5 美少女とシチュー
「レン様? どうなさいましたか」
水も滴るいい女。
俺をきょとんとした表情で見つめてくる茶色だったものは、汚れを落としたらまさかの美少女だった。
それに何よりその造形。金糸の髪の間から伸びる長めの耳。
「エルフ……」
ファンタジーに疎い俺でも知っている、種族。
「すみません……」
「えっ」
だが俺の呟きを耳にしたセトは、とたんに落ち着きがなくなってしまった。
そのまま無言で衣服も洗い終えたセトが水から上がってくる。
「わたし、半分の血しか入っていなくて」
そのまま俺の隣に座ったセトの顔は明らかに悲しげだ。
「ハーフってことか? へえ、かっこいい」
きょとんとした大きな瞳も、宝石みたいだなと俺は思っていた。
「ふわああああああ!」
セトの頬が紅潮する。大きな声にびっくりはしたものの、俺は怒る気にもなれない。
それくらいセトは素直な『嬉しい』という表情をしていたのだ。
「わ、わたし初めてです! 嫌がられなかったの。嬉しいですっ有難うございます!」
「はあ、いえ……てか、服乾かさないと風邪引くんじゃね?」
「あっ、そうですね。乾かします!」
「って、ここで脱ぐなあああ!」
コトコトと鳴る鉄鍋からは、なんとも言えない匂いがしている。
「もうすぐ出来ますですよ~」
これまた地味な茶系のワンピースに着替えたセトは、木のお玉を持って俺を振り返った。
金糸の髪はまだ半乾きなのか色が濃く見えたが、この色もとても綺麗だ。地味な服も、それが逆にセトそのものを引き立てている様だと、俺には感じられた。
セトは先程からずっと嬉しそうにしている。
さっきの生まれの話が関係しているのかな。嫌がられた、とか言ってたっけ。
俺は思いついたままを口にしてみることにした。
「ハーフエルフって、この世界じゃ嫌われてるのか?」
目の前に置かれていたパンをちぎってかじる。バラバラと落ちる破片も気にしない。
なるほど。かなりハードだけど、これはこれで旨いかもしれない。
セトが振り返る。
「はい。血が混じる事が、良しとされないのです……」
コトリと俺の前にシチューを置くセトの表情は、途端に暗い影を帯びていた。
『ソレ』を見た俺も、同様だ。
ぶくぶくと湯気の上がる『ソレ』。どうしよう、とうとうシチューがきてしまった。
「……」
木をくりぬいた椀に入っているというだけで旨そうに見える筈なのに、肝心の中身の異様さが何もかもを上回ってゆく。
もしかしなくても、さっき仕留められたウサギの肉が入っているんだよな、これ。
鼻腔をくすぐる、ではなく、明らかに刺激してくるこの匂いは、俺にシチューの危険さを増し増しで伝えてくるのだった。
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