呪詛
「面白いものが見つかったぞ」
閉校になった高校の解体作業のアルバイトの休憩中、髭もじゃ顔の男が、りょうの向かいの席に座り、紙切れを広げて見せてきた。
その紙切れはノートをちぎったもので、紙全体を小さな赤いハートが取り囲み、その中央に几帳面な文字と丸みを帯びた文字で、こう書かれていた。
[かおりと二年生も同じクラスになれますように。りょう
りょう、ずっーとずっと一緒だよ。大好き! かおり]
髭もじゃ男がニタニタしながら、りょうの顔色を伺っている。りょうはこれを書いた本人が今これを見たら、十中八九悶絶するだろうなと思いながら、髭もじゃ男に、これをどこで見つけたのかとたずね返した。
その紙は、黒板の撤去作業中に、黒板と壁との隙間から出てきたそうだ。
こんな高校生活送りたかったよ。と、りょうは微笑みながら、その紙を返した。
翌々日、りょうが放送室で解体作業をしていると、壁に開いた穴の奥から折り畳まれたノートの切れ端を見つけた。
ああ、まただ。と、思いながら、りょうはそれをズボンのポケットにしまいこんだ。
その紙切れの存在を思い出したのは、帰りのコンビニでレジ待ちしている時だった。りょうはそれを広げて目を通した。
[クラスが違っても、かおりは友達。りょう
本当に? りょう、大好き! かおり]
この前見たやつの続き? まさか……ね。
りょうは手にしていた紙をくしゃりと丸め、そのままゴミ箱に捨てた。
それからさらに数日後、今度は三階の音楽室横の倉庫隅の穴から、それは出てきた。
広げるなり目に飛び込んできたのは、紙の中央に、りょうとかおりの名前の相合い傘。そして、その紙の縁にびっしりと赤色で[りょうは私のもの]の文字。
さらに、紙の裏にも赤字で、かなという子に対して、嫌な言葉が書き殴られていてた。
「りょう、すまんが中庭の方に来てくれ」
髭もじゃ男の声がした。りょうはその紙を投げ捨て、逃げるように部屋を出た。
中庭では、ショベルカーを使って、敷かれていた石を掘りおこしている最中だった。
髭もじゃ男の指図に従い、りょうは石を掘り起こしていく。たちまち、りょうの足元に大小様々の穴がいくつも出来た。
固く結んだはずの靴紐がほどけた。りょうはしゃがみ靴紐を直す。と、りょうの視線が穴の一つの中に、何かがあるを捕らえ、それを引き抜いた。
それは、真っ黒に変色したタオルで、りょうが手にするにを待っていたかのようにほどけると、中から顔や身体を切り刻まれた人形が二つ転がり出た。
その人形の胸には、りょうとかなのという文字が読み取れた。
りょうは思わず悲鳴をあげ、投げ出した。
その悲鳴に、髭もじゃ男がどうした。と、駆け寄り、りょうが投げ出した物を見るなり、みるみる顔色を変えた。
「りょうくん、ごめんなさいね。怖い目に合わせちゃって……」
「いえ、りょうこおばさんが謝ることではないですから」
「……念のため、ここにお詣りしてきなさい。昔、あなたのお母さんと一緒にお詣りしたことがあるの」
「ええ、そうします。母も同じようなことを言っていました。その前後に一年の時のクラスメイトが不審な亡くなり方をして、怖かったとも……
母もこちらに来ると言っていますので、親孝行かねて、そこに行ってきます」
「あら、まあ。ふふふ、かなえちゃん、いい息子持ったわね~」
――あれ? りょうにかな。まさかね……
りょうは、その嫌な空想を圧し殺した。