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34 クルミアの輪



 以前も入った領主の部屋。

 豪華なシャンデリアの灯りと、赤紫の絨毯(じゅうたん)

 目を引いた中央にあった(はず)重厚(じゅうこう)な長テーブルは端に寄せられており、台座に腰を落としている領主の姿がすとんと、すぐに俺の視界に入ってきた。


 クルミアの街の領主、クラウス。

 俺と同じヒューラーという種族で、後ろに流したこげ茶色の髪とキリリとした瞳を持つ年若い青年だ。

 クラウスは片膝をつき(こうべ)を垂れたマヘス達を見て「かしこまらなくていい」と手を上げた。


「早速だが、みなを呼び立てたのは他でもない。昨夜の治療院での騒ぎの事だ」


 ビクゥッ!と見ていて面白いくらいに、セトとアドルフの両肩が動いた。

 それはそうだろう。燃やした&水浸しにした張本人だからな。


「昨日の内に関係者に聞き取りをし、精査をした結果を伝える。だがその前に1つ。今回の首謀(しゅぼう)である治療院の医師だが、魔石に魅入られ、本人の意思とは関係の無い所で行われた所業(しょぎょう)であると推察される。だが、クルミアの領地内で騒ぎを起こした事は事実。本人の回復を待って、審理の結果を伝えようと思っている。そして、集まってくれたここにいる皆の事だが」


「はわわわわわ……」


 セトは聞いているのか聞いていないのか、子犬の様に震えている。


(大丈夫かよ)


 目配せをするが、セトは気付いてもいない。オイオイ、俺はこっちの方が心配だぞ。


 すると、クラウスが立ち上がり一礼したのだった。

 明らかに周囲がざわめいた。


「有難う、心から感謝する。そなたらの行動は、クルミアの領地に住まう数多(あまた)の民を救ったも同義。特にレン、今回の事はお前が事の真相にいち早く気付いたそうだな」


「そんな大袈裟(おおげさ)なものじゃないですけど……」


「何を言う。お前のお陰で魔石の脅威(きょうい)は去ったのだぞ。……ここに褒美(ほうび)を」


はっ!?


 俺は驚愕(きょうがく)する。


 クラウスの合図で出てきた衛兵が、細長い台を俺の前に置いた。

 そこに乗っていたのは、大きめの革袋から溢れんばかりのコイン。

 マヘスから受け取った事があるから知っている。この世界での通貨だ。


 隣をちらりと見ると、マヘスが「なっ?」といった 表情でニヤリとしていた。

 昨日言っていたのは、この事だったのかよ。

 でも、俺は……


「クラウスさん、つまりセトや他の皆も、お(とが)めは無しって事でいいんですよね?」

「勿論だ」


 クラウスの答えに「ふにゃ~」とセトとアドルフはスライムみたいになってしまった。

 我ながらすごい例えだとは思うが、極度の緊張から解き放たれた2人は本当にスライム並みに溶けていたんだよ。


 でも俺はまだ考えていた。

 セトの手を取って起き上がらせながらも、何か納得出来ない気がしていたんだ。


「でもこんなに、俺もらっても……」


 見た所、前にマヘスにもらった額の何倍もありそうな貨幣の量だと思う。


「お前はそれだけの事をしたのだ。嬉しくないのか? 断る者なぞ見た事がないぞ」


 クラウスは疑問顔だ。まぁ、もらえるものはもらっとけって話なんだろうけどさ。

 うーん。そっか。


「あ、じゃあさ。マヘス、これ3等分にしてもらっていいか?」

「ああ」


 マヘスに分けてもらった貨幣。


「じゃあ、マヘスとアドルフ、それぞれ取ってってな。俺、1山もらうからさ」


『えっ』


 多分、俺以外の人間の声がハモった。

 信じられないと言った表情で俺を見ているのだった。


「だって、アドルフが火ノ粉さまを出してくれなきゃ相手を動揺させられなかったし、マヘスが衛兵を呼んでくれてなかったら余計にややこしいことになってたと思うし。あ、アテフもさ、トカゲとっ捕まえてくれてたし!」


 ずっと考えていたことを俺は口にする。

 早口になってしまったのは、少し恥ずかしかったからだ。

 でも、全部本当の事だし、ちゃんと言うことは言っとかないとな。


「いいですよね? クラウスさん」


「それはもうお前のものだ。私からは何もない」


 振り返ると、いつの間にか俺達の側まで来ていたクラウスが少し笑った。


「後、マヘスとアドルフには1つ提案があるんだ。提案というか、商売の話かな」


「ほぅ、それは是非私も聞きたいものだ。どれ、混ぜてくれるかね?」


 領主の様子に、皆が驚いている。

 もしかして、クラウスは今までこんな風じゃなかったのかもな。


「勿論! クラウスさんにも相談したい事があります、うんっ!」


 俺が勝手に想像して、やってみたいなって思ってたことなんだけどさ。

 今なら、もしかしたらって、そう思うんだよな。

 

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