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遥か彼方の浮遊都市  作者: しんら
続章【学院都市】
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<反撃と抵抗>

体を蝕む強大な力に抗いながらアカツキはその力を振るう。


闇で作られた無数の槍は寸分違わず、リゼットの体を貫く為に射出される。

しかし、リゼットはそれを氷の壁で防ぎ、崩壊した氷の結晶は一瞬青く光ると、アカツキの方へ凄まじいスピードで迫り来る。


防御からの反撃に移る速度は僅か1秒程で攻撃をしたすぐ後にはアカツキも防御を余儀なくされる。


鋭く光る氷の粒をアカツキは素早く闇で包み込み消滅させる。


体は神器の力を使ってから恐ろしいぐらい回復した。

いや、無理矢理動かしているのだろうか。


今のアカツキには自分の体がどうなっているかなど分からないのだから。


そう。今のアカツキには感覚と呼べるものが何も存在などしていなかった。まるで自分の体じゃないみたいに体から感覚が消えてしまっているのだ。


だが、それでも動けば良かった。

それが自分の体でなくても目の前の被害者を止められれば。


「これでどうだ!」


闇は糸のように細くなり、クモの巣のように展開させてリゼットの退路を断ち、アカツキは一気に距離を詰める。


しかし、リゼットは体から電気を放電させ、迫り来るアカツキもろとも貫く。


闇で作られたクモの巣は容易く崩れ、アカツキの右肩に鋭い痛みが走る。

上手く避けたつもりでいたが、どうやら右肩を電気が貫いたらしい。


しかし、貫かれた右肩は闇が侵食し、痛みがすっと抜けていく。


「やっぱり、人じゃないのね」

「人だよ。ただ神器が過保護過ぎなんだよ」


アカツキはもう一度クモの巣を展開させると同時に蜘蛛の形をした闇を作り上げる。


「勝手に動いてろ」


作り出した蜘蛛に触れて命令をすると蜘蛛の目に赤い光が灯り、自動で動く人形となる。


「よくもまあ、そんなことが出来るわね」

「俺でもビックリだよ」


力の使い方は頭の中に響いてくる声が教えてくれる。

その度に鈍い痛みが頭をガンガンと痛めつけてくる。


まるで忘れてはいけない何かを思い出していくような不思議な感覚に陥る。


『次は何を思い出したい?』


聞き慣れない青年の声が力を、記憶を勝手に与えてくれる。

その声にわざと気づかないふりをしているアカツキは勝手に与えられる力を使用する。


その声に反応したら、自分が消えてしまうような気がして、怖い。


だけど、その声に頼らなければ力は得られない。

常に消えてしまうような感覚と隣り合わせにアカツキは神器の力を振るう。


『次はそうだね。さっきのリゼットみたいに闇を全方位に射出するといい。そうしたら彼女は回避行動を取らざるを得ない。そこに隙が生まれるはずだ、そうしたら槍で腹を貫く』


駄目だ。声に従ってはいけない。ただ力の使い方だけを聞け。


『守るための力だと思わないことだね。あの少女は君を殺そうとしてるんだ、なら覚悟を決めて君も殺さないと』


無視をする。

そんな戯言に耳を傾けるぐらいなら、力を制御することに集中しろ。


「動きが鈍ったわね」


一瞬の隙も見逃さないリゼットの蹴りがアカツキの腹に命中し、宙にその体が浮く。


「が?!」


「反応が遅い」


更に追撃として宙に浮いたアカツキの体を炎が包み込み、その体を焼き付くそうとする。


いとも簡単に無詠唱による魔法攻撃の嵐にアカツキは一瞬生じる無詠唱のデメリット、魔法発動の前兆を見逃さない。


蜘蛛に咄嗟の命令を送り、蜘蛛の口から吐かれた糸でその場を離れると、直後アカツキのいた場所が赤く燃える。


「サンキュー 」


ポンポンと蜘蛛の頭を叩くと、アカツキは床に手をつく。


「侵食しろ」


アカツキの触れた場所がじわじわと黒く染まっていき、闇の領域を作り上げる。


同時にアカツキは左腕を上げ、巨大な槍を作り出す。


「ちゃんと避けてくれよ」


そのまま左腕を振り下ろすと巨大な槍はリゼット目掛けて飛んでいく。


「避ける?馬鹿言わないで」


リゼットはその場を動かずに二色の炎を作り出す。


片方は青く燃える炎、もう片方は白く燃える炎。

二色の炎をリゼットは巨大な槍に向けて放つと、白い炎が槍を包み込み、青い炎が不安定になった闇を消し去る。


「嘘だろ...」


もしリゼットが槍を回避していれば闇はリゼットの辺り一体に広がり、動きを止める。という算段だったのだが、リゼットは真正面からぶつかり、闇を消し去った。


『ほら、このままだと殺されるよ?また僕に体を貸せば...』


「うるさい!」


アカツキは頭に響く声に反応する。

いや、してしまった。


『アウト、選手交代だ』


アカツキが本能に近い何かで察していた反応してはいけないという警告に反した行動をしてしまった。


声は低く頭に響くと、体が感覚を取り戻していく。

同時に意識は体から引き剥がされる。


「これで終わりね」


アカツキの周囲に一瞬炎が見えると1秒後にアカツキの体を業火が包む。


「サティーナは居ないのか」


しかし、アカツキを消し炭にするはずだった業火を闇が侵食していき、最終的にはアカツキの左手に火種が残るだけだった。


「成る程、これが炎か」


手にした業火の火種を握り潰すと、アカツキの体を支配する何かが薄く笑う。


「さあ、反撃開始だ」


直後、リゼットの視界を闇が包み込み、リゼットは闇の中で溺れる。


反撃と言うにはあまりにも一方的過ぎるもので、リゼットは闇の中で意識を失いそうになる。


―――こんなところで、やられてはいけない。


リゼットの体を使命感が支配する。


それは仲間を、友達だったアレットを誰よりも先に救うという、使命感が。


「消え、て!」


闇を振り払うようにリゼットは叫び、魔力を一点集中させて白い炎が、更に白く輝き闇を払う、いや爆発を消し去る白い爆発を起こす。


「二属性魔法、いや、爆発も含めると三属性か。些か、侮り過ぎてたようだ」


闇を消し去り、爆発によって剥き出しになった地面に足を着くリゼットの前で驚いた顔をするアカツキ。いや、ここではヤミと呼ぼう。


リゼットにも目の前に居る男がさっきまで戦っていた者とは違うことなどすぐに気がつく。


「二重人格ってやつかしら?魔力の質まで変異するなんて」

「二重人格?いや、どうだろうね。まあ、そう思っておけば良いよ」


興味無いと言うようにヤミは手を振ると、リゼットに向けて薄気味悪い笑みを見せる。


「力を持たない人間の分際でよくやった。だけど、一人で勝てると思うなよ?」


ヤミの体から黒い煙が立ち込めると、煙は姿を変えて体を包み込んでいく。


黒装束に、真っ白の仮面。

より一層化け物に近づいたヤミは、アカツキがユグドから貰った剣を握りしめる。


リゼットが出来るのは、倒すことではなく抵抗だ。

最早、ヤミの放つ魔力量からして勝つことは不可能だとそう判断する。


「あーあ。そりゃ、一人だったらだろ?」


リゼットが魔法を放とうとした瞬間、天井を破って背負われた少女と片腕の無いメイド服の女、そして。


「都市壊滅部隊副党首、リリーナだ。悪いけど、その体を返して貰うぜ。この女の想い人なんでな」

「勝手な解釈はやめてください。それにどうして天井ばかり破って登場するんですか」


その方が格好いいだろと、リリーナは言うとリゼットの横に並ぶ。


「てなわけで。てめえの出番はねえ。さっさと倒させて貰うぜ」


少女をサティーナに渡し、リリーナは大剣を背中から抜きヤミに向ける。


「―――抵抗、開始だ」

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