13 マヘスの印
「おっと、勘違いをするなよ? 俺が欲しいのは、お前が耳にしているコイツだ」
「レン様の、耳飾りですか?」
「俺の、イヤーカフス?」
「そう! その、イヤーなんとかだ。お前の世界ではそういう名前なのか?」
言いながらちょんちょんと俺の耳を小突く。
耳輪の中間辺りにはめているものを、恐らくマヘスは差しているのだろう。
俺はイヤーカフスを外すと、じっとそれを見つめた。
銀素材の、透かしでアラベスク柄が彫り込まれたものだ。勿論俺の手作りである。
アクセサリー造りで初めて納得したものが出来たと思えた思い出の品だった。
でもセトは金が無いというし、俺も持ち合わせがない。
一瞬労働して返すという手も考えたが、異世界&マヘスなので何を言われるか分かったものではないので却下だ。
「じゃあ、これで」
物々交換なのは、仕方ないか。
それにマヘスの革靴(の修理)と俺のカフスの交換が成立するなんていうのも、俺としては、少しそわそわしてしまう位に嬉しい事なのだ。
「おお。商談成立だな。悪いが付けてくれ」
口頭で付け方を説明する。
いざ他人の手に渡るのだと観念すると、俺の方もなんだかワクワクとした気持ちになってきた。
クラフトのフリーマーケットに出ていたら、こんな気分だったのかもしれないな。
マヘスは腰に下げていた革ポーチから取り出した小さな丸い鏡で確認すると、大げさでなく嬉しそうな表情をしている。
「これはいい。気に入ったぞ」
「うん、似合ってると思う。そいつも喜んでる」
素直に嬉しかった。イヤーカフスはワイルドな風貌のマヘスにこれ以上なくぴったりで。
それに自分が作ったものを、こんな嬉しそうに身に付けてもらえるっていう幸福感っていうのかな。造り手として最高の賛辞をもらった気がしたのだ。
「もしかして、これはお前が造ったものなのか?」
マヘスが僅かに目を見張った。
「あ、うん」
そして、愉しいことを見つけたような笑みを浮かべながら、顎に手を当てている。
「これは面白い。大層なことじゃないか、なぁセト」
「マヘスさんが嬉しそうで、セトも嬉しいです!」
そうして、セトとマヘスの2人は笑ったのだった。
でっかい声だなぁ。
高らかに笑うマヘスの声と、真昼の太陽。
俺の肩はさっき盛大に叩いたくせに、セトの事はそうしないんだな……なんて思いながら。
これから何が始まるのかと、俺の心は確かにわくわくしていたんだ。
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