「親友」【超ショートショート】
好きな人が親友と被ってしまった。
私は急いでダイニングテーブルに置いてあった銀製の鋭く尖ったナイフを利き手に持つ。
愛というものは不変であるが、そのわりに醜く薄汚い色に染められたような身体をもつ。
私たちが密かに想いを寄せている隣のクラスのA君はとても明るく、誰に対しても友好的に接してくれる。容姿は平均的なものではあるが、彼の持ち前の笑顔は周りの人々を温かい空気へと誘ってくれるような気がする。
そんなA君に私たちは恋をしてしまった。
初めて親友の口からA君が好きだと聞いたのは今から1ヶ月ほど前のことであった。それより前から彼に好意をもっていた私は親友の話を聞いたとき、強く憤りを感じた。どうして私の好きな人の話を親友の口から聞かねばならないのか。どうして、親友の醜い片想いを応援しなければいけないのだろうか。私が先に彼を好きになったのに、なぜ彼女は恥ずかしそうな、照れたような顔をしながら私に片想いについて報告してくるのだろうか。
私は出会ってから初めて親友に嫌悪感を抱いた。こんな横暴で醜く、すぐ男と絡もうとする淫乱な奴などもう友達ではない。確かに出会った頃は片方が欠けてしまったらもう片方も崩れ去ってしまうような、まるで心臓と心臓が太い管で繋がっているような深い絆が存在していたが、今となってはそれも単なる玩具に過ぎない。所詮、私たちの友情は赤ん坊のおもちゃのようなひどく単純で簡単に壊れてしまうような代物であったのだ。
私は手にしたナイフを隣に座っている親友の心臓へ勢い良く突き刺した。憎しみと多量摂取した殺意をねじ込みながら。
ぐあっ、という声にもならない叫び声と共に親友の口から真っ赤に染め上げられた血液が水鉄砲のように噴き上げられた。
始めは手足を振り回しじたばた藻搔いていた彼女は、しだいに動きが遅くなっていく。
ふふっ、と私は静かに嗤った。憎しみに任せて行動することはとても気持ちが良い。そして、彼に思いを寄せている彼女を殺してしまえば、彼の全てを私が手に入れることができる。
なんて、効率が良いのだろうか。
私は醜い。だが、後悔はしていない。嫌われても構わない。人生なんて楽しんだものが幸福となるものだ。
私は衰弱していく彼女を悲哀の感情を含んだ瞳で見る。ひどく憐れなように感じる。
それから数十秒後、今度は私が意識を失う番であった。
自分にナイフを突き立てなくても私は死ねる。たとえ、私が彼女を殺しても彼の寵愛を受けることはできなかったのだ。だが、それでいい。親友との縁もここまでだ。
私は彼女と共有している心臓に自分の左手を当てる。もう、心の律動もだいぶ消えかけている。
私は彼女を殺しても、自らが望んだ幸せを手にすることは出来なかったのだ。
だって、
私と親友は心と心が繋がっているシャム双生児であったから。
(終)