14 半端者の想い
「すげー」
目の前で繰り広げられる鮮やかな作業と加工に、俺は目を奪われる。
丁寧に処理された革の一部を使って、革靴の修繕を行うマヘスはすっかり職人の目だ。
がたいが良く剛腕なのに、手先がめちゃくちゃ器用で、どの動きとっても細やかなのである。
「オイオイ。俺を見つめるのは美女だけにしてほしいんだがな」
口では可笑しな事を言っていても腕は確かだ。
というか、俺の世界でもここまで正確で速い処理が出来る人は中々いないんじゃないか?
「ほら、これでいい」
完成した革靴を履いてみる。
「めっちゃいい! すげー!」
「ふ、当然だ」
革靴の履き心地を試す俺の様子を見るセトも嬉しそうだ。
「有難うございます、マヘスさん。あと、これなのですが」
セトは腰に下げていた小ぶりの革袋をマヘスに手渡す。
持ち合わせは無いって言っていたと思ったけど、と俺が首を傾げているとマヘスがその答えを見せてくれた。
「おお、綺麗に剥いできたじゃないか。上手くなったなセト」
中から出てきたのはメオリオラビットの革だった。
何故すぐ判ったのかというと、あの時に見たウサギの頭がそのままくっ付いている毛皮だったからである。
「……」
これは……結構インパクトがある。
生々しいのが苦手な人はまともに見ていられないものだろうな。
俺自身も例外ではなく、ウサギの革を直視出来ずにセトに視線を移していた1人だ。
「えへへー」とマヘスに頭を撫でられているセトは微笑んでいて、この上なく可愛い。
が、その様子を見ていてちょっと、何故か胸の奥がモヤモヤとしてしまったのはどうしてだろう。
「このサイズだと腰から下げるポーチか、毛皮を生かした手袋とかどうだ」
なんだなんだ。作ってもらうって話なのか?
「マヘスさんにお任せして宜しいですか?」
「それは構わないが……」
マヘスと目が合う。
「なんだ。お前もして欲しかったのか? 生憎男は管轄外だが、特別にしてやらんこともないぞ」
「ちっげーよ!」
だ・れが、おっさんに頭撫でられたいって言うんだよ。
マヘスは「冗談だ」と笑った後、俺の足元をじっと見つめた。
そして、俺に視線を移す。
思ったよりもその表情が真剣で、俺はその場に固まってしまった。
「セトから聞いたが、お前は異世界人だそうだな」
「……そうだけど」
マヘスの足元でくつろいでいた黒豹アテフが起き上がった。
そのまま俺の足元に身体を擦り付けてくる。多少は慣れたものの、未だに身体が逃げ出そうとするのは、もうこれ条件反射だって。
「今から街へ行くつもりか?」
「うん、そのつもり。マヘスは、多少の事情を知ってるのか?」
「まぁな。しかし変わってるな、お前は。急にここへ来て、すんなりと事情を受け入れるとは」
それは、俺自身も思う。
でも……
ちらっと見たセトは俺と目が合うと、慌ててエメラルドの瞳を伏せた。
ぎゅうとワンピースの膝の部分を握り締める姿に、胸が痛む。
「そりゃ、急に何の前触れも無く呼び出されたのは驚いたけど、まぁいっかってね。こんな経験2度と出来ないし」
運命ってやつがあるなら、俺はそれを受け入れる。
「これはもう、性格ってやつ」
とんっと跳ね、革靴の出来に満足そうな俺を可笑しそうにマヘスは見ていた。
「なるほどな。お前はお前で覚悟はできているというわけか」
「そんな大層なもんは無いよ。でも街の人も同じ人間だろ? ちゃんと話せば判ってくれる」
マヘスが苦笑する。
「だといいがな。だが自分自身の事を異世界人だという事を話すのは、今後避けた方が無難だぞ。セトがいい例だろう。血が混じっているというだけでこの始末だ。異なる世界から来たとなれば、信じる信じないは別にしても、いい顔はされまい。それは、判るな?」
「……ああ、うん」
「俺の様な『変わり者』には別だがな。ここの住人は思った以上に、半端者には厳しいのさ」
言うと、マヘスは俺の世界の煙草の様なものをくわえた。
たき火から火を移すと、旨そうに一息を付いている。
「ま、用件だけ済ませてサッサと帰ってくるこった。酷い目に遭う前にな」
マヘスは意味深に笑って、大きく息を吐き出した。
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