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死んでていいから生きててほしい  作者: やりいかのフリット
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一人の少女へのメロディーⅣ

後書きの方に用語解説を載せておきました。よろしくお願い致します。

「それはけっこうなこったな!」

 叫び美空が俺の方に腕を縦に振りかざすと、甲高い音と共に何かが俺の方へ飛んできた。

「ぐっ…」

 目に見えない“それ”は、俺の左肘と脇腹あたりを貫いた。

「んだよ…これ…」

 刺された場所からジワリと血が滲み、服を汚す。

 目には見えないが、たしかに存在するソレは、何か針金のような細い物だと感覚的に認識した。

「ふんっ、生まれ変わったら、次は余計なことするのはやめるようにしなよ!」

 美空はこちらを睨みそう叫ぶ。

「余計なことじゃない!これはお前の――」

「だまれっ‼︎」

 俺の話など、美空は聞こうとはしなかった…。

 叫び、また俺の方に腕を振りかざす。

 キィーンという無数の金切り声が耳に響く。

 くそ…またさっきのが来るのか⁉︎

 俺は咄嗟に避けようとするが、先程の攻撃で脇腹をやられたせいで、激しい痛みが体を駆け巡り、思わず動こうとする意思を止めてしまった。

 ぐちゃ――と嫌な音が体の中からこだまする。また何かが、俺の体を貫いた。

「ぐあぁぁ‼︎」

 痛い、それだけが俺の思考を埋めていく。美空も、美空の家族の事も、もう、どうにでも、なれ。

 嫌な考えが頭を支配していく。

「玲美、待ってろ。すぐに終わらせて、帰るからな」

 そうポツリと呟いた美空の言葉で俺はハッとする。

 そうだ、こんな事を考えている場合じゃない。しっかりしろ、俺!玲美達が尊敬する美空でいて欲しいんだろ‼︎こんな痛みに悶絶してる場合じゃない‼︎

「だけど…」

 今のこの傷の状態じゃ美空への勝算はゼロに等しい…。とりあえず今の俺は治癒力は高いんだ、どこかに隠れて体力を回復すれば、まだ勝算はあるかもしれない。

「そのためには、一旦美空から離れないとな…」

 辺りを見渡すと、ちょうど身を隠せそうな鉄製のダストボックスを後方に見つけた。

 あそこに隠れられれば、しばらくはやり過ごせるか?だが…どうやって美空に気付かれずにあそこにたどり着けば……

「そうだ、あれならっ!」

 俺はポケットからスマホを取り出し、ロックを解除する。すると()()()()()はすぐに画面に表示された。

 上手くいってくれよ‼︎

 心の中でそう呟き、俺は勢いよく美空の方へスマホを投げた。

 投げられたスマホは【音が反響しやすい裏路地を八千円のローファーで小走りする音】を再生しながら地面を滑っていく。

「丸聞こえだぞ!」

 言うと美空は俺のスマホが滑る方向目掛けて攻撃を仕掛けた。

 するとまたキーンと甲高い音が辺りに響き、(くう)を貫いた。

「当たった感触が無い……まさか、避けたってのか?」

 驚愕の顔を浮かべながら、美空は目を丸くしていた。

「はぁ…とりあえず上手くいったみたいだな」

 美空がスマホに気を取られてる隙にゴミ箱の後ろへと身を隠し、安堵する。

 無事にまた優宇と会えたら、ちゃんとお礼言っとかないとな。

「あぁもううるせぇな!」

 美空は未だ足音を再生し続けるスマホに向かい手を振った。

 キーン

 と、また甲高い音が辺りに響くと無数の何かがスマホを貫き、破壊した。

「あれは――」

 月明かりに反射し、スマホを貫いている物の正体を見る事が出来た。

 それは糸――蜘蛛の糸のように細いその糸は美空の手のひらから無数に伸びていた。

 なんだよあいつ、スパイダーマンか?いや、スパイダーウーマンか…いやいや、というかそんな事はどうでもいいか。取り敢えずあいつの攻撃手段は確認できた。だからといってどうこう出来るという訳ではないけど……。

「くそっ!こんなんで私を騙しやがって!それでも男かってんだ。まずは金玉からぶっ貫いてやる!」

 美空は既に壊れてブラックアウトしたスマホに何度も糸による攻撃を加えていた。相当ムカついたらしい。

「おいこの小悪魔!金玉ついてんならちゃんと出てきて正々堂々勝負しろ!」

 まったく…いくら裏路地で人がいないとはいえ、女の子がそんな言葉を叫んじゃダメだろ……。



「あああぁああーー‼︎いらつくなぁ‼︎」

 2分程で痺れを切らした美空は辺りを構わず乱雑に攻撃し始めた。

 ガリガリと地面が無数の糸により抉られていく。

 幸いな事に俺を隠しているこのゴミ箱は鉄製なので糸による攻撃を跳ね返してくれている。けれど糸が当たるたび確実に削れていっている。そう後何発も耐えられはしないだろう。

「さて、どうするか…」

 美空に聞こえないようそう小さく呟いた。

 美空を止めようとこの状況に飛び出たものの、出す手が何もない。レースゲームで徒歩で挑むのと一緒だ。ウサインボルトでも勝てない。

「だが、俺にも車を手に入れるチャンスがあるはずだ」

 何故なら美空と俺は同じ屍者なのだから。

 美空だけがお気に入りでこんな奇怪な能力を受け取っているとは考えにくい。なんたって『Have a nice NEN』とか言っちゃってるヤツだ。そんな面倒なことはしないだろう。

「さて……」

 例えば、何かないだろうか…生き返ってから起こった奇怪な事……突然みかんが降ってき――いやあれにはちゃんと理由があるか。

 突然心臓貫かれたけど今は元どおりになっている――うん、これはたしかに特殊能力と言っていい奇怪な出来事だろう。けどこれは違う気がするな。なんというか、治癒能力が上がるというのはメインな能力とは思えない。漫画やアニメではデフォルト能力として備わってる系の能力だろう。

 なら他に何かあったか?あとはもう風呂でのぼせたとか佐藤君が吹っ飛んだとかそんぐらいしか――

 …………いや、待てよ?

 佐藤君が…………吹っ飛んだ?

 ………それだぁぁーーーー‼︎

 思わず叫びそうになるのを必死に飲み込んだ。

 そうだ…そうだそうだ‼︎そういえば佐藤くんが吹っ飛んだじゃないか!なんでそんな事を忘れてたんだオレ!

 人が急になんの脈絡もなく横に数メートル吹っ飛ぶなんて事は普通ありえない!そんなのが常識の世の中だったらニュートンもリンゴが木から落ちたぐらいじゃ何も驚かないだろう。

 あの現象が俺の能力によるモノだと仮定すれば、あの奇怪な事にも合点がいく。

「なら、後はデモンストレーションの時間だ」

 あの現象を再現出来さえすればいい。だがどうやる?俺はどうやってあの現象を引き起こした?あの時の俺は机に座ってただけだよな、特別な動作や言葉を発していたというわけじゃない。ならきっと、トリガーは俺の思考にあるはずだ。

「思考、か――あの時俺が考えていたことは……」

 机に座りながら佐藤君を眺めてーーそうだ!たしか佐藤君が俺が死んだ事が書いてある紙を拾おうとして、それを止めようとしたんだ。その紙から()()()()()祈ったんだ!

 キョロキョロと辺りを見渡すと、数メートル手前に是非ご活用下さいと言わんばかりの小さな石ころ二つを見つけた。

 ナイスタイミング!よし、あれで実験を――

 ドゴンッッ‼︎

 だが、俺が石ころを試しに弾こうとした刹那、無残にも隠れていたゴミ箱が、糸により宙へと投げ飛ばされる。

「うおっ⁉︎」

 頭上に落ちてくるゴミ箱を俺は横に転がり避ける。

「なんだ、そんなとこにずっと隠れてたのかよ」

 思わずあげてしまった俺の声を俊敏に聴き取った美空は、俺にニヤリと笑う。

「あのゴミ箱に超絶臭う物が入っててな、ちょうど出たかったとこなんだ。見つけてくれてありがとな」

「ふん、減らず口を…さっき貫いたのは口じゃなかったらしいな。」

「ははっ、でももしかしたら俺の能力が【腹話術】なのかもしれないぜ?」

 もっとも、今発してる言葉は“はったり”だし、あながちその能力も間違ってはいないか。

「なるほど、それは思いつかなかったな…光を失っちまった私には確認しようがない」

 そういった後、美空は「けど――」と口にし大きく息を吸う。

「そんな能力なら簡単に潰せるなぁ‼︎」

 掛け声と共に美空は糸を手から放ち攻撃を仕掛ける。

「くそっ!もうちょっと会話を楽しもうぜ!」

 そう呼びかけ、俺は飛んでくる糸を(かわ)す。どうやら屍者というのは人間の頃よりほんの少しばかりではあるが、身体能力が向上しているらしい。いとも簡単に糸を避けられる。

「生憎、私は余命が数時間がなんでね。遠慮させてもらうよ!」

 美空の手のひらからまた無数の糸が放たれる。今度は避けられないよう糸は横に展開していた。

「くそっ!!」

 この範囲だと横に転がって回避なんていうのは無理だ――

 横も後ろもダメ……なら!

「上しかねぇよなぁ‼︎」

 俺は一か八か自分の体と地面が離れるよう念じる。強く――強く――その二つの対象が触れていることが存在してはいけないように――

「飛べええぇぇ!」

 瞬間、俺の足元にビリビリッと電流の様なものが走ると、糸が俺の体に届く寸前の所で俺の体は十数メートル上空へと打ち上げられた。

「よっ――よっしゃぁあ!飛べた!」

 俺は打ち上がりながら思わずガッツポーズを空の上で決める。

 機械に頼らず十メートル以上も飛んだ人類史上初めての功績だ。そりゃやりたくもなるさ。

「なっ⁉︎糸に感触がない!あの攻撃を避けたっていうのか⁉︎」

 下にいる美空はえらく狼狽した様子だった。

 そりゃそうだ、必中のはずの攻撃が避けられただけでなく、避けたやつが美空の想定した場所にいないというのだから。

「うぉ⁉︎」

 打ち上がる速度の無くなった俺の体は、重力により急激な落下を始めた。

 上がる時なんかよりも全然早くて顔に当たる風が痛い…。だが、そんな事を考えている場合じゃない。どうする?この後地面に着地すれば間違いなく美空は俺の存在に気付き攻撃を仕掛けてくるだろう。

 この落下の衝撃がどれ程のものかわからない。さっきのように体を貫かれても平然と動ける今の化物じみた体ならもしかしたら何とかなるのかもしれないが、それでも安全な保証はない……ならっ!気付かれていない今のうちに美空に渾身の一撃をお見舞いしてやることが一番勝率が高いはずっ‼︎

「くっ…そ、アイツの能力は隠れんぼか?」

 俺はどんどん落下して行き、いつのまにか美空との距離は二メートル程になっていた。

 これで――終わらせてやる‼︎

 俺は足を後方へ振り上げると、その足の裏に空気の壁があるのをイメージする。

「喰らっとけええぇ‼︎」

「なっ――⁉︎」

 俺が空気の壁と足との反射を強くイメージすると、思惑通り俺の足は空気の壁に弾かれ、けたたましい威力で美空のこめかみに当たり、頭蓋骨をミシミシと砕いた。

「がはっ――‼︎」

 反射の威力の乗った俺の蹴りの威力は時速200kmのトラックをも凌駕するものだった。それをまともに喰らった美空は悲痛の呻きをあげ、コンクリートの壁へと背中から叩きつけられた。

「はぁ…はぁ…」

 必死だったとはいえ、やり過ぎたか?

 俺はだらんと壁にもたれかかった美空へと近づく。

「っっ…中々…やるじゃねぇか」

 美空はゼェゼェと荒い呼吸をしながら苦しそうにそう言い放った。

「まさか、私がさっきまで自分の能力を理解してなかった奴に負けるとはな…」

 ははっ、と乾いた笑いを美空は浮かべる。力を使い切ったのか、傷の治りは遅いようだった。

「それで?あんたはこれから私をどうする気だ?殺すか?それとも憂さ晴らしに一発やっとくか?」

「その両方ともしないさ。もう動けないだろ?わざわざ殺す理由はない。それに、俺のこの貞操は純愛の末出来た恋人のために使うって決めてるのさ。そう易々と渡してやれないな」

 その言葉に「ふっ、なんだよフニャチンだな」と言って美空は軽く笑った。

「にしても、じゃあどうするんってんだ?このまま私が消えるまで見ていようっていうのか?」

「いや、そんなことはしない。あいにくそんな性癖を持っちゃいないよ」

「じゃあ--」

「おれは、お前を玲美たちのところへ連れて行く」

「なっーー!」

 おれのその言葉に美空は酷く驚いたようだった。

「なんでそんなことを…あんたに何の得もないじゃないか!」

「だからって、目の前で死にそうな人間を助けるな、なんて言うのは俺には無理な話だ」

「私はーーあんたを殺そうとした人間だぞ!?」

「俺はもう死んでるんだ。殺人未遂なんてものは俺には適用されない。夜飯を作ってくれたーーただその恩返しさ」

 その言葉に、美空は呆れたように笑った。

「はっは…はははは!あんた、飛んだお人好しだな!」

「あぁ、よく言われるよ」

「たった1日ーーそんだけしか一緒にいなかった人間にわざわざお節介なんてな」

「それほど濃厚な1日だったってわけさ」

「立てるか?」俺は美空に手を差し伸べる。

「ははっ、ありがとな」

 美空は俺の手を取ると、足を震わせながら必死に立ち上がった。

「もう危ないんだろ?良かったら背中を貸そうか?」

 俺から受けた傷はどうやらもう治ったらしいが、全快というようにはいかなかったらしい。

「いや、遠慮するよ」

 俺のその提案に美空は首を横に振った。

「その代わり、肩をーー貸してくれないか?」

「そのぐらいお安い御用さ、いくらでも使ってくれ。なで肩だから捕まりやすさはあまりだと思うけどな」

 俺のその言葉に「充分さ」と言って美空は笑った。

【用語解説】


【屍者】

歩夢,美空といった一度死んだが、何者かの手によって蘇った者達の事を指す。ライフと呼ばれる屍者にとっての心臓が体内から消えた時、灰となって消える。通常の人間より身体能力が高く、傷の治りが早かったり遠くのものがよく見える。また、屍者それぞれに固有の能力が与えられている。



【生命ーーライフ】

生きた人間に流れているエネルギーの塊。これが体から無くなると例え心臓が動いていても人は動かなくなり、植物状態のようになり、やがて死に至る。屍者達はこのライフがないと存在できないためにこれを生きた人間から奪おうとする。屍者の持つライフは時間が経つにつれ消えていく、それ以外にも能力を使用されるたびに消費されていくので、蘇った屍者が人間からライフを奪わなかった場合活動していられる期間は平均2年である。

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