一人の少女へのメロディー Ⅱ
あとがきの方に作道 美空の兄弟3人を紹介しています。補足にご活用ください。
「なぁ歩夢、もし良かったら弟達と一緒に風呂に入れてやってくんねぇか?」
奏熾と詩道と【大乱戦スカッとシスターズ】で遊んでいると美空が台所の方からそう声をかけてきた。
「いや私この通りカレー作んので手が離せなくてな」
そう言って美空は手に持った包丁をぶらかせる。
ふむ、まぁちょうど詩道が30連勝したところで飽きてきたし断る理由もないか。というか隣で玲美が手伝っているとはいえ盲目なのに料理とはすごいな。実は見えてたり――するわけないか。
「あぁ、いいぜ。風呂に入れるぐらいお安い御用だ」
「おっ!そうか助かるよ。ありがとな」
「えぇーーー‼︎あゆむとはいんのかぁ⁉︎俺やだ!姉ちゃんとがいい!」
奏熾がゲーム画面から目を離すと美空にそう必死に訴えた。まぁ奏熾も小学2年生、まだまだ姉が恋しいお年頃か。
「あぁもう!駄々をこねるんじゃない!私は今どう見ても忙しいだろ!ていうかそんな歳にもなって姉と一緒に風呂入ってるとかダチにガチ引きされんぞ!」
美空は手に持った包丁をブンブン振り回しながら奏熾を叱咤する。
「うぐぅ……わ、わかったよぉ姉ちゃん…」
渋々ではあるが、とりあえず奏熾は納得したようだった。まぁ納得せざるを得ないよな。刃物を持った奴には人間じゃ勝てねぇよ。
「決まったみたい、ですね。では入りましょう、お兄さま。これ、バスタオルです」
詩道はそう言って俺にバスタオルを手渡した。
「お、お兄様?」
お兄さまなんて、実の妹にすら言われた事ないぞ。まぁ気分が悪いもんではないけれど。
「不快でしたか?なら家にいらした時にご所望でした《兄貴》に致しましょうか?」
「いや、不快とかじゃないんだ、ただ驚いただけで。お兄様で問題ないよ」
「そうですか、なら良かったです。ではバスルームへ移りましょう、こちらへ」
「お、おぉ…ご丁寧にどうも」
くっそ…なんか詩道と話してると調子が狂うな。なんというか本当に底の知れないヤツだ。いつも貼り付けた様な笑顔のせいで余計に心情がわかり辛い。
俺は奏熾を連れて詩道に案内されるまま廊下に出て脱衣所に入った。
「よっしゃ俺いちばーーん‼︎」
脱衣所に入るなり奏熾は服を脱ぎ捨てて体も洗わずに湯船へとダイブした。バシャーンという音と共にこちらにまで水滴が飛び散る。
「うぇへへ!うぁははは!俺が――俺がいちばんだぁっ‼︎」
はぁ…さっきまで美空と一緒に入れなくてテンション低かったくせに…単純なヤツだ。
「ま、ああいうのを“可愛げがある”があるっていうのかな」
母性本能をくすぐる、とかの方が正しいか。
「そうなのですか?では詩道はお兄様的には可愛くないのでしょうか?奏熾よりも、やはり詩道は優れてないのでしょうか?」
隣にいた詩道は瞳を潤ませながら俺にそう問いかけてくる。
「い、いや別にそういう意味で言ったわけではなくてな、詩道には詩道の可愛さがあるさ。上とか下とか優劣をつけるものじゃない。だからそんな泣きそうな顔するなよ」
「そうですか!ありがとうございます、お兄様!」
詩道はけろりといつもの表情に戻ると服を脱いでバスルームへと入っていった。
「はぁ…なんか本当に芯の掴めないヤツだ…」
俺も服を脱ぐとバスルームへと向かった。
「なぁ、あゆむって姉ちゃんの裸見たことあんのか?」
小学生2人と高校生1人でぎゅうぎゅう詰めになりながら湯船に浸かっていると奏熾がそう切り出した。
「ん?なんだよ藪から棒に、あるわけないだろそんなもん」
「えぇーーないのかよ彼氏だろあゆむーー」
「あぁ――」
『俺はこいつのカレピッピなんだ』とかそういえば言ってたな俺、忘れてた。
「まだ付き合い始めたばかりだからな、健全なお付き合いしかしてないさ」
「はぁーーまじかよもったいねぇーー姉ちゃんのはだか知らないなんてもったいねぇぞ!」
「そんな言うほどでもないだろ…」
たしかに身長は172cmの俺より少し低いぐらいだからスタイルは良いのかもしれんが、制服越しに見る美空の胸部は正直褒められる程の膨らみはない。火曜サスペンスばりの断崖絶壁とはいかないが、大したものではないだろう。
「いえお兄様、そんなことはないですよ。姉さんの胸は90のEカップです」
「なん…だと…」
Eカップ…?まさか――まさかそんな極上の存在が、今、同じ屋根の下にいるというのか⁉︎
「じょ、冗談だよな?どう見たってEカップあるようには見えないぜ?」
「いえ、私はお兄様に嘘はつきません。姉さんは着痩せするタイプなんです。正真正銘の天然物Eカップです。僕がこの目でブラジャーの数値を確認いたしましたから!そして!実物も!えぇ、あれは90――いえそれ以上の上玉であると詩道はお見受けいたしました」
「そ、そうか――美空は着痩せするタイプだったのか」
90…以上…上玉…
「すげぇんだぜ姉ちゃんのおっぱい、うくんだぜ!おれ面白くってしずめようとしたら姉ちゃんにめっちゃおこられたよ…あ〜あ…今日もあそびたかったのに、あれやわらかくて気持ちいいし」
おっぱい…やわらくて…怒られる…
「詩道も触ったことありますが、あれは良いものでしたよ。ぜひお兄様も機会があればあのおっぱいをぜひご堪能下さい」
俺が…おっぱい…を
「どうしましたかお兄様?顔が真っ赤ですよ?」
「俺は…おっぱい…やわらかい上玉…」
「ん?何を言っているのですかお兄様?詩道、あまりなぞなぞは得意ではありません」
「あゆむ、どうした?おーいあゆむー」
……俺は、おっぱいなんだ――
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「本当に食えんのか歩夢?別に無理しなくてもいいぞ?」
目の前に席に座る美空が心配そうな顔で俺を見つめてくる。
無理もない。俺はお風呂でのぼせてしまって、今さっき意識が回復したところなのだ。はぁ…まさか興奮して小2の前でのぼせるとは我ながら本当に情けない…。
「いや、こんな美味しそうなカレーを目の前に出されたら気持ち悪さなんてもう吹き飛んだよ。今は食欲の方が優ってる」
丸いテーブルの上には美空特製のカレーが5つ並んでいた。
「ははっ、なら良かったよ」
言うといつもの少年のような明るい笑顔を美空は浮かべた。
「んじゃ私も腹減ったしさっさと食べるか。んじゃ玲美、よろしく」
美空に促され玲美がスラリと綺麗に立ち上がる。
「では、このカレーにもお肉が入ってます。私たちは動物の命を頂くということになります。ですから私達の生きる糧となってくれるこの動物に感謝を込めて…いただきます」
玲美のその号令のあと、美空達も声を合わせ「いただきます」と言ってからカレーにありついた。あの奏熾でさえも目を閉じちゃんと手を合わせていた。
「いただきます」
俺も手を合わせるとスプーンを手にし、作道家特製カレーをほうばる。
「んっ…⁉︎」
う、美味い‼︎カレーのルー自体は市販の物だろう、どことなくバーモンドみたいな味が感じられるが、奥ゆかしいというかカレーのくせに辛くない。だが何故かそこがいい。このどことなく酸っぱい柑橘系の味は昼頃俺が決死の思いで拾ったみかんだろう。だがまだ何かあるはずだ、みかんを加えるだけでこんななめらかな味になるわけがない!
「どうだ、味は?」
「あぁすごく美味しいよ。実は相当なゲテモノが出てくるのかと少し身構えたらはしたが、これは参った、きっとインド人も驚くよ」
「ははっ、それは良かった。作った甲斐があるってもんだ」
もう一口食べてみる。本当に美味い。まさか香辛料メインの食べ物で辛味を感じずに美味いと感じる日が来ようとは。
「気に入りましたか?お兄様」
「あぁこんな美味いカレー食ったことないよ」
詩道にそう答えると、何故か隣の奏熾が嬉しそうに笑った。
「へっへぇ〜そうだろ〜なんたってこれは作道家特製カレーだからな!」
「なんで自慢げなのよ!奏熾は別に作ってないでしょ!」
パコン!と玲美は奏熾の頭にチョップをいれた。
「いっいてぇ〜ひどいよ姉ちゃん…」
涙目になりながらそう言う奏熾。それを見て笑う美空と詩道、そしてご立腹の玲美――色々な感情が、狭いテーブルの上で行き来していた。
「なんかこういうの良いな…」
俺の両親は小さい頃から仲が悪かった。だから家族団欒の食事なんて記憶にはない。文那と二人、両親の喧嘩のとばっちりが来ないように静かに食べていた。そのせいか、今でも食事中は無言なことが多い。
大勢で食卓を囲って食べるというのは、こんなにも美味しいものだったんだな。
「ん?なんか言ったか歩夢?」
「いや、何でもない。ただこのカレーが本当に美味しくてな、ただ悶絶してしまっただけだ」
「ははっ、そうかいそれは嬉しいね。今日は育ち盛りの男子3人分大量に作っておいたからたんと食え!」
美空がそう言って少年のように笑うと「やったーおかわりできるー!」と奏熾と詩道がはしゃぐ。
「ほれほれ食って育って私の老後を楽にしておくれ弟達!」
「も〜お姉ちゃんは老後よりも今が心配だよ」
「ははっ!たしかにそれは玲美の言う通りかもな!」
微笑ましい光景に思わず顔がほころぶ。
まさか、死んだあとにこんな幸せに気付くなんてな――
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「さて、じゃあそろそろ帰らせてもらおうかな」
山のようにあったカレーを平らげて30分程したところで俺はそう言ってソファーから立ち上がる。
時計は21時をちょうど指しているところだった。玄関で寝てた次の日にまた夜中帰り、というのは流石に印象の良いものではないだろう。それに、一人ぼっちじゃ寂しいもんな。
「なんだよあゆむーもっとゆっくりしてけよーなんならとまってけよーー」
「そうですお兄様、詩道も今日は泊まっていってほしいです」
「いや悪いな二人とも、家で妹が一人で待ってるんだ。だから帰らないと」
俺のその言葉を訊いた玲美が「おいくつなんですか?」と質問してきた。やはり妹、同じ属性の人間の事は気になるらしい。
「13歳で中学一年生だから玲美の一個上さ」
「へぇー中学生の方なんですか!ぜひ会ってみたいです!」
「そうか、なら今度連れてくるよ。妹もきっと喜ぶ」
「またきてくれるんですか?」
「あぁもちろん。みんなに会いにまた来るよ」
俺はそう言ったあと美空に声をかける。
「いいよな?」
「あぁ…大丈夫だ。歓迎してやるさ」
「だってさ、じゃあまた今度な!みんな!」
「うんーじゃーーなーーーあゆむーーー‼︎」
「ではお兄様また今度!詩道待ってます!」
文那もきっとこの子達と会えば喜んでくれるだろう。あいつ年下好きだし。
「待てよ、そこまで送って行くよ」
リビングを出ようとする俺を美空がそう言って呼び止めた。
「いやいいよ、道はなんとなく覚えてるし」
「おっ随分と物覚えが良いんだな。でもいいんだ、私が送りたいだけだ」
「なんだよそれ」
「いいだろ別に、そういう気分なんだ。それに女からの誘いは無碍に断るべきじゃないぞ?」
美空はそう言って壁に立てかけられていた白杖を手にして立ち上がった。
「ほら、いくぞ」
「はいはい、わかったよ」
「よしよし、物分かりのいいやつだ」
ニシシと楽しそうに美空は笑う。はぁ、俺はハニートラップに掛かりやすいタイプかもしれない。
「それじゃ姉ちゃんちょっと歩夢のことそこまで送っていくから、3人ともちゃんと寝てろよー」
はーい!という元気な声を背中で受け止め、俺と美空は家を出た。
「それじゃこっちから行こう、物地獄坂まではこっちから行った方が早いんだ」
美空は左側の道を指差した。最初来た時とは真逆の道だ。
「そうか、近道があるなら助かるよ。早い方が助かるし。にしてもそれなら最初からその道で来てくれれば良かったのに」
「私はあまり他人を信用しないタチでね、家の場所を覚えられないよう遠回りしてきたのさ」
信用しないタチって…誘ってきたのは美空からだったじゃないか…。
「まぁそんなことはいいんだ。それじゃ腕借りるぞ」
「おう」
美空のガサツな性格からは想像できない程、しなやかで細い指が俺の右腕に絡みつく。
「今回はゆっくりでいいぞ、少し風に当たりたいんだ」
言うと美空は俺に少し体重をかけて寄り添ってきた。
「あぁ、わかった。安全運転でいかせてもらう」
俺のその言葉に美空はふふっと笑った。
「そういえばあんたには夢はないのか?」
「それまた唐突な話題だな」
人っ子一人いない暗い路地裏に差し掛かったところで美空はそう口を開いた。
「うーんそんな急に言われても――」
強いていえば長生き、なのかな。本当に俺の寿命が1年しか残ってないのかはわからんが…だがこんな答えを美空が求めているわけではないだろう。
「なんでもいいさ、そんな深く考えるほどのものじゃない」
「そうは言ってもなぁ――」
いつだって人の質問には100%で答える、というのが俺のスピリットだ。
「……じゃあ」
美空は白杖を地面へ放り出すと、両手を俺の腰に回しいきなり抱きしめてきた。
「は…はぁ⁉︎何やってんだお前⁉︎」
「こういうのはどうよ?」
「こういうのはって言われても…」
見た目からは想像できないほど豊かな膨らみが俺の体に当たり押しつぶされる。
「私はけっこー体の方には自信があるんだ」
「……っ」
美空を離そうとして俺が暴れてしまったせいでブラウスのボタンがはずれ胸の谷間とブラジャーが露わになる。
小さく見せるためなのかその胸に不釣り合いなブラジャーに押しのけられ谷間はとてつもないボリュームになっていた。
「な?どうだ?男の夢っていったらこんなもんだろ?」
マシュマロのように柔らかく、それでいて弾力のあるその感触に俺は惑わされそうになる。
「一発ヤってみな?超気持ちいいぜ?」
言って美空は俺のズボンの方に手を伸ばした。
「っ⁉︎どうしたんだよお前⁉︎」
突然の事に驚き、俺は美空の肩を掴み強引に引き剥がした。
「はぁ…はぁ…ほんとやめろよ。体は大切にするもんだ。そんな気軽に触らせていいもんじゃない」
「ふーん、そうか――まぁあんたがそう言うのなら私はそれで構わないけど」
そう言う美空の顔からはいつもの人当たりの良さそうな笑顔は消え、人が変わった様に冷たい口調で美空はそう口にする。
なんなんだ、情緒不安定なのかこいつは?それとも俺がヘタレでムカついたってか?
「悪いけど私から出来ることなんてこれぐらいしか思いつかなくてな、それを拒むっていうなら私からしてやれることはなにもない。もう一度訊く、あんたに夢はないんだな?」
夢?まだその話は続いてたのか。
「あぁねぇよ!もうそういう事にしてくれ!」
頭の中はもうぐちゃぐちゃだ。夢なんてそんな物考える余裕なんてない。俺は童貞なんだぞ⁉︎そんな冷静に集中なんて出来るか!
「わかった――」
ポツリとそう小さく美空はそう口にすると俯いた。
「はぁ…まぁわかってくたならよかっ――」
ぐちゃ…と突然何かが俺の左胸を貫いた。
「――――⁉︎」
俺は口をパクパクと動かしながら声にならない声を出しその突然の出来事に唖然とするしかなかった。
ぽた…ぽた…と鮮血が俺の左胸を貫いた美空の右腕を伝い、地面へと滴る。
「ど…どうして、だ?」
震える口に必死に力を込め、なんとかその言葉を口にした。
「夢がないなら、死んでも悔いはないだろ?」
そう言って少年のように笑う美空の表情は月明かりに照らされ不気味にみえた。
作道 玲美
年齢:12歳
誕生日:12月25日
好き:料理,姉の手伝いをする事、弟の面倒を見る事
嫌い:一人で眠る事,髪を洗うとき
ガサツな姉,奇特な弟達を支えるしっかり者の小学六年生。だが人の面倒を見ることが好きなので苦には思っていない。引っ込み思案な所があり、最近クラスに転校してきたイケメン「アンダーソン」君に告白できないでいる。
作道 奏熾
年齢:9歳
誕生日:8月8日
好き:サッカー,水泳
嫌い:ナイフや紙の角など尖ったモノ
輝く鼻水は鼻炎の証。耳鼻科が怖くて病院へ行かないため一年中鼻が詰まっている。お風呂で姉の胸を見る度に胸に湧き上がってくる感情--それが何なのか彼はまだ知らない。
作道 詩道
年齢:9歳
誕生日:8月8日
好き:ゲーム,歳上の男性と女性,歳下の男の子と女の子
嫌い:なし
常に薄ら笑いを浮かべている妖しい雰囲気を漂わせる男の子。だがその理由は頭の中が常にエロい事で溢れてるためにやけが止まらないだけ。お風呂で姉の胸を見る度に感じる感情が何なのかはっきりと彼は認識している。
自分の容姿の可愛さ、年齢による強さを完全に理解しているので、それに適した態度を取ることで全ての年齢の男女からモテている。だが彼はそんな有象無象に興味は示さない。彼が狙うモノそれは--