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57 思い描く未来へ



 それから約1カ月後。

 暑い夏目前のバール国にて、クルミアの森から街への舗道がついに完成した。

 クルミアの街と同じ、色とりどりのレンガが敷き詰められ、圧巻だ。


 どうしてこんなに早く舗装が完了したかって?


 それは土の妖精マグマグさま、改めオートマターズの力を借りたからに他ならない。

 植物に関してはアルラウネのミドリとモモの助力を得て伐採。

 硬い地面はオートマタの土属性の力で掘り返してもらって時間短縮が出来たんだ。


 後は、クルミアの街のレンガ屋に発注していたレンガを受け取って、街の人の協力も得られた俺達は、真夏までに何とか舗装を終わらせることに成功したってわけだ。


 妖精の力はすごい。

 力を貸してくれるのは友好度や相性があるらしいけど、マヘス曰く、俺達は本当に運がいいらしい。

 風呂のバスタブを造ってくれたオートマタもそうだけど、一体何が妖精達の心を動かすのかは判らないだけに難しいという事なのだろう。


(まぁ、あいつらはセトが好きっていう事だけだろうけどさ)


「えっと、クラウスさん。有難うございました、こんな盛大に」


 そして今日はそのお披露目。

 『クルミア道』完成記念イベントをクルミアの領主であるクラウスさんが開いてくれたのだった。

 

 晴れ渡った空は、気持ちの良い青。

 今日は午前中は涼しくて良かったな、なんて思ってた。


「何を言う。クルミアまでの道の舗装はすごく大きな事だぞ、レン。此度も、そなたの働きには頭が下がる思いだ。心から感謝する」

 

 正装したクラウスさんが礼をとる。俺も慌てて頭を下げた。

 彼の周囲を守る衛兵も、いつもの鎧と違って金や赤の刺繍の入った軍服をまとっており、ご丁寧にラッパまで持っている。


 事前に手紙が届いていたので、俺やセト含め、参加する人達は皆気を遣った服装をしていた。

 俺としては、マヘス夫婦やグノム族の正装を見られたってのが、結構大きな事だったかもしれない。

 マヘスとアテフはカッコいいし、アドルフとミンは七五三みたいで可愛かったんだよな。


「しかし、本当に良かったのか? この道には、お前の名を付けるのが相応しいというのに」


「恥ずかしいので、クルミア道でいいと思います、はい」


 それは完成報告にクラウスさんの屋敷を訪れた時に言われた事だった。

 是非にと言われたが、丁重にお断りをしたのだ。


 俺の名前が付いた道とか、これからほぼ毎日使うってのに、その度に恥ずかしくなりそうで絶対に嫌だ!

 今もまたちょっと恥ずかしかったのが顔に出ていたのか、ふふとアテフに微笑まれ、俺は本当に顔を赤くした。


 以前ラシャプに作ってもらった黒のドレスを纏うアテフは妖艶で、本当に綺麗だ。

 大人の女性の色気っていうか、有翼種族で身長もあるからモデル体型だしな。


「こら、アテフ」


 彼女をたしなめるマヘスはマヘスでガタイのいい長身色男だしさ。

 そんな2人から見たら、俺なんてお子ちゃまなんだろうな。


「変な顔をして、どうしたのだレン」


「いえ、なんでも」


 首を傾げるクラウスさんから、心ばかりの、と言っても結構な額の謝礼を受け取り、これまた驚く。

 手伝ってもらった人達に取り分を渡してっと。手元に残ったのは、金貨3枚。

 アテフの着ていた黒のドレス=ラシャプへの借金はまだ残っているけど、この資金は他へ回したかった。


「あの、クラウスさん。実は、少し聞いてもらいたい話があるんですけど――」


「ほう、今度はどのような事なのだ?」


 オートマタが力を貸してくれた時から、考えていた事。

 きっと、今度もみんなで力を合わせれば、絶対に叶えられると思うんだ。




 数日後。

 クラウス邸に集まったメンバーは、俺、マヘス、アドルフ、ラシャプ、ジェフティだ。

 セトとアテフは付いてきてはいるが、別室にいる。

 大きな会議机で顔を突き合わせて見ているのは、俺が羊皮紙に書いた計画書だ。


『大衆浴場』

 

 これが俺の構想していた事だった。

 クラウスさんにも聞いたが、恐らくカデッシーナの大半の国では、富裕層のみ自宅に風呂がある現状であり、その他の民間人はセトと同じような方法で身体を清めているらしい、ということ。


 最初俺はセトの家に風呂場を造りたいと思っていた。でもトノ・オートマタ達が巨大なバスタブを造ってくれた事で、俺の中に新たな計画が思い浮かんだんだ。


(知り合いが増えたってのもあるけどさ。皆に風呂につかる気持ちよさを味わって欲しいんだよな)


 でもその実現の為には、皆の協力が必要だった。

 この地域一帯を管理する領主クラウスさんに話すと好感触。

 詳しい話を聞いてみたいと言うことになり、今日、この日を迎えたのだ。


 この計画書を作りながら考えてみたが、思いの外、作業進行の妨げになる事は少ない事が判った。

 クルミア周辺には、植物を育てる為にあった水路が幾つも走っている。それを利用して街の人が安価で利用できる浴場を建設できないかと提案する。


 この建設に携わるクラフター、そして必要な素材の生産者、採取者、運搬する行商人。お金が回る事と、それぞれに恩恵がある事も伝える。

 ……で、これが俺が1番伝えたかったこと。


「お湯につかると、心がゆったりしますよね。1日の疲れをここで癒してもらえたらって。風呂は国、街の繁栄を支える民の側にこそあるべきじゃないでしょうか」


 予算はかかりますけど……と、最後は小さな声になってしまったけれど。


「ふむ。……そうだな。それは私も同意見だ。私は民の心の側にありたい。それに、これが完成すればクルミアの街の宣伝となろう」


「観光客が増えるかもな」と、俺に向けて笑みを浮かべたクラウスさんは、悪戯っ子みたいな顔だ。


「それじゃあ!」


「うむ。この計画書を承認する。皆の力を合わせ、達成を目指すぞ!」


 はい! と返事をしようとしたら皆が一斉に「おー!」と応えてくれた。

 

「釜の風呂も作るって本当かだなも?」


「では、俺は脱衣所の装飾に使う革と角の調達と加工だな」


「ボクは湯上りタオル? レン、君が描いてあるこれは服かい?」


「そう、こうざっくり着るのをポンチョって言うんだけど、それがタオルで出来てて被るだけで拭いたりも出来るってわけ」


 いつものメンバーは、こういった事も慣れたものだ。ラシャプは積極的な方だし、問題ないみたいだな。

 このメンバーで心配なのは言わずもがな――。


「わ、わた、私は一体何を」


 挙動不審になるなよ、ジェフティ。


「ジェフティは浴槽を加工する薬品作りと、スライムの量産な。期待してるぜ、敏腕錬金術師!」


「も、勿論だ! 私を誰だと思っている!?」



 こうして、めでたくも中々に大変な俺達の新たな計画は始動したのだった。




「ええ~!!」


 クラフターの男共が熱くなっていたその頃、まさか別室では女性2人が、こんな話をしているなんて思いもせずに。  


「マ、マヘスさんとアテフさんの、あ、赤ちゃん! おめでとうございますうぅ~えぐえぐ」


「ああ、泣かないでおくれよセト。ふふ。出てきたら、遊んでおくれよね」



 今日の、キラキラの太陽の光みたいに。

 これからも続いてゆく、俺達の物語に幸多からんことを。

 

                    『異世界クラフターズ・ハイ』完。

これまで異世クラを読んで下さった皆様、有難うございました。

レンとセトの世界で少しでもほっこりして頂けていたなら、書き手として本当に嬉しいです。

ツイッターに一也木さんから素敵なイラストを載せておりますので、是非ご覧頂ければと思います。

有難うございました!


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