3 とりあえず現状を整理しよう
「今日はレン様が来て下さったので、運が良かったのですわ。メオリオラビットのお肉はとっても美味しいんですよ~?」
斎藤 蓮 16歳。
軽い自己紹介を終えた後。
只今目の前で、女の子がさっきまで生きていた動物を屠殺して解体するのを実況されている、この現状。
意識が飛びそうになるのを堪えながら、俺は先程ここへ案内された時の事を思い出していた。
THEファンタジーの世界観たるや恐るべし。
冷静になって辺りを見渡した俺は、今いる森の壮大さに息を呑んでいた。
広く青い空。見渡す限りの青々とした木々や色鮮やかな草花。そこに時折姿を見せる動物達。
元いた世界で見たことのある造形のものもいれば、架空の存在とされる動物もいる。
危険かそうでないのかも判別つかないので近寄りはしなかったが、俺としては本当は写メして
記録として残したかった位だ。
(新作で造ってみたくなるな、ああいうの)
趣味のクラフトの事を考えられるほどに、時間が経つにつれ、俺はすっかり冷静さを取り戻していた。
案内されたのは朝日をきらきらと映す美しい湖のほとりにある大樹だった。
驚くことに、セトの住処は大樹の根元の中をくりぬいて造られていた。
少し離れるとただの木にしか見えないのだから、これは普通にすごい。
「どうぞです!」
室内に入るための扉は低木に隠されていた。可愛らしい彫りが施され、茶色がかったガラスがはめ込まれた木の扉は、まるで小人が出て来そうな雰囲気さえある。
少し恥ずかしそうに振り返ったセトは、俺を家の中へと招いてくれた。
「へええ」
中は想像よりもとても広く、そして温かさを感じさせる空間だった。入ってすぐ視界が開けたことに、まず驚く。
見上げると頭上遥か高くまで吹き抜けになっているように見え、温かな木漏れ日が、いたる所から射し込んでいるのだ。
(まさか根元部分だけじゃなく、大樹の中全体が居住空間だったなんて)
内側の側面に添う様に這わされた木の階段は、何とか足を置ける位のアスレチック感だが、眺めているだけで好奇心が刺激される。そんな住居だった。
それはまるで絵本の中に迷い込んだ感覚。
飴色のランプや燭台も動物や植物を模した物などがあり、俺の目を引いた。
今俺がいる居間には、扉にあったのと同じ彫りがされた小さめの家具が幾つも並んでいるのだが、そのどれも素晴らしい造りだ。
どうやら入ってすぐが炊事場兼居間として使用しているらしい。
左手には木のテーブルと椅子が置いてあった。
テーブルは何とか2人用かな……位の大きさしかなく、椅子は1脚しか見当たらない。
セトはここにひとりで住んでいるのかもしれない。
とりあえずはと、室内奥にあった赤いソファらしきものに腰を下ろした。
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