39 クルミアの森のアルラウネ
みどり、緑だ。植物か?
俺の足首位の背丈の妖精がそこにいた。
緑の髪に、赤い瞳。
身体には無数のツタや葉が絡みついており、その妖精の足元を覆う様に隠していた。
よく見ると植物で出来たブランコに乗っていてふよふよと浮遊している。
当たり前だけど初めて見る生物だ。
もしかして植物の妖精か何かか?
『ウネウネなのよ?』
「えっと」
意味が解らん。
ちんまりとしていて、可愛いっちゃ可愛いのかもしれないが、ちゃんと人語を話すわけでもなし、今は大人しいけど、いきなり暴れ出すかもしれないだろ? 俺としてはあんまり関わりたくないんだけどさ。
屈んでじっと観察してみると、中々愛らしい顔をしている。
人型の妖精って、初めて見たな。
『ウネ~?』
「ん? なんだなんだ」
『ウネ~、ウネ、ウネウネなのよ~?』
俺のジーパンの裾をちょいちょいと引っ張るのは、妖精の身体に巻き付いたツタだ。
(へぇ、自在に操れるのか)
「こっちに来いって言ってるのか?」
俺忙しいんだけどな。まぁ、少しならいいか。
『ウネ! ウネ~ウネ~! なのよ~?』
妖精の後をついてゆく。「これこれ」と言っている様に俺には思えた。
そこにあったのは、一輪の花。
これって確か……
「綺麗だなって、昨日抜かずに置いておいた花じゃん。ん? うん、綺麗だよ」
俺の異世界での順応性も中々レベルアップしてきたと思うのは、こういう時だ。
何となく、こいつの言うことが判るような気がしてくるから不思議。
『うんうん』と頷く妖精は、もしかして抜かなかったことに感謝しているのかもしれない。
それは、鮮やかな緑の茎に桃色の細かな花びらを付けた可憐な花だった。
朝露に濡れて輝きを増すその花は、異世界人の俺にとって本当に目に鮮やかで、綺麗だと感じたんだ。
舗装の邪魔になる位置にあったんだけど、抜くのをためらう程に。
セトの為に持ち帰ろうとも思ったんだけど、何故か俺はそうしなかった。
(今思えば、多分。ここで咲いているのが一番綺麗だと思ったからなんだろうな)
「大丈夫。それは抜くつもりは無いからさ。俺がやるのはこっちの草木。道を綺麗にして街までの道を通りやすくしたいんだ」
すると妖精は『なるほど』と言った顔をして頷いたのだった。
そして――……
『ウネウネ~なのよ~!』
妖精が花の杖を出したかと思うと、魔法少女の様に杖をクルクルと回す。
次第に光り出したのは、あの桃色の花だ。
「えっ! なんだなんだ」
流石魔法がある世界。
(いやいや! っていうか、何をしたんだ、こいつは)
驚く俺の目の前で、花が変化していく。
現れたのは花びらと同じ色の髪を持った植物の妖精だった。
緑のこいつより、少し小さめだ。
桃色妖精はとてとてと歩き、俺の革靴に乗っかってくる。
『ウネ! ウネウネ~?』
「あ? う、うん」
何となく俺は頷いてしまったんだ。
途端、桃色妖精の髪に巻き付いていた花が生き生きと輝いたのだった。
何だろう。俺は今とても重要な事に頷いてしまった気がする。
よじよじ。
(おい、勝手に上ってくんな)
器用にツタを使って上ってくる。
結局俺の肩に落ち着いた桃色妖精は、『ふいー』と額をぬぐっていた。
(こいつら、本当はもしかして普通に話せるんじゃないだろうな)
おちょくられていたら笑えない。
疑わしい目を向けるが、妖精はニコニコとしているだけだった。
「俺、やる事あるから、じゃあな。っていうか、桃色はずっと乗ってんの?」
勝手に適当に命名してしまう。
別に重さは感じないから邪険にもしないけどさ。
(なんだろう、何がしたいんだろうか、こいつらは)
緑色妖精も付いてくるしで、妙に落ち着かない。
もしかして監視か? 俺が草木を抜くのを阻止する為か!?
「えっとさ、緑色と桃色は何か用なのか?」
『アルラ、ウネ!』
「うん?」
『アルラ~ウネ! なのよ~?』
…………。
「じゃあミドリとモモな。言いにくいのは却下」
『ウッ、ウネウネーーッ!』
……泣くなよ。俺が悪い奴みたいだろ!?




