55 白いワンピース
電車でおよそ一時間。
急行やら各駅やらを上手いこと乗り継いで着いたのは——海。
視界に飛び込んできたのは眩いオーシャンビュー。
「ふっ、眩しいぜバカ野郎」
サングラスを外して太陽を見れば、目が焼けそうになった。
それもそのはず、もう真夏の太陽なのだから——
「さっきから何やってるのよ律。私が恥ずかしいわ」
「…………すいませんでしたァッ!」
俺もこの夏を生きる男の子。
思わず海に来てしまえば、こんなにもテンションが上がってしまう。
だけどなぜだろうこの温度差。
加恋あまりにもテンション低すぎません?
「ほんとあっついわねぇ」
「そうだな。今日は猛暑日らしい」
「でしょうね」
麦わら帽子を深くかぶって、服をパタパタと仰ぐ加恋。
夏らしくサンダルに白いワンピースを決めていて、ぶっちゃけ俺よりもテンションが高いんじゃないかと思ったのだが。
「それに、あの二人を見てるとさらに暑くなってきたわ」
「それな」
俺たちの視線の先にいる、誰もが羨む美男美女カップル。
海ということもあってテンションが高いのか、今日はやけに距離が近い。
手なんか繋いじゃったりしている。
「海綺麗だねぇ」
「だな」
でも、見せびらかすようにいちゃつかないあたりさすがだ。
周りは「この夏最もイかしているのは俺ら!」と言わんばかりにいちゃつくカップルだらけ。
正直目の毒でしかない。
「早速別行動し始めたけど、この先大丈夫なのかしら」
「まぁ最近二人とも忙しく会えてなかったみたいだし、もう少し二人にしてあげてもいいんじゃねーの?」
「……そうね。じゃあ適当に……」
加恋は一度俺の方をちらりと見て、海辺を歩き始めた。
たくさんの観光客がいる中、ひときわ目立つ白いワンピースの少女。
こんなにも海が似合う人はいるだろうか。
俺はまるで映画のワンシーンを見ているかのような気分になった。
「どうしたの? 早く行きましょ」
「お、おう」
駆け足で加恋の横に並び、海に沿って歩く。
風がビューっと吹いて、気持ちがいい。
「……昔も、こうして一緒に浜辺を歩いたわよね」
「そうだな」
「……懐かしい」
「だな」
俺たちは昔から海が好きだった。
家族ぐるみで海に行ったりして、夕方になったら帰るのを渋って駄々をこねったっけ。
どれも懐かしい思い出だ。
「確かここでも、律に……」
どこか悲し気な表情を浮かべてそう呟く加恋。
「ん?」
「な、なんでもない。やっぱり海って、いいわね」
「ほんと、な。ここら辺の人はこんな海を毎日見れるからさ、ちょっと羨ましいよな」
「私、将来は海辺に家を建てたいわ」
ふふっ、と笑ってそう言う加恋。
そんな加恋の夢を、俺は昔から知っていた。
「昔からずっと言ってたな」
「そうね。私のたくさんの夢の中の一つ」
「……叶うといいな」
心の底からそう言った。
それはずっと昔から一緒にいる幼馴染としての言葉だった。
すると加恋は、踊るようにくるりと振り向いて、無邪気に笑って言った。
「律も、手伝ってよね」
そう言い残して、せっせと砂浜を歩いていく加恋。
俺はそんな加恋の背中を見ながら、加恋の言葉の意味を考えていた。
「……どういうことだよっ」
結局わからなかったので、砂を蹴って加恋の横に並ぶ。
「夏ね」
「何急に当たり前のこと言ってんだよ」
「う、うるさい! 当たり前のことが輝く日なのよ、今日は」
「そ、そうなのか」
「そうなのよ」
加恋の謎理論にゴリ押された。
だけどまぁ、今やけに楽しそうにしているからいいや。
やはり白いワンピースの美少女は、笑顔に限る。
眠い




