 笑顔が痛いよ東宮君。感謝してます。たとえあなたのパシリになろうと後悔はありません。毎回音速で購買へ走ります。


 「あ、分かった。今出すからちょっと待ってね・・・・はい。追加お願いします!」


 「カズっちのLINFゲットだぜ! むむっ・・カーゴのQRはなかなかの難敵。くっ・・仕方がない、マスターボールだっっ! あ、出来たよありがとカーゴ!」


 「おい、お前。俺のQRは雑魚いってか??」


 「うんっ! ゴミ!」


 「なん・・・」


 「はいはい、そこで終了。裕梨にグループ作り任せるね。私は家に帰ってグループから追加するわ。早く掃除しましょ、もう残っているのは私たちだけよ。」


 あー仲いいなぁ一岡さんと東宮君。二人とも結婚するのかなぁ。少し悔しいけど僕は祝福するよ! 式場探しでも手伝おうかなぁ。でも変なことを言いながら僕の携帯の周りをグルグル回る一岡さん可愛すぎ。

 さっき小長谷さんが言ったように教室は既に僕たちだけ。掃除しますか。掃除用具入れから取り出すのは勿論余ったもの。今回はほうきだね、よろしくほうき君。何でだろうな、掃除用具には普通にコミュニケーションとれるのに・・・。

 床を掃いていると、一岡さんと東宮君が楽しそうに会話しているのが聞こえる。本当に仲が良いんだなぁ。クソっ、早く結婚してしまえよな。なんて思っていると小長谷さんが笑顔で話しかけてくれた。可愛すぎて目を合わせられないよ。あ、誰と話しても合わせられませんごめんなさい。

 

  「仲良いよね二人とも・・・少し嫉妬しちゃうかも・・ふふっ。」

 

 ちょっと待ってください東宮君、攻略スピード速すぎませんか? あと小長谷さんその笑顔、反則です。何だろう。一岡さんとは異なる可愛さがある。しかも一岡さんと真反対。大人びた可愛さ、いや美しさ? 蝶で例えるとミヤマカラスアゲハみたいな。一岡さんは勿論モンシロチョウだね。全会一致で長老が首をぶんぶん縦に振ってるよ。

 返答は無難で波風立たないように。そう肝に銘じながら脳内で練り上げたベストな回答を口に出す。

 

 「そうなんだね。」

 

 はい、完璧です。波風立ちません。無難第一。

 

 「うん。私、中学までずっと女子校で気軽に話せる異性の友達がいなくてさ。」

 「もしかしてカーゴ君がなってくれる??」

 

 僕の目を輝く瞳で見つめながら近づいてくる小長谷さん。今なら、やたら中高生の匂いにこだわるおじさんの気持ちが分かる。すごい良い匂いがする。そして小長谷さんが少し上目遣い「ん~?」て感じで首をかしげてくる。もうこれは直視できない。素直に答えます。

 

 「こ、こちらこそよろしくお願いします小長谷さん!」

 

 少し声がうわずっちゃったよ。恥ずかしっ。でも本番はこの次の返答。最悪のパターンは「・・・え? 冗談だけど・・。あ、ま、よろしくね? 」の冗談パターン。これが来たら経験者でなくても分かるよ。高校生活の敗北者だ。だから答えるのに戸惑っていたんだ! 

 小長谷さんが笑いながら口を開く映像がスローモーションで脳に伝わる。そして耳から脳に届いた小長谷さんの声はこう言っていた。

 

 「ダメだよ。カーゴ君」

 

 え・・・? 脳内で認識した声と映像が一致しない。高校生活は終わったらしいけど、脳が逝かれてるとなると生も全うできそうにない。卒倒しかけた僕を救ったのは彼女の声だった。

 

 「ダメだよ。私にカーゴ君ってあだ名で言わせてるなら菜乃って呼んでね」

 

 あ、助かったけど終わった。人生初超高難度クエスト「女子を下の名前で呼ぼう!」勝手に受注されました。幼稚園の頃は毎日クリアしてるような猛者だったけどそれはノーカウント。

 

 「ほら、ちゃんと言ってね?」

 

 ひたすらに恥ずかしい。つい数ヶ月前まで教室で寝ていただけなのに! 自分でも顔をトマトにしてると理解できるくらいになりながら答えた。

 

 「ナノ・・コレカラモヨロシク・・・」

 

 「うん、よろしくね。友達になってくれて・・ありがとう。」

 

 すぐに背を向けてしまったけど若干頬を赤くした小長谷さん、いや菜乃を発見。歯がゆい!あーあーあーあ歯がゆいよ!青春の味ってこんなのなのかな?あーあーあーあー歯がーゆーいよー。当の僕はほうきを握りしめながら棒立ちしています。十秒後に何とか動くことができたけど何やら見えてしまった。そう、僕の顔の赤さを純粋に大笑いしてる東宮&一岡カップルを。あああーーーーー最悪(青春)だ。

 そんなこともありながら掃除を再開。初めて使う教室なのにホコリが多い。今の二年生、サボりました? そろそろホコリが教室の後ろに集まってきたね。ちりとりにジョブチェンジしようとしたら一岡さんに先に開始していた。どうしよう、僕のスライスチーズみたいな薄さの存在意義が早速削れそう。防止策として、鼻歌を歌いながら、ホコリをリスのようにかき集めている一岡さんの隣に、こっそりとゴミ袋を広げてステイ。これだけは渡さない。低難度クエスト「ゴミはゴミ捨て場へ」は僕でもソロで行けるんだ。ははっ、一岡さん、早くゴミを袋に入れて僕をゴミ捨て場へパシらすんだ! 早く!

 

 「よーーやく終わったよ! それじゃカーゴ! 一緒に捨てに行こう!!」

 

 「あー僕一人で行けるからさ、みんな先帰ってていいよ~」

 

 ゴミ捨てソロ宣言を伝達することくらい何とか言える。少し慣れたかもしれないね、対人コミュニケーション。みんなありがとう! 感謝してるよ!

 

 「んじゃ、俺は帰るぞ。じゃな。」

 

 「私も帰るね。もう空腹で立ってられないわ。」

 

 「わかったぁ~。ウチもカーゴと捨てに行く!」

 

 あれ? 一岡さん? 日本語下手ですか? 結局二人は帰ってしまうから、いや別に良いけどね? 少しも一岡さんと二人っきりになって話題に困ったらどうしようなんて思ってないからね? 普通に話せるかも危ないけどね? 校内案内板を見て覚えたゴミ捨て場への道のりを二人で歩き出す。

 

 「ね?カーゴ?」

 

 「ナンデスカ?イチオカサン」

 

 「もぉ~。普通に話せないの? もしかして恥ずかしがり屋さんなのかなぁ??」

 

 はい、そうです。今日でだいぶ克服したと思ったけど短期治療は少ししか効果がないようです。それと脇腹くすぐったいですツンツンしないでください。あと脹れっ面しないでください。モンシロチョウの八十倍可愛いです。

 

 「下の名前で呼ぶのが恥ずかしいならあだ名つけてもいいよー?」

 

 「いやいや、それはそれで付けづらいけど? うーん、まずは名字でいい?」 

 

 「むうぅ・・・言ってみて」

 

 「一岡・・・さん」

 

 「さん、がついてるじゃん! もぉ~」

 

 とか会話してるうちにゴミ捨て場へ到着しゴミ袋をポイ。改めて考えると、僕に菜乃って言わせた腹ぺこ星人は何者だろう。胸はおしとやかだったけど。別に関係ないけど一岡さんは結構出てる。本当に関係ないよ? 教室へ戻る廊下を歩きながら、またもや一岡さんは話し始める。この人本当に人生楽しそうに見える。いいなぁ。

 

 「ねぇねぇ、カーゴ?」

 

 「何だい一岡さん?」

 

 目を少し背けながら答える。

 

 「今日、ギリギリぽ~く見えたけどカーゴの家ってどこら辺にあるの?」


 「みなべ高校前っていう最寄り駅あるでしょ?」


 頷く一岡さん。あーこれ絶対駅の近くって思ってるよな。残念。五駅先です。


 「そこから上り方面へ五駅先です。」


 驚いたでしょ? 多分これが唯一マウント取れそう。通学時間は四十五分。この時は長過ぎだと思ってました。井の中の蛙大海を知らず。


 「え! やったね神様! 近いよカーゴ! ウチはその隣の和島だよ! カーゴの降りる駅って西和島でしょ?」


 「え、そうだけど? え? 何でそんな遠いのにここ来てるの?」


 素直に驚きました。はい。何で? そうなんです。実は僕、中学校も小学校も幼稚園も徒歩五分圏内だったんです。どうでもいいけど高校も近くにあって大学は少し離れて自転車十分。地域密着型の人生も可能だったのです。そして中々返事が返ってこない。なんで? 少し顔を右下に向けて彼女の顔を見ると疑問を困惑で返された。


 「何で聞くの?」


 さっきまでとは違う彼女の表情。瞬時に確信した。決して逆鱗に触れた、地雷を踏んだわけではない。ただひたすらに彼女は予想していなかったのである。つまり、常識的に考えてそんな質問が来るなど思ってもいなかったのである。それが分かるのに理由が見当たらない。


 「な、何か気を悪くしたらごめんね。」


 何故、そんなに困惑しているのかが分からない。咄嗟に口から出てきた謝りは効果なし。ほんの少しだけ。本当に少しだけ、悲しい顔のようにも見えてきた。


 「ウチが逆に質問するね。カーゴは何でここに来ているの?」


 いや、答えてもらっていないけど。そんな文句は当然言えるはずもなく。


 「いや、何でっていわれても・・・学力が釣り合」


 「嘘だ。」


 彼女の目が冷たく僕を刺す。教室前の廊下には日差しが差し込む。春の日差しとは言うけど、昼になると柔らかさなど微塵も感じない。そんな中、僕たちは互いに向かい合う。だけど、互いに何と向かい合ってるのかが分からない。  

 思い出す。中学三年生の初夏に担任の数学教師が笑顔でこう言った。「良かったなぁ。ここなら推薦使えるぞ。申請しとくな。両親には説明してるから。」疑うべき点は沢山あった。だけどね、残念ながらこの時の僕は生きる屍なんだ。ただ黙って頷くだけ。尚更、高校受験が無くなるメリットがあるから断るはずもない。だけど本当にこれだけ。正直な話、中学時代の事なんてあまり口に出して語りたくないし、全部言わなくても問題無いよね。

 

 「嘘だっっ。」

 

 さっきも聞いたよその台詞。ここまで言われると流石に少しイライラする。

 

 「本当だよ。僕の成績だとこの学校しか取れなかったんだ。もう帰っていいかな。」

 

 「それなら何でこの学校があるのか知らないの・・・?」

 

 強気に答えたから戸惑ったのだろうか。少し口調が変化したけど、それでも彼女が言ってることは意味が分からない。

 

 「どういうこと?」

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