21 トイレの妖精
「良かったですっ なんにもなくって」
いや、何もなく無かったぞセト。
胸を撫で下ろすセトに反して、俺は未だ変な汗をかきながら個室の壁に張りついていた。
彼女の視線の先にある、便器の中にいた無数のモノ。
『アーアアー』
まだ歌ってんのかよ、お前ら。
「なんなんだよ? コレ」
「水玉さまです。もしかして、レン様の世界では水玉さまがいらっしゃらないのですか?」
水玉さま!?
恐る恐る覗き込むと、小さな玉達は一斉に俺を見つめてきた。
なんだろう、これは。パッと見ただけだと芳香剤の透明の玉みたいだけど……
目と口がついてるのが普通にこえぇよ。
「その水玉さまが、どうなるんだ? これ」
「えっと……ここに座って頂きまして、んーってした後に、この紐を引きます。
ふきふきするのは、この容器に入っているものを使って下さいね」
こういう所、ほんと素直だよなセトは。
一生懸命に実践しながら説明してくれる。
特に目を閉じて「んーっ」するセトが可愛かったです、どーぞ。
しかし、可愛い子に一体何をさせているのだろう、俺は。
チリンチリン
セトが紐を引くと、吊るされていた鈴が鳴った。
するとどうだろう。俺の世界のトイレの水流の様に水玉さま達が変化し、流れていったではないか。
「すげー。マジか」
「水の種族の妖精さまは、こうして不浄を浄化して下さるのですよ~」
セトはまるで自分の手柄の様に紐を手にしながら「えっへん」としている。
一端便器の奥に消えてしまった水は、徐々にまた綺麗な水が溜まりはじめ、それはまた水玉さま達に形を成していったのだった。
異世界『カデッシーナ』のトイレ事情を目の当たりにし、俺は驚きを隠せない。
てっきり外でするのかと思っていたのだ。だが予想に反して個室、それも俺の世界に近いもので、動力がまさかの妖精だなんてさ。
ザザザッと水玉さま達の視線が俺に集まる。
こっち見んな。
『ラン ラララララン』『ルン ルルルルルン』『アーアアー』
「綺麗なお歌も聞けますし、とっても素敵ですよねっ」
引きつる表情の俺と、微笑むセト。
「では、わたしはお食事の準備をして来ますので、レンさまはごゆっくりなのです」
「あ、うん」
セトが実践までしてくれたんだ。
(って、トイレを頑張るなんて可笑しいけどさ)
未だ俺を見つめている水玉さまに、俺は溜息1つ。
「わーかったよ! 俺も男だ」
心を無にしながらトイレしたのなんて初めてだわ、俺。
「これからカデッシーナでの生活、大丈夫なのかな? 俺」
『ラン ラララララン』『ルン ルルルルルン』『アーアアー』
ふきふきする紙代わりのモノに、また一悶着。
なんなんだよこのヌルヌルしたスライムみたいなやつは……。
とりあえずこれに関しては自分一人で解決しよう。何事もチャレンジだ、うん。
→『斎藤 蓮』は水玉さまとの友好関係を結んだ!




