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続 舗装



「だぁ~、あっちぃ」


 俺は伐採した枝や葉っぱの入った籠を下ろして空を見上げた。

 悲しいかな、今日もカデッシーナはカンカン照りで雲一つない青空が広がっている。

 頭にかいた汗が髪の毛の間から流れ落ちてくる。それは額を通って俺の鼻筋の横を滴り落ちた。


「確かに、ここ最近の熱さは例年にないな」


 汗を拭うマヘスも同意する。

 だが長身で褐色の肌に赤毛を持つこの男は、実に爽やかな汗をかいている。


「モモも、へばっちゃった、っていう……」


 先程まで俺の肩に乗って、舗装の為の草抜きを魔法で手伝ってくれていたモモはグロッキーだ。

 ポフンと消えてしまったと思ったら呼んでも出てこない。

 どうやら今日の営業は終了のようだ。


 カデッシーナの大陸も夏が近いのか、いよいよと暑くなってきた。

 これ以上暑くなると作業が難しくなる上に、せっかく刈った草がまた勢いを増してくる。

 ということで、急ピッチでクルミアの街までの舗装をやってしまおうと頑張ってはいるのだが、いかんせん人力では限界がある。


 マヘスの他にもグノム族のアドルフやミン、クルミアの街の衛兵もたまに手伝ってはくれるし、この間ひょんなことから出現したアルラウネもこうして協力はしてくれる。


 しかし人も妖精もこの暑さには勝てず、頑張ってはいても気力体力が追いつかないのだ。

 アルラウネのモモも、熱さには弱いらしくすぐに参ってしまう。


 植物の妖精なので、水を与えれば復活するだろうと思いきや、その水が大量にいるのでどうにもならなかった。


(革袋にいれてこれる水なんて、たかがしれてるしな)


「もう水も無くなったし。うう」


 空になった革袋を覗き込みながら、呟く。


「こっちもだ。今日はそろそろ終わりにするか? 暑さにやられちゃあ元も子もない」


「だな。帰って水浴びして飯食って昼寝してぇ」


 マヘスがきょとんとする。


「それは中々魅力的だが、お前は確か今日グノムの里に行くんじゃなかったのか」


「! あ~、そうだった」


 マヘスの言う通り、今日は銀を分けてもらうついでに、セトの家で使っている鍋の磨きを頼もうと思っていたのだ。


「サンキュなマヘス! 先に行くわ」


 手を上げるマヘスに見送られながら、俺はクルミアの森を後にした。

 とりあえず水浴びして塩分取ってだな。


 ぶつぶつ独り言を言っていると「くぅ」と腹が鳴った。今日の昼飯は何だろう?

 作ってくれているであろう人物を思い浮かべ、俺は微笑んだ。






「ただいまー」


「おかえりなさいませ! レン様」


 玄関の木の扉を片手で開けつつ、革靴についた泥を払っていると奥からセトがパタパタと出てきてくれた。

 シンプルな麻色のワンピースと腰から下のエプロン。

 身に付けているものは質素かつコントラストが目に優しい色合いだが、それらを着ている人物は眩しいくらいの美少女だった。


 白い肌、金糸の髪に青緑の瞳が煌き、微笑むとえくぼの出る頬は照れると桃色に染まる。

 少しドジだが、俺が元いた世界では珍しい控えめで可愛らしい女の子だ。

 暑いので、最近は髪を結い上げポニーテールにしているのがまた俺にはたまらなかった。


「今日も舗装作業、お疲れ様です。暑いの大丈夫でしたか?」


「うん、なんとか。でも今日はこれ以上は止めといた方がいいなって事になった」


 ハーフエルフのセト。

 ひょんなことから、この美少女に異世界転移させられた俺は、様々なことを経て彼女と婚約。一緒に住むことになった。

 最初は不安もあったけど、意外に何とかなるもので。

 カデッシーナの住人に助けられ、また協力しながら、俺は異世界の日々を穏やかに過ごしている。


「昼飯、まだだよな? 手伝う前に、俺先に水浴びして来てもいいかな?」


「はいっ 大丈夫です。えっと、汗たくさんですか?」


 セトは微笑みながら首を傾げている。その様子が可愛くて、俺は妙に恥ずかしい。


「めちゃくちゃ汗かいたからさ。においが、その」

 

 思春期の男なもんで、しかもセトと一緒だし気になるものは気になるんです、はい。

 するとセトが、スッと顔を寄せてきた。

 な、なんだなんだ!


 くんくん


(におわれたし!)


 嫌な顔をされたらと思うと、別の変な汗が出てくる。

 でもセトは表情ひとつ変えることは無かった。


「大丈夫なのです!」


 ふんふんと元気よく力説するセトは相変わらずだ。

 ……と、安心し掛けた矢先。


「レン様のにおいがしました。セトはレン様のにおい好きです」


 無邪気に微笑むセトからは後光が射して見える。

 て、天然め! この破壊力をどうしてくれよう。

 カアァーっと顔が熱くなるのが判った。俺は全くもって意気地なしだ。

 水浴びしてくる! なんて、真っ赤な顔で慌てて外に出てしまった。


(うう、情けない……)


 セトとは結婚をする、という体で一緒に暮らしているのだ。

 年齢上、まだ今は婚約期間だけど、いずれその時が来るわけで。


 すでにここカデッシーナに骨をうずめる覚悟を決めている俺としては、結婚相手も決まっているし、安泰というか万々歳じゃん? なんて思われるかもしれないが。


 今まで女の子と付き合った事も無い俺としては、どうしよう、どうしたらいいんだ! っていうことだらけで、未だにセトとはあんな風によそよそしい感じなのだ。


「なっさけねーの」


 服を脱ぎ脱ぎ、湖のほとりで一人ごちる。


 浮かんだのはマヘスの事だ。

 妻帯者であったマヘス。行方不明だった奥さんのアテフと再会し、再び一緒に暮らし始めた。

 以前から落ち着いていたって思うけど、アテフがいるとマヘスはよりそう見える。


 あれが、大人の男の余裕ってやつなのだろうか。

 がたいも良く、褐色で男らしい顔つきのマヘスは男として憧れるところばかりだ。

 

「レン様~、お着換えですよ~」


「うっわあぁー!」


ドバシャーン!


 セトの声に、俺は慌てて両手で前を隠すも、勢い余ってすっ転んでしまった。


「はわわわっ、レン様つかまって下さい~!」


「いや、いい! 大丈夫だから!」


(頼むから来ないでくれ~!)


 そんなわけで。

 今日も今日とて、平和な様な騒がしい様な、俺とセトのカデッシーナでの一日が始まった。


 

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