57 パラソルの下で
その後、俺たちは海でする定番の遊びを片っ端からした。
高校生ということを忘れて、そりゃ幼い子供のようにはしゃいだ。
そして体力のある組と体力のない組に分かれてしまい。
俺と加恋はパラソルの下で未だに太陽の肌を焦がす神カップルを見ていた。
本当に、誰が見てもあの二人はお似合いのカップルだろう。
「すごいわね……あの二人」
「だな。あんなに遊んだのにまだ遊ぶ体力あるもんな」
「かくいう私たちは……帰宅部らしいわ」
「だな」
加恋はラッシュガードを羽織ってはいるものの、ジッパーを完全に下ろしていて水着が露出している。
この水着を見るだけであの試着室の出来事が思い起こされてしまい、どうしても恥ずかしくなってしまう。
まぁ無理もない。幼馴染とはいえ、こんなに成長したらただの女の子なのだから。
「まぁ私たちには、こうして日陰で海を眺めるのがちょうどいいと思うわ」
「俺もそう思う」
「それに……あんまり日焼けしたくないもの」
そう言う加恋の肌は雪のように白い。
知識のない俺でさえ、よく手入れされているのだと分かる。
未だに幼い頃を引きずっている俺だが、加恋はやはり大人に成長しているのだと実感した。
……実感するところがなかなか気持ち悪いことは秘密な?
「加恋も女の子だねぇ~」
「っ……‼ そ、それセクハラよ! う、訴えるわよ!」
「えぇマジか⁈ 許せ頼む許せ! もう一生言わないから!」
「な……なんで一生言わないのよ!」
「いやどっちなんだよ!」
出ましたツンデレのツン強化、本領発揮。
もうこうなったら深く考えないようにしている。
「あぁー律のせいで喉乾いた」
「俺のせいなのかよ……じゃあ水飲むか? まだ開けてないやつあるけど」
「……んっ」
加恋が体を伸ばして俺の横にあるペットボトルを取る。
加恋の髪の毛先が俺に当たって、ふわりと柔らかな香りが漂う。
……き、危険な匂いだ。
「ってそれ俺の――」
止めようとしたが、加恋は無視して喉に流し込む。
勢いよく飲み過ぎたのか、少しスポドリが垂れてしまい、妙になまめかしい。
「ぷはぁ。ありがと」
「お、おう……」
なんでわざわざ俺のやつ飲むかなぁ……。
これまた考えても意味がないので、考えないでおく。
「暑いなぁ」
「そうね」
日陰にいるのにも関わらず、汗がじんわりとにじむ。
この暑さは実に夏らしいが、やはり鬱陶しい。
「でもまぁ、たまにはこういう風に一日外に出るのもありだよな」
「そうね。たまになら悪くはないわ」
「だなぁ」
そしてまたぼんやりと二人の姿を見る。
さっきあんなに遊んだのに、あいつらのスタミナカンストしてんの?
そんなことを思っていると、不意に加恋が少し俺の方に寄ってきた。
甘い香りが、さっきよりも強く漂う。
「ど、どうした?」
「律何気に日陰から出てるじゃない。だから、よ」
「いやでも俺は別に……」
「律も日陰に入ってないとフェアじゃないでしょ?」
「常日頃から加恋俺に対してあまりフェアじゃない気が……」
「あぁ?」
「なんでもないっすはい」
この暑さも和らいでしまうほどの冷酷な視線。
この視線すごく地球温暖化防止に役立ちそう。
「だから、別に律と近づきたいとかそういう考えはないから。勘違いしないでよね?」
明らかにセリフがツンデレのそれだったが、加恋がわざわざ俺に近づいてくるわけがないので今のはただの配慮だろう。
まぁ俺は青春大会勘違い部門優勝のスーパー勘違いボーイなので、そういう前置きをしてくれるとだいぶ助かったりする。
「わかってるって」
「そ、そう……ならいいけど」
加恋は唇を尖らせて、体育座りをしたまま海に視線を向けた。
俺も同様に気を紛らわせるために海を見る。
波が寄せては返す。
この動きを煩悩を消すように見るだけで、だいぶ平常心を保てる。
ただ、五感全体を使って刺激してくるもんだからかなり修業に近い。
ほんと、なんで最近俺修業多いんだよ。
「…………」
「…………」
「……暑いな」
「……そうね」
なんだか妙に気まずくて、同じような会話を結局五回ほど繰り返した。
ほんと、最近の加恋少し変なんだよなぁ……
先ほど投稿した短編、
「罰ゲームで告白されたことに気が付かなかった僕は自殺を決意した。だけど自殺を待ち伏せしていた美少女に引き留められ、結婚して幸せになりました」
過去一ぶっ飛んでる作品なので、ぜひ見てください!
ちなみに短編完結です!




