死んだ後のプロローグ
2020年7月7日、現在の天気は雨、俺――二階堂歩夢の人生は、どうやら17歳という若さでその生涯を終えるらしい。
「……ごふっ!」
倒れている俺の背中にまた包丁が突き立てられ、俺の口から血が溢れ出す。
あーあ…なんか、まだやりたい事とかあったんだけどなぁ…まさかコンビニの帰り道でいきなり刺されるとは…通り魔が出るなら出るって教えてくれよ…対策のしようがねぇぜ……
「……ごほっ…」
また包丁が突き立てられる。
今の俺には既に体を動かす元気は残ってなく、首を動かすことも出来ない。
せめて俺を殺した奴の顔ぐらい覚えてそいつが死ぬまで地獄で待っててやろうかと思ったが、どうやらそれは叶わないらしい。
「……ぐっ」
背中にまた包丁が突き立てられた。
今度は氷で冷やしでもしたのかな…すごく、冷たいものだった。
ポツポツと顔に雨粒が当たる。そしてその小さな粒は、次第に大きな雷雨となって俺と包丁男に降り注いだ。
何十分――何時間続いたんだろうか…わからないけれど、満足したようで、通り魔はやっと俺の体を刺すのをやめてくれた。
ははっ、ありがたいな。これ以上の傷はお嫁に行けなくなる。
「はぁ…はぁ…」
背中からは興奮めいた荒い息遣いが聴こえる。
もしかしたら…こいつは――
いや…まぁもう、いいか……なんか、刺された場所の…痛みが…無くなって…眠く……って…き………
……
………
…………
……………
「…ねぇ」
………。
…………。
「さっさと起きろ!バカ兄貴っっ!」
ドゴッ!と頭部を誰かに強く殴られる。
「いってぇ〜‼︎」
ぐわんぐわん、と頭は衝撃で多少揺れてはいるが、俺――二階堂歩夢は強制的に意識を覚醒させられた。
「起こす時はもっと優しくしてくれよ!」
くそっ、なんなんだよ人が気持ち良く眠っていたというのに…。
「も~……起きないのが悪いんでしょ、こんなところで寝て…風邪ひくよ!」
俺はヒリヒリと痛む頭部を抑えながら声の主――3つ歳下の妹である二階堂文那を見る。ぴょこん、と横に可愛らしく結んだ三つ編みと、綺麗に切り揃えられた前髪が特徴の、勉強ができる俺の自慢の妹だ。
「風邪ひくって……外でもあるまいし……」
話してる内に寝ぼけた脳が徐々に覚醒していき、全身の感覚が戻ってきていた俺は、その時初めて気付いた。自分が眠っていた場所を――そこはいつもの柔らかいベッドの上なんかじゃなくて、我が家の前の玄関の固いタイルの上だった。
「うぉ⁉︎なんで俺こんなトコで寝てたんだ⁉︎」
驚くその俺の様を見て文那は「はぁ…」と大きなため息をついた。
「それはこっちが訊きたいぐらいだよ…なんでこんなトコで寝てんのさ。家の鍵フツーに開いてたよ?」
「そ、そうなのか…それは確かに謎が深まる一方だな」
うんうんと頷く俺を見て文那はさっきより更に大きくため息をつく。
『呆れた、こりゃお医者さんに掛からねば』と言いたげな感じだった。
「電話にも出ないし本当に私心配したんだからね!どーせ悪い人達とつるんで未成年飲酒でもしたからこんなトコで寝てたんだろうけど、身内から犯罪者出るなんて私は嫌だからね!」
もうお兄ちゃんなんか知らない!と言って文那はそっぽを向く。
いやいや話が広がり過ぎじゃないか?ただ夜中にコンビニ行った兄が朝帰りに玄関の前で寝ていただけの事じゃないか。やれやれ、この妄想力――中二病ってヤツなのかな…。
「まぁ落ち着けよフミ、お兄ちゃんはそんな悪い人達とはつるんでないさ、ただ夜中にコンビニにカップラーメン買いに行っただけさ」
「コンビニなんてすぐそばだし、往復でも3分しかかからないでしょ?なんで玄関で寝ちゃうほど疲れちゃったのかって訊いてるの!」
うーん、たしかにそこなんだよな。たしかに俺はコンビニにカップラーメンを買いに行った、そこは間違いないはずだ。何故なら昨日の24時からはその対象商品のカップヌードルを買う事で貰える大人気アイドル【宮鷹由莉奈】の限定缶バッジが貰えたからな。
「そうだよな、なら――」
ズボンのポケットに手を突っ込むと硬い平べったい物に当たった感触があったのでそれを取り出す。ポケットから出てきたのは【宮鷹由莉奈感謝の武道館ライブ記念バッジ】が2枚だった。
「ふーん、コンビニに行ったってのは嘘じゃないみたいだね」
釈然としない、といった様子ではあったが文那は俺の証言を認めてくれた様子だった。
「で?じゃあなんでその目的の物を手に入れたっていうのにあんなに帰りが遅かったわけ?私もゆりっちのバッジ楽しみにして、お兄ちゃんが帰ってくるの3時間ぐらい待ってたんだよ!」
「やっぱそこにツッコむよな…」
そこが俺にもわからない…缶バッジを無事手に入れて、店を出て、夜風が気持ちよかったから遠回りして帰ろうってなっていつもと違う道を通って…そこで――
「そうだ――俺、死んだんだ」
俺のその言葉にもはや文那はため息すら付かなかった。ふるふると体を震えさせ怯えた様子をみせた。
「お、お兄ちゃん……」
そりゃ無理もないか、死んだと言ってる兄が目の前にいるのだからそりゃ嬉しさで、それこそ身が震える思いだったよな。
「ごめんな文那、心配かけて…でも、俺はこうしてちゃんと生きてるよ」
俺は文那を抱き寄せようと両腕を広げてにこやかに笑う。
「こんのクソバカ兄貴〜!」
「うぉほっ⁉︎」
だが文那のくれたものは熱い抱擁などではなかった。大量の教科書により繰り出される重い一撃だった。俺はそれを右頬だけで受け止めた。
「もー!深刻な顔して何を言い出すのかと思えば!もう本当心配して損した!早く着替えて学校行け!もう私は知らんからっ‼︎」
「あっ待っ――」
「待ちませんっ‼︎」
文那はひとしきり叫び倒した後、ぷんぷんと怒りながら早足で学校へと向かって消えてしまった。
「うーん、でも他に言いようが無かったしなぁ…」
記憶が正しければ俺は昨日の帰り道誰かに刺されて死んでいる。今だってあの時背中に突き立てられた冷たい包丁の感覚が残って――
「ないじゃん…」
俺はペタペタと自分の背中を触る、だが何処にも傷なんて付いてない、ましてや着てる服は新品同様だ。心なしか家を出た時より綺麗な気がする。
「ん~……悪い夢でも見てたのかな」
と思った直後、
「ん?なんだこれ」
肩の所に紙が貼ってあるのに気づいた。俺はそれをペリッと剥がしてみる。
紫色の金箔が散りばめられた高級そうな紙には、綺麗な文字でこう書かれていた。
『蘇り成功おめでとうございます!いぇい!歩いていたら君が死んでるのを見つけちゃって『こんなに若くし死ぬのもかわいそ~』ってことで生き返らせました!てへっ〜☆これで一年間君は普通の人と変わらない生活を送れちゃいます!一年間はね……まぁ何はともあれ楽しい二度目の人生を!Have a nice NEN!』
「………なんだこりゃ」
やっぱり俺は死んだのか?
「いや、でも誰かのいたずらの可能性も全然あるよな……」
ピピピ…ピピピ
突然、ポケットに入ってたスマホが嫌な高音を出しながら震える。八時三十分ちょうどに設定してるアラームだ。
「はぁ…まぁ取り敢えず学校に行かないと、だよな」
遅刻をすれば担任に目をつけらてしまう。静かに学生生活を終わらせたい俺としては、それは死活問題だ。
「さて…」
メモをポケットにしまうと、俺はスマホを取り出し、ロックを解除した。すると、勝手にメモアプリが起動し、書いた覚えのないメモ書きが表示された。
「写真を、開いて?」
俺はメモアプリを閉じると、メモ書きに従い、写真フォルダを開く。
「こ…これは……」
ゴクリ…と思わず息を飲む。
写真フォルダには血まみれの俺の死体を撮った写真が保存されていた。
「ははっ、なるほど……夢じゃないってか」
乾いた笑いが出た。
この紙に書いていることを信じるなら、どうやら俺の寿命は一年ということだった。
xxx
「二階堂、三分の遅刻だぞ。それでは社会に出た時に困る」
教室の前につくと、白いカチューチャが特徴的なクラス委員長の三日月弓流がキッと俺を睨みつけながら、教室の前で仁王立ちして教室への侵入を阻んでいた。
「たった三分だろ、そんぐらい大目に見てくれないかな」
「されど三分だ、人の信頼を失うには充分な時間だ」
「はぁ…そうかよ、それはたしかに三分遅刻は大罪だな」
と、俺たちが口論してると、バタバタと走りながらクラスメイトの佐藤くんが後方から近付いてきた。
「あぁ佐藤、六分の遅刻だ。次からは気をつけろよ」
佐藤くんはコクリと頷くと扉を開け教室へと入っていった。
「あれ?えらく短くねぇか?」
「人間大事なのは、アフターフォローということだ。佐藤君を見てよく学ぶことだな」
は…はあぁぁ⁉︎理不尽だ!理不尽過ぎる。
「おーい三日月、その辺にして早く二階堂を入れてやれ、授業始めんぞ〜」
教室から出てきたウチのクラス2年B組の担任――星空月先生が俺に助け舟を出してくれた。二年連続担任をしてくれてるだけあって、俺と三日月の関係性を知っているので何かと助けてくれて、とても気がきく、本当に″大人″だと俺に感じさせる女性だ。
ちなみに、名前で呼ぶと凄い怒る。良い名前だと思うんだけど、星空先生曰く「30にもなってルナは辛いよ…」との事らしい。星空は辛くないのかな、という疑問は持っては負けだと思っている。
「ふん、まぁ…星空先生が言うならいいか。次は気をつけろよ」
委員長はまたキッと切れ長の目で俺を睨むと、教室に入って、窓際の自分の席へとついた。
「さっ、二階堂お前も座れ。今度は三日月に怒られないよう気をつけろよ」
「ありがと先生、助かったよ」
俺は先生に一瞥すると、委員長とは真逆の壁際の席へと着いた。
別に意図的に離れた席にしたわけではないが、1年の頃からずっとくじ引きで俺と委員長の席は真逆だ。
「あ〜あ〜、ま〜たゆみっちに怒られてんじゃん」
「はぁ…まったく勘弁してほしいもんだよ…」
席に座ると隣の席の辰波彩音が腰までかかる長い茶髪を揺らしながら笑顔で俺の方へ近づいてくる。
「まぁさ、ゆみちゃんはツンデレでちょっと感情表現がアレなだけだからさ、許したげてね」
「はぁ、ツンデレ…ねぇ」
俺は窓際に座りながら頬杖をついて真昼間から黄昏ている委員長を見る。たしかに、みたまんまツンデレっぽい感じな風貌だな。
「そうだな、まぁそういうことなら大目に見てやるよ」
「流石あゆっち、いいヤツだね〜」
「お〜い、そこの二人、喋ってないで前向け〜ホームルーム始めんぞ」
星空先生が教科書の角でコンコンと黒板を叩く。
「は〜い、ごめんなさい!先生」
悪びれた様子もなく、彩音は返事をすると前へと向き直った。
「まぁ、さしていうことはないんだがな…いつもと同じだ。他の教科担当の先生に迷惑かけるなよ。ただそれだけだ」
はーい、と決まり切ったやる気のない返事が教室に響く。
「それじゃホームルーム終わり、かいさーん」
相変わらずテキトーだなぁ先生…まぁあんな気怠そうにしているのに案外熱心に文化祭の下準備とかしてくれてるから信用はあついんだけど。
「そんじゃ俺寝るから、1限始まったら起こしてくれ」
「えぇー、私そんな介護したくないんだけど…」
と、そんなやりとりをしながら眠りにつこうとすると、佐藤くんが真横に落ちている紫色の紙を拾おうとしてるのが目に入った。
いつもならそんな事気にせず至福の時間へと移行するのだが、今回はそうはいかなかった。
何故なら、佐藤君の拾おうとしているそれは――俺が死んだという事が書かれている紙だからだ。
「やべっ――佐藤くん待っ――」
俺が急いで止めようとした時にはすでに遅し、佐藤くんは落ちている紙に気づいて手を伸ばしていた。
「それを見るんじゃねぇ‼︎」
ドガン‼︎
と俺がそう叫んだ刹那、大きな爆発音が教室中に鳴り響き、目の前にいた佐藤君がガラスを突き破って教室から下へと落下していった。
「佐藤君が吹っ飛んだーー‼︎」
おれのその叫び声を皮切りに「きゃーー‼︎」と教室中から悲鳴があがる。
「な、なに⁉︎何があったの、これは⁉︎」
あわあわとした仕草をしながら彩音は顔面蒼白となっていた。
「歩夢!ぼーっとしてないの‼︎」
その声でハッとする。そういえば呑気に彩音を観察している場合なんかではない。早く佐藤君の安否を確認しないと!
「佐藤くん!大丈夫か⁉︎」
俺は急いで席を立つと、割れた窓ガラスから3階下のグラウンドに落下した佐藤君を見る。
グラウンドには頭から多少血は流れているが、元気そうにこちらに向かってサムズアップしている佐藤君が立っていた。
「わーっ!すごい!みて!歩夢!佐藤君生きてるよ!」
「ほ、本当だな…何者なんだよ佐藤くん…ここ、3階だぜ?」
こんな高さから落下すれば大抵の人間なら骨折か最悪には死に至ってるような気がするものだが…
そんな事を考えながら佐藤君を見ていると、佐藤君がマスクを外し、何かを喋り始める。声が小さいせいで何を言ってるかは聴こえない。
「えーっとね…僕は、常に、防具服を、着用してるから、全然平気なんだぜ、ベイビー、俺っちの心配なんてせんで、1限を始めてくれよ、お嬢ちゃん達――だって!」
「そうなのか、随分とな口ぶりだが…というか彩音、そんな事出来たのか」
「うん!私は特技が読唇術だからねぇ〜。こんなのお茶の子さいさいよ!」
え〜っと次は〜、と言いながら彩音は解読進める。
「では、すぐ、上がりま〜す、yeah――だって!」
「そ、そうか…ほんと丈夫だな佐藤くん…というか、口調やっぱりおかしくないか?そんなだったっけ?」
「いや、口調はちょっと私が弄ってみました」
えへへ、と笑う彩音。
そんな舌を少し出して可愛こぶってもダメだからな。こっちは今、超シリアスなんだ。人が飛んでんだぞ?
「はぁ…まぁとりあえず佐藤くんを迎え行ってあげようぜ。流石に――」
『階段登る程の元気はないだろ』と言いかけた刹那、ガラガラと扉が開けられ、頭部の出血を見事止血して、制服についた埃などもはらった今朝と寸分変わりない佐藤くんが入ってきた。
「超はえぇっ⁉︎」
「えぇーっと…さぁ、授業を、始めよう、我がクラスメイト諸君――だって!」
「いや、読唇術しなくてもわかるから、この距離ならちゃんと佐藤君の声聞こえてるから!」
「ハイー、ではB組の皆様、イングリッシュの時間で――ってなんですかこの散乱した教室はっ⁉︎」
ぎょえぇー‼︎と教室に入ってきた英語担任の先生が奇声をあげる。
「やれやれ…どこから説明すれば――いや、なんて説明すればいいのやら…」
そのあと俺たちは出来る限り事情を説明し、なんとか2限から通常通りの授業を行った。
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「ねぇ!歩夢!」
放課後、クラス――いや、学年一可愛いと評判の男子生徒――西園寺優宇がスマホ片手に、席を立とうとする俺に話しかけてくる。
優宇は父親が日本人で誰もが一度は耳にしたことあるIT会社の取締役、母親はロシアの資産家の娘らしい。
極々普通のサラリーマンと主婦だった俺の両親とは縁もゆかりもない。
何故こんな坊ちゃんが俺と仲良くしてくれているのかがよくわからないが、可愛いから深く考えていない。それに鼻にかからない超良い奴だしな。あと、何よりも可愛い、ロシアハーフは伊達じゃない。夕日に当たって綺麗な金髪が煌めいてやがるぜ。
「これ!ぜひこのイヤホンを耳につけて!」
「ん?なんだよ藪から棒に、またなんか良い音色でも見つけたのか?」
優宇はいわゆる音フェチというヤツで、よく気に入った音を録音しては俺に聴かせてくれる。
「うんうん!それがね、今回のはすごいんだよ!音が反響しやすい裏路地を八千円のローファーで小走りする音、なんだ!
「ははっ、それはすげぇ。想像するだけで絶対良い音だな」
「でしょ〜!ささっ、早く聴いてみたよ!」
「あっ…でもちょっと待ってくれ」
言ってイヤホンの片方を差し出す優宇を俺は静止させた。そういえば頼みたい事があったのを思い出した。「どうしたの?」と優宇は可愛らしいキョトンとした表情を浮かべる。
「いやそれがな、ちょっと優宇に相談してみたい事があるんだよ」
「相談?僕に?」
「あぁ、優宇にしか出来ない相談だ」
俺のその言葉に優宇は「えっ!ホント?僕にだけ?」と嬉しそうにえへへ〜と微笑む。学年一可愛い、は伊達じゃないな。
「で、どんな相談なの?」
「それなんだけどな、この近辺で最近死んで生き返った人間がいないか優宇の情報網を使って調べて欲しいんだ」
「死んで生き返った、人…それは、どうして?」
「信じられないかもしれないけど、その死んで生き返ったってのが他ならぬ俺なんだ。だからお仲間もいるんじゃないか、と思ってな」
優宇は「へぇー」とか「ふーん」とか「なるほど〜」とか言った後「いいよ!」とにっこり微笑んだ。
「か、快諾ぅ〜!」
優宇なら断らないとは元々思っていたがまさかこんなにもあっさりOKしてくれるとは…普通こんなスピリチュアルな話を二つ返事で信じないだろ。
「優宇、お前ホントに信じてるのか?」
俺のその問いかけにも優宇は笑みを崩さず「うん!」と元気よく頷く。
「もちろん信じてるよ。歩夢が僕にそんな嘘をつく理由もメリットも無いしね!」
生きてるならなんだってオーケーだよ、そう言って笑顔を浮かべていた。
「まぁ何はともあれ、信じてくれてありがとな優宇」
「い〜のい〜の、親友なんだからさ!死んでなくて、生きてるなら僕は安心したよ」
気にしない気にしない、と一休さんの様な事を言って可愛らしい笑みを浮かべる優宇。うん、″親友″でよかった。
「にしても今日は色々ある一日だねぇ。佐藤くんが急に教室から吹っ飛んで窓から落ちてったり、歩夢が生き返ったり」
「たしかに、そう言われると濃厚な一日だな」
人間が吹っ飛んで窓から落ちる事と、死んだ人間が生き返るなんて事、そうそう同時に起こらないだろう。それこそ天文学的な確率、というやつなんじゃないんだろうか。
「でもまだ夕方だし、日付が変わるまでは8時間も残ってる。今日は気を付けて帰りなよ、歩夢」
真剣な表情でそう言う優宇に俺は「忠告ありがとな」と言うと、鞄を持ち、席から立ちあがる。
残念な事にこういう優宇の勘はよく当たる。暗くなる前に帰ったほうが無難だろう。また通り魔に刺されるなんてごめんだしな。
「じゃあ、また明日」
俺は優宇に向かって手を振ると、教室をあとにした。割れた窓から吹き抜ける風は、冷たくて…何か新しいモノを感じさせた――