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20 そういえばまだ初日だった件



 一世一代の愛の告白を終えた俺は、きっとまだ真っ赤だ。

 セトの手を引いて大樹の家に入る。ちらりと見たセトの表情は俺と同じで、確かめるんじゃなかったと、俺はさっそく後悔していた。

 この地方の今の季節は何なのだろう? 季節という概念があるのかも判らないが、気温はさほど高くなかった筈だ。なのに、変な汗が俺の額には浮かんでいた。

 どうかしなくても、無茶苦茶に緊張する。

 だって、そうだろう? 嫁って、嫁って言っちゃったんだぞ俺は!


「さま。レン様?」

「!……な、なに」

 セトが首を傾げながら、俺を見上げていた。

 なんだか、今までよりさらに可愛く見える。

 なんだこれ、なんなんだこれ。頼む、その宝石みたいな瞳で俺を見上げないでくれ。


「先にご夕食になさいますか? それとも水浴びにしますか? それとも」

「うわー!」

「ふわわっ レン様、どうされましたか!?」


 まさかセトがこの一連の台詞を口にするとは思わなかった。

 なんだこれは、万国共通のみならず異世界も共通なのか!?

 いきなり叫んだ俺に、セトはわたわたとし出すし、何をやっているんだ俺は。

 セトに「ごめん」と謝り、俺は考えに考え抜いて1つの答えを見つけた。

 

「えっと、この世界にトイレってあるのか、な」

 きょとんとしたセトの表情がクソ可愛かったのは言うまでもない。




 とにもかくにも、俺は一端危機を脱したのだ。

 「男だろ、しっかりしろよ」などと、マヘス辺りに笑われそうだが。

 そもそも俺は16歳の今日まで女の子と付き合った事もなければ手を握った事もなかった男だぞ。

 無論、それを恥ずかしいと思ったことはない。


 恋愛よりも、何かを作っている方が楽しかったのだから、仕方がないのだ。

 小遣いを貯めて専用の道具を少しずつ集めてさ、これからもっともっと色々な物を作ろう、チャレンジしようとしていたのに。


 異世界に召喚され、突如現れたハーフエルフのセトと過ごし、数時間で許嫁にまでなってしまったミラクル。状況と、相手であるセトの感情を知ってから、俺は明らかに動揺していた。

(こんなに気持ちが揺れるなんてこと、知らなかった)

 恋愛って、すごい。


「てか、通じて良かった」

 そんな俺が思いついたこと。落ち着くにはここ! そう、トイレだ。

 出すもん出してスッキリしたら気持ちも多少変化するだろうと踏んだのだ。

 そういえば異世界に来てから、マヘスの拠点近くで立ちションしただけだったわ。


 セトの住居の中にあるそれは、俺の世界のものととても近かった。

 こじんまりとした個室というのもそっくりだ。

 小さな出窓が付いており、植物が入ったテラリウムが幾つか吊るされている。

 テラリウムを引き立たせるランプの灯りは、とても落ち着くものだった。

 そこには小さなブリキの様な人形があったりと、可愛らしく飾り付けられている。


(セトらしいな)

 俺は思わず微笑んでしまった。

 先程ここに入る前も心配そうに眉をへの字にしていたセト。


「大丈夫、だいじょうぶ」

 トイレに入れればこっちのもんだぜ。などと、わけの判らない思考になっているのだが、肝心の俺は気付いてはいなかった。

 蓋もあるし、タンクぽいものもついているし、座る所、恐らくこの蓋をめくったらあるんだろう。ただ、タンクに流す為のレバーがなく、それっぽいとしたら、この天井から垂れているヒモが何やら怪しい。

 

(とりあえずしてみるかな)


……と、俺が蓋をめくった瞬間だった。


『ラン ラララララン』『ルン ルルルルルン』『アーアアー』


 何かが、いた。

 繰り返し聞えるのは心が洗われる様な、そうこれは讃美歌だ。


「……」

パタン


カパッ


『ラン ラララララン』『ルン ルルルルルン』『アーアアー』


「セトぉぉーっっ!!」

「れ、レン様!? レンさまぁっ」

 俺の叫びと、セトが扉を叩く音。


 異世界での初めてのトイレが今、始まる……。 




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