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私たちは中二病  作者: とむ
1/1

新しい生活

ザワザワザワザワ。

見慣れた体育館に、いつも通りのクラスメイト。いつも通りの集会体型。

なのにこの体育館は、どこか浮き足立ったような雰囲気に包まれていた。

花形瑠璃は大きく息を吸って、ふうーーーっと吐く。そして辺りを見渡した。どの顔も、期待に胸を膨らませるようにキラキラとし、また、どこか不安げな表情でもある。

ザワザワザワ。

相変わらず騒々しい体育館。誰もがそわそわしながら、先生からの指示を待っている。

「ゴホン、えーー、新三年生の皆さんは、教室に戻ってください。新二年生の皆さんは、その場に残ってください。」

ザワザワザワザワザワザワ。

先生のこの言葉で、体育館は更に騒がしくなった。皆、辺りをキョロキョロしながら、まだかまだかと待っている。

「えーーー、新二年生の皆さん。お待たせいたしました。全員起立して、後ろを向いてください。」

ワーーーーーー!!

この声と同時に、体育館のボルテージは噴火するかのごとく、最高潮に達した。

後ろを向くと、学年の先生方が、大きな紙を体育館後方の壁に、6枚貼り付けていた。

「それでは、待ちに待ったクラス編成が張り出されました。一斉に見て行ってください。それと…」

先生の話はまだ終わっていなかったが、興奮した生徒たちはもう走り出している。

そう、今日は2年生になって初めての登校、始業式。クラス替えが行われる日であった。この学校は、二年次のみクラス替えがあるため、中学校生活最初で最後のクラス替えである。

「瑠璃!」

そう呼ばれ声の方を向くと、いつの間にか隣に中山雪が立っている。

「見に行こっか。」

「うん!」

「こっちから行こ!」

瑠璃は6組のクラス掲示を指差し、雪の手を引き駆け出した。

掲示の前に着き、上から自分たちの名前を探していく。

「無さそうだね〜。」

そう言いながら、瑠璃は少し落ち込んでいるのが自分にもわかった。葉山剣心の名前があったのだ。

好き、というわけではないはずなのに、どこか落ち込んでい自分がいる。自覚はなかったが、同じクラスがよかったと、そう思っていたらしい。仕方ないか、と思いながら、他の名前も見てみると、山田海斗に上杉悠人、更には小泉一の名前を見つけた。彼らとは1年の頃から親しくしていた仲であった。ああ、こいつらとも他クラスか、一緒だったら楽しかっただろうな、と更に気分が落ち込みながら、五組の掲示に移る。

「5組もないね〜〜。」

と雪が言う。

2人でゆっくり歩きながら、4組の掲示へ向かう。そこには、中山雪の名前があった。

「うちの名前あったよ!瑠璃!」

そう言った雪に、

「雪〜〜〜〜!!同じクラスだよ!やったあ!!」

田村奈々と、小島静香がやって来た。同じバスケ部に所属するメンバーだ。

「ななー!静香ーーー!!」

3人で抱き合って盛り上がっている。

ここにも自分の名前はない。雪とも違うクラスなのか。雪とは、1年生のクラスでは一番仲がよかった。のんびりしていて非常に温厚な性格だが、芯はしっかりしている子である。一緒にいて気楽で、ありのままの自分でいられる。彼女と離れるのは辛い。

「瑠璃は何組なんだろ〜?」

雪が気を使ってか、抱き合うのをやめこちらに来た。

「ねー。良いクラスがいいな〜。」

「3組のとこ見に行こ!」

雪がそう言い、瑠璃の腕を取る。

「うん。」

期待と不安が入り混じる。2年生でクラス替えしたら、3年生で卒業するまで一緒ということで、かなり重要なのだ。

3組の掲示前に着き、名前を探そうとした時、肩を叩かれた。

「瑠璃、何組だった?まな3組だよー!」

そう言ったのは、橋口愛花。彼女と瑠璃は、1年の頃からかなり親しくする関係であった。瑠璃が同じクラスを期待していた1人だ。彼女もまた、バスケ部に所属している。しかし、こう言うからには瑠璃の名前は無いのだろう。そう思いながらも確認したが、やはり見当たらない。

「わかんない。2組か1組みたい。」

「そっかーー。」

顔を歪めて愛花は言う。

「瑠璃と同じクラスが良かったな〜。残念。」

「わたしも。ちょっと2組見てくるね。」

そう言って、小走りに2組の掲示に向かう。そこにも瑠璃の名前はなかった。ということは、1組か。最後の最後まで名前が無かったことに、何故か少し焦りを感じていたが、わかった途端に肩の力が抜けた。

1組の掲示の前に着いて、名前を探す。ーーあった。やはりあった。そして遠山春香の名前も、瑠璃の名前の1つ前にあった。

「きゃーーーーー!!!瑠璃同じ!!!同じだよ!!やったあーーーーー。」

そう声をかけて来たのは、やはり春香であった。

「同じだね!!良かった〜。」

瑠璃も心から喜んでいた。気の許せる人が、1人いるだけでもかなり違う。

遠山春香は、同じバスケ部に所属するチームメイトであり、一年生の最後には、愛花と春香と瑠璃の3人で行動していた程の仲だ。クラスは違ったので、部活動に限っては、だが。

春香は気が強い一面を持つが、義理深く、周りに気を配れるしっかり者である。瑠璃は幾度となく彼女を頼ってきた。そんな春香と同じクラスになれて、心底ホッとした。

「他に誰かいた?」

瑠璃が問うと、

「早苗と一緒。」

そう小声で教えてくれた。

小声になったのは、理由がある。

梶山早苗も、バスケ部に所属している1人だが、瑠璃は彼女のことを1年生の頃からよく思っていない。いつももじもじしていてはっきりしないし、嫌なことがあると先生や先輩にすぐ報告する。正直、めんどくさい、そう思っていた。春香も同様に思っているのだろう。顔が嫌がっている。

「まじかー、嫌だな…。」

つい小声で本音が溢れる。春香も大きくうなずきながら、聞き取れないくらい小さな声で、それな、と呟いている。

「瑠璃!春香ー!」

その時、後ろからわざとらしい明るい声が近づいてきた。2人同時に振り向くと、そこには案の定早苗がいた。げっと思い、つい後ずさりをする。

「同じクラスだねー!2年間よろしく!!早苗とずっと仲良くしてね!」

無理して作った笑顔で言う。

ああ、めんどくさいな。

またそう思った。瑠璃は彼女のこういうところが嫌なのだ。きっと、新しいクラスに知り合いが少なかったのだろう。でもだからと言って、瑠璃と春香の中に入ろうとするのか。冗談はやめてほしい。

そう思って春香を見ると、

「あ、うん〜」

彼女は春香に気の無い返事を返していた。

春香と早苗は小学校が同じで、同じ地元のドッジボールクラブに入っていた腐れ縁である。仲がいいという訳ではないが、切っては切れない縁というものがあるらしい。

「瑠璃、みてみて!この人わかるー?」

春香は瑠璃の腕を引きながら、瑠璃の顔を見て他のクラスメイトの名前を指差す。早苗に対し、あなたとは仲良くする気ないわ、そういう空気が感じられた。少し気の毒な気もしたが、実際瑠璃も仲良くする気は毛頭無かったので、話に乗る。

「あ、咲でしょ?知ってるよ〜!小学校の時習い事一緒だったの〜!めっちゃ可愛いよ!」

早苗を気にしないふりをして言う。

「そうなんだー!!この子と仲良くなりたいな!」

瑠璃も、春香と同じように考えていた。咲とは小学生の時に関わったきりだが、笑顔が素敵でフレンドリーな明るい子というイメージが強く、同じクラスになったなら仲良くなるのだろうなという気がしていた。

「そーね!そうなるといいね!」

そう言いながらも、もう1つの名前が気になる。

「春香、この子わかる?」

そう瑠璃が指差したのは、佐藤由美という名前であった。瑠璃の元には、この子についての色々な噂が流れてきていた。1つは、6組の山田海斗と付き合っているという噂。2つは、とてつもなく性格が悪いという噂。あまり良い印象は無かった。

「あー、知ってるよー!普通に良い子!」

「え、そうなんだ!怖いって聞いたけど…?」

「それはうちも聞いたことある(笑)」

「だよね、まあ普通に仲良く出来たら良いなー!」

「そうねー!」

そんな会話をしていたら、先生方が口々に、新しい教室に行くよう指示を出し始めた。

こうして瑠璃たちは、期待と不安を抱きながら、新しい教室、新しい1年間に向けて、歩き出した。

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