54 今夜はどんな夢?
「じゃあ、また」
「おう。……温かくして寝ろよ」
「はぁ? もう夏なんだけど?」
「寒いって言ったのお前なんだけどなぁ」
「っ……い、言ってないわ! ふんっ!」
私は逃げるように踵を返して、玄関のドアを開けた。
そんな私を見て呆れるように、律も家に帰っていった。
ようやく、長い長い一日が終わった。
と言っても、私としては学校の昼休みくらいに短い一日で……いや、それは言いすぎか。
どちらにせよ、あっという間に今という瞬間を迎えてしまった。
私の心を覆うこの喪失感……だけど、この喪失感が大きければ大きいほど、今日のデートは楽しかったってことだ。
「ひとまず、お風呂に入ろうかしら」
私はそう呟いて、荷物を部屋に置いてお風呂場に向かった。
***
お風呂に入ってご飯を食べて、その後にアイスを食べたりテレビを見たりと自由な時間を過ごして……。
「ふぅ~やっぱり、この時間が最高ね」
私は部屋であることをいいことに、子供のようにはしゃいでベッドにダイブした。
なぜかと言えば……。
「やっぱり、楽しかった」
お風呂に入っているときもご飯を食べているときも。アイスを食べているときもテレビを見ているときも。
私の心の大部分を占めているのは今日の出来事で、私はそれを思い出すだけで心が幸せで満たされてしまったから。
「ん~‼」
ハートのクッションを抱いて、悶える。
誰かがいたら絶対にできないことだけど、実は結構したりする。
「私ほんと、どんだけ律のこと……」
窓の外をふと見る。
私の視線の先には律の部屋があって、部屋の明かりがついているということは律は今部屋にいるのだろう。
すぐ近くの距離。
だけど、やはりどこか——遠い。
「んーーーーーーーーーーーー‼」
第二次悶え期。
多分この後何度も来ることが予想できる。
でも……。
「でも、今日は私にしては、頑張れたわよ……ね?」
今日は、普段私は律にどうしてもツンツンしてしまうので、できる限りデレデレしてやろうと思っていた。
どうやら最近は、デレデレした女の子が男子に好まれるらしいし。
それに男子はえ、えっちだから、色仕掛けで動揺させられることも知っていて、積極的に行動してみた。
「まぁ、知り合いの子が来てあぁなっちゃったのは、完全に誤算だけど」
でも律はあれで相当動揺してたみたいだし、結果オーライではあるかもしれない。
まぁ、私の精神も羞恥心でなかなかに削られちゃったんだけど。
戻るけど、映画もちゃんと手を重ねられたし、私の伝えたいこともあの場所で伝えられた。
やはり今日のデートは、私にしてはよくやったようだ。
「そんな細かい分析はここらへんにしておいて……あぁ~楽しかった!」
私はハートのクッションに向かって思いっきりそう叫んだ。
やはり今日の全てはその一言に集約する。
きっとあと一週間は今日のことを思い出すだけで幸福感で心を満たせるだろう。
「んふふ。現状で満足しちゃダメだってわかってるけど、わかってるけど……んふふ~♡」
ダメだ。もう今日の私は何も考えられそうにない。
でもきっと、今夜はいい夢が見られそう。
***
まだ現実味が帯びない。
あの時の、まるで夢の中のような浮遊感がまだ俺の中にあって、帰宅後は作業をこなすロボットのように機械的に食事などを済ませ、気づけば就寝の支度をすべて終えてベッドに腰を掛けていた。
「ふぅ~」
大きく息を吐く。
だけどやはり地に足がつかない感じは消えなくて、俺はまたあの時のことを思い出していた。
「綺麗……だったなぁ」
今日という日を思い返せば、たくさん思い出したいことがある。
けど俺の頭の中は最後のあの景色、あの表情しか思い出せなかった。
「ったく、どうなってんだこれは……」
感じたことがあるようで、感じたことがないような、この感じ。
俺は拳をギュッと握りしめて、部屋の電気を消した。
どうか、いい夢が見られますように。
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