31 名探偵と相棒
ある仮説を元に、俺は急ぎグノムの里を後にしていた。
勿論セト、アドルフも連れている。それからミンも一緒だ。
駄目だと言ったのに、いつの間にか馬車に乗り込んでいたミンには驚かされた。
「さっきのエリマキトカゲ、あいつがガスを発生させていた犯人だ」
「ええっ!? オラあんな奴、初めて見ただなも。でもレン、どうして急にクルミアの街へ行くんだなも?」
「確かめに行くんだ。そう、俺の推理が正しければこれは――……」
ガタガタと揺れる馬車の上での推理会。
俺の話に眉を寄せ、真剣な眼差しで聞き入るセトは、俺が語る内容に百面相をしている。
だが、可愛い。やはり可愛いは正義だ。
いや、俺が導き出した答え、事の真相はこんなお気楽なものでも無いのだが、どんな時もセトの表情1つで「なんとかなるか」などと思ってしまう辺り、俺も相当なのだろうと思う。
とにもかくにも、日も傾きかけた頃に俺達はクルミアの街に着くことが出来たのだった。
街の外、馬車を停めている時に今日の商売を終えたマヘスが出てきたので、声を掛ける。
マヘスは「?」とした顔をしていたが、まぁ大丈夫だろう。
日暮れと共に街の市場は店を閉じる。
代わりに屋内型の飲食店、飲み屋が営業を始めるらしく、クルミアの街は昼間とはまた違った雰囲気を醸し出していた。
暖かなガラス灯の光り。長い棒を使って街中の灯を付けて回る衛兵を横目に、俺達は足早にソコに向かった。
「忍び込んで大丈夫なのかだなも~……」
「わたし、こんなこと初めてしましたっ。なんだか胸がドキドキしてしまいます!」
セトが俺の服の裾を掴んでいる。
「事件の真相を明らかにする為だよ」などとごちながら俺はまんざらでもない。
外で待っててもいいと言ったのだが、セトは一緒に行くと譲らなかったのだ。
ちなみにアドルフとミンは俺の肩に乗っているのだが、結構重い。
だがセトに乗るなんて事だけは許さん。断固阻止だ。
入口のピッキングを終えた俺は、セトに合図する。慎重に扉に手を掛け、するりと建物内部に身体を滑り込ませた。
クルミアの治療院。
すでに本日の診療を終え、室内は、しん……と静まり返っている。
俺の世界と違って非常灯なんて物も無いので辺りは真っ暗だ。
するとミンが、スッと掌を俺の鼻先に差し出した。
「!」
出現した揺らめく炎。小さく爆ぜる火の玉には、見たことのある目と口があった。
違いと言えば、歌わないってこと。
「なんだよ、これ?」
俺は肩口のミンにこそっと話しかける。
「火ノ粉さまだぞ。見たことないのかだも? オラ達の神様の御子だで、お願いすると出てきてくれるんだなも~」
トイレの水玉さまに続いて火ノ粉さまだと? 妖精みたいなものだろうが、カデッシーナでは妖精は誰でも気軽に扱える存在なのだろうか?
とにもかくにも真っ暗な中、灯りは有難い。
火ノ粉さまは『やるぜ!』『やるぜ!』などと独り言を連呼しているが、この際聞いていない事にしよう。




