19 これからを君と
そんなこんなで、未だ緊張の面持ちのまま、俺はセトの手を引いて帰路を急いでいた。
(早く2人になりたい)
街の人間の目がある事が、こんなにも落ち着かないなんて。
ようやく街を出た。
目の前に広がる見渡す限りの森は、その色を変えかけている。
もしかして、もうすぐ日が傾いてくるのかな。
「急ごう。やっぱりこの世界でも夜は出歩かない方がいいんだろ?」
「……」
返事の代わりだろうか。つないだ手に力が込められる。
何となく、俺はセトの顔を見ることが出来ないでいた。
自分でも気持ちを量りかねていたんだ。
俺を召喚したのはセトで。それは客観的に見ればひどく自分勝手な行為だ。
でもセトの婆ちゃんが亡くなったことや、領地から追い出されそうになった事を聞いて、その時の俺なりに考えたんだ。何とかできないかって……。
安請け合いだったかなって今となっては思う。
(その場しのぎもいいとこだよ、ほんと)
さっきの事もそう。
あれで良かったのだろうか。口から出まかせもいいところだし、女の子的に夢っていうか、そういうものなんじゃなかろーか、結婚の約束云々とか。
いや、そもそも結婚とかセトが言い出したんだっけ。
考えているとぐるぐると回りだす思考。
そしてそこに気付いた事で、俺はカーっと顔に血が上ってゆくのを感じていた。
思わずセトの手を放してしまう程に。
「……その、良かったな。ここに住むことを許してもらえて」
「……はいです」
セトは俯いている。
もう目と鼻の先に、セトの住居は見えていた。
側にある湖面に映る夕の日は神秘的で、とても綺麗だ。
でも、壮大な自然も、空気も、今の俺には何の効力も無くて。
ぐるぐるとしている頭の中はごちゃ混ぜで上手く言葉にまとめることが出来ない。
俺、ここに住むのか? 本当に? セトと?
領主にはセトの結婚相手として話を通してしまった。
セトも約束について「してますっ」て発言していた気がするし、それはつまり同意ってことで。
でも、俺は迷っていた。
ここへ来て、まだ1日と経っていないんだ。
これまでの時間の中、現実世界の事が全く気にならなかったわけじゃない。
あっちの世界の状態がどうなっているのか。
何より俺はまだ、セトに『聞いていないこと』がある。
「俺さ……」
「レン様」
言い掛けた言葉を遮られてしまった。
セトは俯いている。
「この家から、出ていっちゃうですか?」
声に、涙が滲んでいた。
見た顔はボロボロで、真っ白な肌が紅潮していて、俺の好きな碧緑の瞳は赤くもなっていて。
鼻も垂れている。
その様子に、俺は笑った。
「泣くなよ。せっかく可愛いのに」
ごそごそとジーンズのポケットを探ってもそれは出てこない。
そうだ、セトにあげたんだっけ。
「俺があげたタオルハンカチあるだろ? 今持ってる?」
「やですっ! あれはレン様に初めてもらったものでっ大切なのでっ……返しませんっ!」
まるで小さな子の駄々のようで、驚く。
そういう意味で言ったんじゃないんだけどな、なんて思いながら俺はよしよしと駄々っ子の頭を撫でてやった。
それはどうやら、より涙を促してしまう結果になってしまったようだった。
帰路を歩きながら、セトはセトなりに、俺の迷いみたいな感情を敏感に感じ取っていたんだろう。
まさかこんなにも泣かれるとは思っていなかったけれど。
「セトはさ、俺を召喚して、どうだった?」
「……びっくりしたです」
それ、俺もだよ。
「でも、レン様は最初からちゃんとお話してくれました。嬉しかったです」
「うん」
「わたしなんかの話を聞いてくれて、優しくして下さいました」
私なんかとか、そんなこと言わないでほしい。
「なぁセト」
「……はいふぇす」
まだ、鼻垂れてんの。
「俺のこと、好きか?」
「はいっ! 好きですっ 大好きです!」
俺は迷っていた。
ここへ来て、まだ1日と経っていないんだ。
これまでの時間の中、現実世界の事が全く気にならなかったわけじゃない。
あっちの世界の状態がどうなっているのか。
何より俺はまだ、セトに『聞いていないこと』があったから。
でも、今ちゃんと聞けた。
「じゃー、セトは今から俺の嫁な」
「!」
今泣いた子が、もう笑った。
「はいっ!」
『斎藤 蓮 LV.1』
たたかう
≫はなす
つくる
つかう
にげる
俺は異世界でハーフエルフの嫁『セト』を手に入れた!
つづく……かもしれない!?
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