表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編小説集

呪詛

作者: 大西洋子

「面白いものが見つかったぞ」

 閉校になった高校の解体作業のアルバイトの休憩中、髭もじゃ顔の男が、りょうの向かいの席に座り、紙切れを広げて見せてきた。


 その紙切れはノートをちぎったもので、紙全体を小さな赤いハートが取り囲み、その中央に几帳面な文字と丸みを帯びた文字で、こう書かれていた。


[かおりと二年生も同じクラスになれますように。りょう

 りょう、ずっーとずっと一緒だよ。大好き! かおり]


 髭もじゃ男がニタニタしながら、りょうの顔色を伺っている。りょうはこれを書いた本人が今これを見たら、十中八九悶絶するだろうなと思いながら、髭もじゃ男に、これをどこで見つけたのかとたずね返した。


 その紙は、黒板の撤去作業中に、黒板と壁との隙間から出てきたそうだ。


 こんな高校生活送りたかったよ。と、りょうは微笑みながら、その紙を返した。



 翌々日、りょうが放送室で解体作業をしていると、壁に開いた穴の奥から折り畳まれたノートの切れ端を見つけた。


 ああ、まただ。と、思いながら、りょうはそれをズボンのポケットにしまいこんだ。


 その紙切れの存在を思い出したのは、帰りのコンビニでレジ待ちしている時だった。りょうはそれを広げて目を通した。


[クラスが違っても、かおりは友達。りょう

 本当に? りょう、大好き! かおり]


 この前見たやつの続き? まさか……ね。


 りょうは手にしていた紙をくしゃりと丸め、そのままゴミ箱に捨てた。


 それからさらに数日後、今度は三階の音楽室横の倉庫隅の穴から、それは出てきた。


 広げるなり目に飛び込んできたのは、紙の中央に、りょうとかおりの名前の相合い傘。そして、その紙の縁にびっしりと赤色で[りょうは私のもの]の文字。

 さらに、紙の裏にも赤字で、かなという子に対して、嫌な言葉が書き殴られていてた。


「りょう、すまんが中庭の方に来てくれ」

 髭もじゃ男の声がした。りょうはその紙を投げ捨て、逃げるように部屋を出た。


 中庭では、ショベルカーを使って、敷かれていた石を掘りおこしている最中だった。

 髭もじゃ男の指図に従い、りょうは石を掘り起こしていく。たちまち、りょうの足元に大小様々の穴がいくつも出来た。


 固く結んだはずの靴紐がほどけた。りょうはしゃがみ靴紐を直す。と、りょうの視線が穴の一つの中に、何かがあるを捕らえ、それを引き抜いた。


 それは、真っ黒に変色したタオルで、りょうが手にするにを待っていたかのようにほどけると、中から顔や身体を切り刻まれた人形が二つ転がり出た。


 その人形の胸には、りょうとかなのという文字が読み取れた。


 りょうは思わず悲鳴をあげ、投げ出した。

 その悲鳴に、髭もじゃ男がどうした。と、駆け寄り、りょうが投げ出した物を見るなり、みるみる顔色を変えた。


「りょうくん、ごめんなさいね。怖い目に合わせちゃって……」

「いえ、りょうこおばさんが謝ることではないですから」

「……念のため、ここにお詣りしてきなさい。昔、あなたのお母さんと一緒にお詣りしたことがあるの」

「ええ、そうします。母も同じようなことを言っていました。その前後に一年の時のクラスメイトが不審な亡くなり方をして、怖かったとも……

 母もこちらに来ると言っていますので、親孝行かねて、そこに行ってきます」

「あら、まあ。ふふふ、かなえちゃん、いい息子持ったわね~」


 ――あれ? りょうにかな。まさかね……

 りょうは、その嫌な空想を圧し殺した。

 

 

 

 

 


 


 

 

 

 

 


 

   

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ