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41 マヘスと有翼種族



「ほぅ、それはまた貴重な体験をしたな」

「んー。俺としては全然望んでないけどさ」


 セトとの昼食を終え、再びクルミアの森に戻った俺はマヘスと合流していた。

 

「新しい服、派手すぎじゃね?」


 すでに待ち合わせ場所にマヘスはいたのだが、後ろ姿を見て一瞬誰だか判らなかった。


「ふっ。それは誉め言葉として受け取っておく。前の服じゃ伐採(ばっさい)作業には向かんからな」

 

(そういえば、最近少し暑くなって来たよな)

 

 いつもなら革細工師らしく、自らが製作した革の装備を身に付けているマヘス。

 だが今日は草刈り&伐採という作業内容からか、革の装備品のほとんどが取り除かれており、驚く程軽装(けいそう)だ。


 インディアン風の刺繍がされた涼しそうなシャツと亜麻色(あまいろ)のズボン。

 腰にはダンサーが付けていそうな飾りと布が巻かれている。

 流石に革のブーツは前のまんまだけど、完璧に夏場になったら革のサンダルなんだろうな、なんて想像したり。

 いやしかし、露出は前の衣装より減った筈なのに、ものすごく目立つ。


 マヘスは褐色長身だしガタイもいいので派手な装備も似合ってるんだけど、只でさえ赤い髪が目立つのに、それ以上目立ってどうすんだよっていう。

 いや、俺の地味が目立つとか、そうは言ってない。


「お前もそろそろ、他の衣服をそろえた方がいいんじゃないのか」


「それは思う。下着は何着かセトに見繕(みつくろ)ってもらったんだけど」


「クルミアの街にある店に今度案内しよう。それとも、セトと2人で行く方がいいか?」



 ニヤリと返され言葉に詰まる。


 「セトと2人、マヘスに案内してもらうよ」と返すと、わははと笑われた。


 ひやかしてきたりもするけど、基本的にマヘスはいい奴だ。

 先日、クルミアの街までの道のことを相談した時も快く協力を申し出てくれた。


 相変わらず俺の事は名前で呼んでくれることは無いに等しいけど、それも仕方ない。

 だって俺は子供だし、まだまだ職人としても未熟だからだ。

 マヘスには少しずつ革細工の事を見てもらっているが、その技術に舌を巻くばかりで、まだまだ俺はスタートラインにすら立っていないと感じている。

 

「しかし、アルラウネか。お前には『繋ぐ』力があるのかもな」


「? 何それ」


 抜いた草や小枝を拾い集める手を止める。


「俺達の世界では妖精や精霊は、ある意味で身近な存在だ。基本は四代元素だが、それは知っているな?」


「ああ、地、水、火、風だっけ」


「そうだ。そして俺達職人は毎日密接(みっせつ)にそれらと関わっている。グノム族は採掘(さいくつ)で『地』に、鍛冶師(かじし)で『火』に、といった具合だ。そこに宿る精霊たちが、時に呼び掛けに応じる事があるのさ」


 俺は「あっ」と思い当たった。

 治療院でのグノムが出した火ノ粉さま、セトが放った水玉さまが、もしかしてそうなのかな。


「密接に関わる……つまり、毎日触れている内に仲良くなっていく的な?」


 マヘスが頷く。

 ゲームでありそうな『友好度』みたいなものかもな。


「でも俺はまだそんなに、各分野に触れているとも思えないけど」


「そう。だから不思議は不思議だが。さっき言った『繋ぐ』力はそういう意味だ」


 ふーんと俺は生返事だ。


 未だに水玉さまにすら慣れていない俺にとっては、まだまだ遠い話だろって思う。

 さっきのアルラウネは、たまたま運が良かっただけということにする。


(大体、まだ本当に呼び出せるかどうかとか、試してもないしな)

 

 俺はマヘスが持ってきた木製の荷台に、袋に集めた葉っぱやら草、木の枝などをどさりと乗せた。


「そろそろ行くか?」


「だね、今日はこの辺にしよっか」


 もう日も傾いてくるし、今日は終わりかなと空を仰いだ時だった。


「おっ?」


 高い木々の中に切り取られた空を、大きな鳥が横切ったのだ。

 いや、それにしても大きい鳥だな、などとのんびりと眺めていると、今度はそれが翼をすぼめて急降下してくるではないか。

 

(はっ?)


「うわぁっ!」


 あっという間の出来事だった。

 俺の前にハヤブサの如く、何かが降り立ったのだ。


「やぁ!」


「えっと、あんたは――」


「レンじゃないか。久しぶりだね」


 切れ長の瞳が笑みをかたどった。


 すらりとした長身にハヤブサを想像させる翼が背中から生えている。

 以前セトに紹介された『フェーダー』と呼ばれる有翼(ゆうよく)種族だ。

 確か、名前は――……。


「トゥルビネ」


 俺が名前を呼ぶと、嬉しそうに笑った。

 トゥルビネは一見キツそうに見えるんだけど、笑うとあどけない。


「こんな所で、どうしたんだい?」 


「えっと――」


 その時だった。俺を背後を見たトゥルビネの顔つきが変わったのだ。


「お前、トゥルビネと知り合いなのか?」


 荷造りもそこそこに、意外そうな表情のまま俺達の側に歩み寄ってきたマヘスを、トゥルビネは険しい目で見つめていた。


「お前、マヘス……」


(なんだなんだ。この2人知り合いなのか? っていうか、もしかして仲が悪い?)


「いや、俺の方こそ聞きたいんだけど、マヘスとトゥルビネって知り合いなのか?」


「まぁ、ちょっとな」

 

 マヘスは明らかに言いにくそうだ。あのマヘスが珍しいな。


「こいつの知り合いに数えられたくないもんだね、汚らわしいヒューラーめっ」


「けっ、汚らわしい!?」


 俺は思わず()頓狂(とんきょう)な声を上げてしまった。


 だってそうだろう? 俺もここじゃヒューラーなんだけど。


 でもトゥルビネは俺の方を見もせずに、マヘスを睨みつけている。


 明るい茶色の瞳は明らかな憎しみの光が宿っており、アッシュグレーの髪は漫画みたいにめらめら燃えて逆立っているように見えたんだ。



「こいつのせいで、私の姉さんは一族を追われ、行方不明になったんだっ!」


「へっ?」


 瞬間、俺の脳内に火サスのオープニングテーマ曲が流れたことは、2人には内緒だ。






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