8 初めての涙
忌み嫌われる存在。
彼女のそんな微笑みさえも、哀しく思えてしまった。
生まれた時からそんな目で見続けられ、理不尽な対応をされてきたのなら、結婚相手を召喚する! などという奇想天外な発想も、判らなくもない。
それにセトは最近一緒に生きてきた相手を亡くしてしまっている。
どうしていいか判らず混乱してしまったのだろう。
でも、どうしてそこまで結婚に拘るのかが、俺には判らなかった。
結婚なんてしなけりゃいい。
そう軽はずみに言った俺を見たセトの碧眼は、あ……と思った時には潤んでしまっていた。
(泣いてんじゃんか……)
後悔先に立たず。
俺は自分の、こういうところが嫌いだ。
結婚しなければならない理由は、ちゃんとあった。
村だか街の掟を持ち出されたのだそうだ。
『結婚していない者は信用に値せず、敷地内に置いておくことは出来ない』
勧告されたのが、ばあちゃんが死んで暫く経ってから、ということは恐らく『1人』というのがキーポイントだと俺は考えた。
忌み嫌われる存在=危険人物を1人野放しにはしておくことは街(村)にとって脅威。
みたいな考え方なんじゃないかと。
(こんな無害そうな女の子を脅威って考えがまず馬鹿らしいけどな)
この問題は、まだ今は深く考えないでおこう。
「ほら……」
ポケットに入っていたタオルハンカチをそっと差し出す。
セトは一瞬驚いたような顔をしたけれど、無言でそれを受け取った。
さっきまで、花の様に笑っていたのに。
ぽろぽろと零れ落ちる涙を押さえるセトは、今にもしおれてしまいそうに思える。
とりあえず俺は、今思いついたこれらのことをセトに話してみた。
今は俺が一緒にいることを街の人に伝え、もう一度聞いてみよう? と提案する。
「はい。ありがとうございます、レン様。レン様は、やっぱりすごい方です。何も出来ない私にもこんなに優しく接してくれて……」
「何も出来ないことないだろ、ここで1人で暮らしてるんだ」
「お料理も、下手ですし、すぐ物は壊しますし……。説明もちゃんとできなくってレン様を驚かせましたし」
少し前のセトの登場時を思い出し、苦笑する。
「まぁ、これくらいは下手の内に入らないって。それよりも俺はもっと身綺麗にした方がいいと思うね。全身泥だらけで結婚相手探しとか聞いた事ない」
「は、はいっ」
セトが頬を赤く染めながら目を伏せた。
(やっと、少し笑った)
「あの、レン様?」
「なに?」
その手には俺が渡したタオルハンカチが握られている。
「これ、まだ持っていてもよろしいでしょうか?」
「いいよ、あげる。それより、この世界ではさー……」
それからたくさん話したね。お互いの世界のこと。
浮かんでくる、あの日の2人。
今でも思い出すんだ。
俺が話すことを本当に楽しそうに、嬉しそうに聞いていた君の事を。
さっき泣いた子がもう笑ったと、安堵していた。
俺はあの日からきっと、ずっと願っているんだろうと思う。
ΔΔΔΔΔΔΔ008