表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/57

11 現れたもの

「俺の名前は斎藤(さいとう) (れん)。勝手に変な呼び名すんなし」

「はっはぁ! いーねぇいーねぇ。男はそうでなきゃなぁ」

 マヘスと名乗った赤毛の男が笑う。


 露出された肌を(わず)かに覆うインナーの布は黒。その上を走る細やかな細工が(ほどこ)された革のベストには片方の肩に毛皮が用いられており、この男の存在感をより表していた。

 割れた腹筋を波立たせ豪快(ごうかい)に笑ったマヘスは、ゆっくり丸太の上に腰を落ち着けセトに手招きをした。

 俺はその様子を見て、大丈夫か? なんて思うだけで微動(びどう)だに出来ない。

 特別コミュ症というわけでもないが、咄嗟(とっさ)に動けない程に、俺はこの男に気圧されてしまっていたのだと思う。


「……ほお、なになに?」

 たき火の周りに置いてあった丸太に向かい合わせで座って2人は談笑(だんしょう)している。

 何となく置いてけぼりにされた気がして「すん」としていると、何かが横目を(かす)めた事に気が付いた。


「?」

 何気なしにそちらを向いた、次の瞬間。

 俺は人生初の金縛り体験をしてしまったのだった。

「…う、そだろ」


 そこにいたのは美しい毛並みをした黒豹(くろひょう)

 写真でしか見たことのない生物がそこにいたのだ。

 マヘスの拠点(きょてん)付近の茂みの中にいた黒豹は、俺の声や気配に気づいたのか足を止めた。


「!」

 見ないでくれ! と願った祈りは天へ届かなかったらしい。

 黒豹のしなやかな身体が俺の方に向けられ、思いっきり目が合ってしまったのだ。

 そんなに大きくはないが、存在の圧がものすごい。


 猛獣(もうじゅう)至近距離(しきんきょり)対峙(たいじ)するのは、こんなにも人の身体に緊張感(きんちょうかん)()いるものなのか。

 だが、頭の片隅では別の事も考えている。

 意外と脚が太くて、どっしとしてるんだな、なんて。

 呑気なことを考えている場合かよ、俺!


 マヘスと同じ金色の瞳が俺を見つめている。

「…っ…」

 黒豹が前傾姿勢(ぜんけいしせい)を取った。

(飛び掛かられる!?)


「おっ、なんだなんだ、手が早いじゃねーかアテフ。つれないねぇ、俺より好みか?」

 お前の豹かよマヘス。


「レン様! わたし、わたしじゃ駄目なんですかっ」

 これが喜んでいる風に見えるのかセト。


「……すん」

(いいから助けろよお前ら)

 

 石のようになっている俺に全身を擦り付ける黒豹(くろひょう)の図。

 とりあえず今は、漏らさなかった自分を褒めたい。

 




ΔΔΔΔΔΔΔ011



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ