七つの日に星は輝く
七夕用の特別話
これは何の世界にも属さないお話。
きっと、こんな幸せな世界は訪れない。
だけど、もしこんな世界があったら。
―――幸せで、誰も傷つかない世界があったら、どれだけの人が救われたのだろうか。
――広い座敷に敷かれた布団ので、ぼんやりとした視界の中、アカツキははっきりとしない意識を覚ます。
「アカツキ...さん?」
アカツキの手から、とても温かで優しい温もりが伝わってくる。
――ああ、そうか。
「クレア、起こしちゃったか?」
「いえ、ちょうど起きようと思ってたところですよ」
目を擦りながらクレアな小さく欠伸をして、布団の中から体を乗り出す。
「えっと...」
目の前で、パジャマをだらしなく着て、艶やかな肌を覗かせる。
男と寝るにはあまりにも無防備過ぎる姿の女性は長い間アカツキに寄り添い、支えてくれた一つ年上で23歳のアカツキにとってかけがえのない大事な人、クレアだ。
「クレアー、パジャマはちゃんと着てろって」
アカツキに指摘されたクレアは、あれ?と言いながらパジャマを着直すと、カレンダーに目を遣ると、もう大人だというのに子供のように目を輝かせる。
「アカツキさんっ!!」
「どしたー」
アカツキが洗面台で顔を洗っていると、クレアがわざわざカレンダーを持って来る。
「見てください!今日は一年に一度の大イベントですよ!!」
「ああ、そっか。もうそんな時期か」
アカツキがカレンダーを確認すると、クレアがここまで楽しそうにしている意味を理解する。
「お菓子♪お菓子♪」
クレアはウキウキとした様子でタンスの中を何やら漁っている。
「おーい。あんまり食べると太るからなー」
「年に一度の大イベントだからノーカンですー」
と、クレアは謎の理論で言い訳をしているが、アカツキはクレアが夜な夜な隠しているお菓子を食べているのは知っている。
だが、ちゃんと歯を磨いているし、楽しそうにしているので注意することはない、というかアカツキはクレアに甘すぎるので、クレアが楽しそうにしていたらアカツキも嬉しくなるのだから注意することは絶対に無いだろう。
「クレア、さっきから何をしてるんだ?」
「ふっふっふ...。アカツキさんも見たら絶対に喜びますよ」
「?」
アカツキは自分が見たら驚くだろうと思うものを考えながら、クレアの下へ向かう。
「あ...」
そこには、とても懐かしくて、もう着ることはないだろうと思っていた物が2着置いてあった。
「アラタさんとアズーリさんに手伝ってもらったんですよ。アカツキさんが働いている間に密かに作っておいたんですよ」
「あはは...。すごいな、クレアは」
それはシウンの記憶に残っていた物と全く同じの着物、浴衣だった。
「今日は七夕祭り!!アカツキさんが喜ぶと思ったので頑張りました!」
七夕祭り。
それは農業都市で3,4年前から始まった祭りでアラタなどの異世界から来た者達がもう戻れない世界を思い、始まった祭りだ。
きっと彼らは元の世界で幸せに暮らし、何気ない日々を過ごしていた。
そんな何気ない日々を思い描き始まったのがこの七夕祭りだ。
本来ならば、異世界の知識をこの世界に持ち込むのは危険で、この世界の発展に重大な影響が出るかもしれないということで、絶対に伝えるなとは言われてはないが、伝えてはいけないという暗黙の了解のようなものが存在する。
この世界の行く先はこの世界が決める。
数々の都市で起きた争いが終結したときに、ある異世界から来た者がそう言った。
だか、異世界から来た者達にも過去に思いを馳せる権利はある、ということでアズーリが農業都市のNo.保持者を納得させ始まった。
「皆、来るのか」
「はい。皆さんはどんなに忙しくてもこの日だけは必ず来てくれますから」
この世界でアカツキにも数々の思いでが出来た。辛いことを乗り越えるための友、お互いに支え合い今もこうして一つ屋根の下で過ごす大事で、いとおしい女性。
十分過ぎる、いやアカツキの手では溢れてしまう程の思い出と仲間が出来た。
そんな彼らがこの都市に集まるのだ。
そう考えるとアカツキも心が踊ってくる。
「元気にしてるかな、皆」
去年の祭りでは成長した友人達と長い夜を過ごした。
まあ、主にナルフリドを吐くまで飲んだだけだが。
しかし、ナルフリドを吐くまで飲むというのも今はそうそうない。まだ、この世界で目覚めたばかりの時は何度も吐くまで飲み、ナナやクレアに迷惑をかけたものだ。
「って、昔に浸ってる場合じゃない」
こうやって昔のことを考えているとあっという間に時間は過ぎてしまう。自分の悪い癖であり、それほどまでにこの世界で過ごした日々は充実していたということだ。
「着方は、分かるか?」
「あ..」
「ほら、着せてやるから来...」
アカツキが浴衣の着方をレクチャーしようとした瞬間、アカツキの顔に強烈なドロップキックが炸裂する。
「っ...!!てええええええええ!!!」
顔を蹴られた勢いで屋敷の奥までギャグマンガのように吹っ飛んでいくアカツキ。
そのすぐ側に見慣れた顔の男性が手を差し伸べ、起き上がらせる。
「大丈夫か?」
「大丈夫に見えたらお前の目は腐ってるよ!」
半分八つ当たり気味で返すアカツキをやれやれと言わんばかりの表情でその男性、アラタは首を振る。
「お前の女房だろうが!ちゃんと見張っとけよ、あの狂犬を!」
「おやおや、こんな綺麗でパーフェクトな女性に対して狂犬とはね」
アカツキは一瞬の殺意を読み取り、向かってくる狂犬ことアズーリの回し蹴りを避ける。
「おやおや、パーフェクトで綺麗な女性が回し蹴りだなんてはしたないですわよ!お母さんはそんな子に育てた覚えはありません!!」
「キャラを安定させろ!」
アズーリのツッコミと共に放たれる炎の塊をアカツキは闇を展開させて炎を吸収する。
「人ん家で、炎を放つんじゃねえよ!」
「相変わらずのバカだね。私は君が炎を消すことを信じて炎を放ったんだ、まあ仕方ないか。バカだしね」
「あ??」
両者の間に険悪な雰囲気が漂ってきたところでアラタとクレアがお互いのパートナーを落ち着かせる。
「アズーリ、今回はアカツキの方が正しいぞ。炎を放つなら先に言ってから、やれ」
「確かに」
「まずやらせんな!このバカ夫婦が!」
「アカツキさん!落ち着いて下さい!!」
ギリギリと歯から音を立てながら威嚇するアカツキをクレアが押さえ込んでいると玄関からチャイムが鳴り響く。
「おや?お客さんかな?」
アズーリが自分の家のように我が物顔で訪ねてきたを部屋に招き入れる。
「相棒ー!!おはよ!」
「アレットか。わりいな、忙しいのに毎年参加してくれて」
アレット・スタンデ
現在は学院都市理事長と共に各都市を渡り歩き、魔法の研究、危険区域での増えすぎた魔獣を討伐したりなど、生態系の調整や太古に消え去った魔法の調査など、今も尚発展していく世界に貢献している優秀なイスカヌーサ学院卒業生。
「まあ、この日だけは理事長も休ませてくれるから大丈夫!大丈夫!」
「理事長の野郎は元気か?」
「そうだね。今も現役バリバリだよ」
アカツキとアレットは友というよりも親友という間柄に相応しい。昔からこの二人が揃うと面倒なことばかり起こすので、ナナやサネラは毎日が仕事のようなものだった。
「他の皆は?」
「来れるとは言っていたけど、僕も仕事上あまり会えなくてね」
「そっか」
アレットは自他共に認めるバカだが、これでも特殊魔法に神器保持者という世界で類を見ない程の逸材であり、だからこそ普通の人間が入ることの出来ない危険区域で活動が出来るのだ。
「まあ、お前が元気で安心したよ」
「まだまだやることが山積みだからね。こんなところでへばってたら何も出来ないよ」
「たまには休んどけよ?お前も人間なんだ、疲れは感じなくても蓄積してるんだかんな?」
アカツキの心配をアレットは大丈夫、大丈夫と軽く受け流すが、こういうときは大体無理をしているのだ。
本当ならもっと休んで欲しいが、アカツキにはそのことを言う資格はない。世界各地に居る神器の保持者の中で唯一アカツキだけが人並みの生活を求めた。
それ以外の神器保持者達はその力で魔獣の討伐や、魔法の発展に貢献しているなかで、アカツキは辛い仕事を降りたのだ。
今、この世界はとしてでの争いは無くなり、今後このような悲劇を起こさないために都市連合が作られ、そこで力を持った者達の抑制をすることになる。
神器保持者の取り扱いが初めての課題であり、最も重要な課題でもあった。
何せ、神器の使い方次第では何度も悲劇を繰り返すことで、世界を恐怖のどん底に陥れることすら出来るのだから。
そんな中で、アカツキ以外の全員が一つの都市に留まることはせず、監査役を複数人付けることを承諾し、危険分子の排除、魔獣の討伐などを請け負うことで神器保持者の安全性と有用性は保証しようと決めたのにも関わらず、アカツキは農業都市で普通の人として生活をすることを要求した。
これまで数々の場面で悪しきを罰してきたのだから当然だという声も上がってきたが、対称的に完全に信用するのは不可能だという声も上がった。
それは当然だろう、世界は今も強大な一つの力に恐れている。
力とは信仰心の対象では無く、いつ平穏を破壊されるかという恐怖心を生み出すものなのだから。
そこでアレットがアカツキの平穏を承諾する代わりに「僕が相棒の分まで働く」と、都市連合のトップに直談判した。
勿論、普通であれば承諾されることは無かっただろう。だか、アレットの他にも多くのアカツキに救われた者から手紙が届けられる。
その数は数万にも達し、中には子供達が書いた稚拙な字から、老人に至るまで、凄まじい数の手紙を都市連合は一週間掛けて目を通し、アカツキに年に数回思想調査する形で承諾する。
―――そして、現在に至る。
アカツキの平穏は思想調査とアレットの働きによって保証されているのだ、アカツキの分まで働くアレットに仕事なんて辞めちまえよ、などという言葉を掛けられるはずがない。
「アカツキさん」
アカツキが考えていることをクレアにはお見通しというわけだ。
アレットとアズーリ、アラタの三人が話し合っている横でクレアはアカツキの手を優しく両手で包み込み、小さくいとおしい男の名前を呼ぶ。
「暗い顔をしたら、ダメですよ」
アカツキを想い、薄く微笑むクレアはとてもとても。
美しかった。
―――その後、アカツキは記憶を頼りに浴衣を着る。
アレットはクラスメイトを探しに町へ繰り出し、アラタは祭りの運営の仕事へ一足先に向かった。
クレアはアズーリが「女性の着替えを男が見るなんて、変態以外の何者でもないね」と言い、隣の部屋で着替えている。
いきなり顔面目掛けてドロップキックをかましてきたのも、それが理由だったらしい。
いや、それでも理由にならないのだか、面倒くさいので許すことにした。
「こんなもんか」
多少時間は掛かったが、シウンの頃の記憶は正しかったらしい。
自分で言うのもなんだが、紺色の浴衣はよく似合うと思う。
と、鏡の前で自分の浴衣姿を見ていたアカツキは勢いよく開けられた襖の先の綺麗な女性に見惚れる。
「ど、どうですか?」
少し恥ずかしそうに下を向くクレアは、着物に慣れない様子でアカツキの反応を待っている。
「ああ...。うん」
アカツキは言葉にならない声が、似合っていることを知らせてくれる。
長い間暮らしていれば、アカツキの反応で大体のことは知ることが出来るのだ。
クレアは嬉しそうに笑い、アカツキの手を引っ張る。
「行きましょう?アカツキさん」
その様子を近くで見守っていたアズーリは。
「アカツキ、頼まれてた物は後で渡すよ。だから先に祭りを楽しんでるといい」
「あ、うん。ありがとう」
とても大事なことなのに気の抜けた返事をするアカツキに。
「ふふ。ああも驚いてくれると作った甲斐があるね。さてと、アラタばかりに仕事をさせてられないし、私も行こうかな」
先に運営の仕事に向かった旦那の下へ向かうアズーリのポケットからするりと懐中時計が落ちる。
アズーリは慌てて、拾い上げると懐中時計をゆっくり開く。
―――そこにはもうこの世には居ない家族と撮った最初で最後の写真。
もう出会うことはない、大事な家族が笑顔で写っている。
小さな少年の腕には笑顔でこちらを向く赤ん坊が抱かれている。
「兄さん」
笑っている家族の写真を撫でても過去から家族が来るわけでもないし、死んでしまった家族が甦るわけでもない。
―――だけど、今はこうしていたかった。
今のアズーリには愛する人が近くに居てくれる。
彼が辛いときにはそっと寄り添い、自分が辛いときには寄り添ってくれる大事な【家族】が。
―――幸せな時間は少しずつ過ぎていき、時刻は18時、世界を照らす太陽が沈みかけ、空が暁に染まる。
祭りの規模は最初はとても小さなものだった。
しかし、目新しい出店は農業都市の住民に好評で年々、祭りの開催資金も増えていき、いまや農業都市の大イベントとして世界に知れ渡り、この祭りの為だけに農業都市に訪れる者も多い。
「クレア、人が多くなってきたからはぐれるなよ」
夜に近づくにつれて、出店も増えていき行き交う人も増えていく。
それもそうだろう。本番の七夕祭りはこれから始まるのだから。
「大丈夫ですよ」
クレアは前を歩くアカツキの手に優しく触れると、絶対に離すまいとその手を握る。
町を歩く人の群れに流されないように、お互いの温かさを確認するように繋ぎあったその手は確かな幸せを掴んでいた。
「出店も増えてきたし、好きなものがあったら言えよ。今日の為に少しずつ貯金していたから、何でも買ってやるぞ?」
「はい!」
嬉しそうにアカツキの手を引っ張り、屋台に向かうクレアに「あんまり急ぐなよ、転ぶから」と注意するアカツキ。
そうだ。これが平穏なのだ。
こんなものを手にいれるのにどれだけの時間を掛けただろう。
おっと、また過去に浸るところだった。
今は幸せで平穏な時間だ、少しでも長くこの平穏を過ごそう。
「綿菓子!」
ふわふわとした綿菓子を口一杯に頬張るクレア。
その光景をアカツキが微笑んでいると、背中を思い切りバン!!と叩かれる。
「痛い!!」
アカツキが痛みに耐えながら、叩かれた方へ振り替えるとクレアと同じく浴衣姿の小さな少女が悪気のない笑顔で立っていた。
「あんた、全然変わってないね。もう少し鍛えたら?」
「同じく返してやるよ貧乳女!」
「は?殺されたいの?」
「はーいストップ、ナナもアカツキもここで暴れちゃいけないよ」
久しぶりに会ったにも関わらず物騒なことを起こしそうになる二人をナナの保護者のような役回りのグルキスが和って入り、アカツキとナナの二人を宥める。
「グルキス、退いて。こいつは一回ボコボコにしてやらないと」
「そうだ。普段はロリコン話で盛り上がるお前でもここばっかりは譲ってやれねえ」
さらっと気持ちの悪いことを聞いた気がするが、グルキスの言うとおりこんな大勢の人が居るなかで暴れられたら迷惑になってしまう。
クレアも、二人の中に割って入り落ち着かせる。
「アカツキさん、ここで暴れたら許しませんよ。ナナちゃんも謝りなさい」
「う、だけどよ。こいつには」
「だけどじゃありません。アカツキさんも大人なんですから、言い訳はしないで下さい」
はい...とショボくれるアカツキをナナが笑っていると、かつて旅をしたときのように叱る。
「ナナちゃん、悪いことをしたんだから謝ってください」
「え、やだ」
「じゃあ期間限定販売のお菓子を分けてあげませんよ」
「え?」
ナナは心は大人のつもりでいるが、お菓子には目がない。旅では各地のお菓子をクレアと買い漁るなど、普段のナナからは予想できないほど、子供っぽい部分があるのだ。
「べ、別にお菓子なんてグルキスに買って貰えば...」
「謝んないと買わないよ?」
「裏切り者!!」
裏切り者も何も普段はナナに味方するグルキスでも悪いことは悪いと教えているのだから当然だろう。
「うう」
クレアとグルキスの二人に謝るように迫られるナナはぼそぼそと謝罪する。
「ご、ごめんなさい」
「はい。アカツキさんは許しますか?」
「え、無..」
「許しますよね?」
圧力をかけるように言葉を重ねてくるクレアに押し負けたアカツキは渋々ナナの謝罪を受け入れる。
「分かったから。許すから、そんな怒んないでくれ」
「怒ってませんよ?」
クレアはそうは言うが、アカツキのことをクレアが熟知しているようにアカツキもまたクレアのことわ誰よりもよく知っている。
「ほら、ここで立ってたら皆の邪魔になるよ。アスタとアカネの二人は来れなかったみたいだけど、それ以外の皆はアズーリの屋敷に集まってるよ」
「そっか。アスタは賢者の仕事が忙しいのか」
「うん。何でもある遺跡が突然魔力が集中し始めたんだって。だから天災級の魔獣が出現する危険があるんだってさ。大変だけど世界の為に働いてるんだ。それは良いことだよ」
アスタ
7人の反逆者の一人で、都市間の争いが終結すると賢者に抜擢され、世界各地で魔法を教え、時には神器保持者と共に強大な力を持つ魔獣を討伐している。
グルキス
アスタ同様、7人の反逆者の一人でアラタとは親友であり、中にのことを実の妹のように愛している。一度は自分を死んだことにしてナナを遠ざけていたが、都市間の争いが収まると老人からもう危機は免れたと言われ、数年ぶりにナナと再開する。
ナナ
アカツキと共に旅をした一人で、グルキスに出会うまで様々な都市を渡り歩いたが、グルキスとの再開を果たしたことにより、グルキスと共に行動することにした。
―――移動しながらナナとグルキスの二人は一年ぶりに帰って来た故郷の活気の良さに驚く。
「たった一年離れただけなのにここまで人で賑わうなんてびっくりしたよ」
「そうか?確かに言われてみれば去年よりも人が多いな」
改めて人の行き交う街路を見ると屋台の数も他人の数も増えている気がする。
「それだけ、七夕祭りは世界に知られてきたんじゃないでしょうか」
「そうだね。この賑わいはあの頃とは全く違う感じの賑わいだ」
あの頃とは農業都市が奴隷制度を取り入れていた時のことだろう。確かに賑わいで言えば、今とはさほど変わらない。
だが、あの頃のように辛そうに現実を呪うように働いているのではなく、人を楽しませる為に働き、それを笑いながら楽しむ人達で賑わっている。
「あんまり暗い話はやめようぜ。今日は特別な日なんだ、なら笑ってたほうが良いだろ?」
「クレアさんのような言い方だね。朝に同じようなことを言われたのかな?」
―――こいつは超能力者か何かか?いや確かに魔法を使うから超能力ちゃっあ超能力なんだろうが。
「ほら、話してる間に到着だ」
グルキスが歩みを止めると、アカツキ達も歩みを止めて正門を護衛している衛兵達に話を通し中に入れてもらう。
「じゃあ行こうか」
衛兵が正門を開けると、グルキスは預けていた袋を受け取り中に入っていき、それに続くようにアカツキ達もアズーリの屋敷に入っていく。
「その袋はなんだ?」
「アラタにあげるお土産だよ」
両手に持っている袋の中から様々な種類の本が顔を覗かせている。
題名は赤衣の勇者、英雄の最後などお伽噺に近い本の数々。
この量の本を二人はそれはそれは子供のように目を輝かせながら何日も読み耽るのだろう。
「どうしたの?あんたが他人の話に嬉しそうにするだなんて珍しい」
「お前は俺のことをなんだと思ってんの?」
「血も涙もない最悪の人間」
「俺が気分良くなかったらぶん殴ってたわ」
ナナの悪口を軽く受け流したアカツキは屋敷の廊下で見覚えのある双子を見つける。
「あれ?サラとララか?」
「誰かと思ったら」
「アカツキさんじゃないですか」
長い青髪に、全く同じの服装と容姿それでもなんやかんやで長い間付き合っているのだ、当然見分けることぐらい用意だ。
「小さい方だからお前がサラだな、おひ..。っあぶ!!?」
差し出したアカツキの手を無視してサラとララは強烈な蹴りをアカツキに食らわせる。
突然な出来事に為す術もなく吹き飛ばされるアカツキ。
そしてアカツキが吹っ飛ばされた先のドアがタイミングよく開きアカツキの頭に勢いよくぶつかる。
ゴン、と鈍い音がした瞬間ドアは勢いよく閉まり、その数十秒後ゆっくりと開く。
「あ、あれー。アカツキ君?どうしたのー」
「やり直したって許せねぇぞ」
いきなり蹴られたと思ったら吹き飛んだ先のドアに頭を強打という散々な目に遭ったアカツキだか、こんなやりとりにもどこか懐かしさを感じるのはアカツキだけだろうか。
「アレットに影響されて」
「変態さんになりましたか?」
廊下で伏しているアカツキに手を伸ばすサラとララの服装を見てアカツキは目を丸くする。
「あれ、浴衣?」
よく見れば最悪のタイミングでドアを開いたミクも浴衣姿であることにも気づく。
「アズーリさんが人数分作ってくれたんだよ、皆着替えてる最中だからもう少し待っててだって。ナナちゃんとグルキスさんの分もあるから、ナナちゃんはアズーリに着せてもらってね」
「なるほど、じゃあアカツキまた後でね」
「私も着替えてくるよ」
グルキスとナナとは一旦別れ、サラとララ、ミクの三人と着替え終わったら集合する大広間に向かう。
「みんなーアカツキ君とクレアちゃんが到着したよー」
大広間の扉の奥には数年前より大人っぽくなった友人達が各々自由に話し合っていた。
「なんだ、これは」
「浴衣っていうんだって」
これまた浴衣に似合うガルナに、三つ編み姿で色っぽくなった様子のリナ、そのすぐ側には珍しく髪を上げた浴衣姿のラルース。
「なかなか似合ってるじゃん」
「そうか?こんな着物初めて着たから俺には似合ってるのか分からんな」
「うんうん。私も似合ってると思うよ」
ジャージ姿でよく見かけたリナもちゃんとした服を着ていれば体育系の女子には見えない。
ラルースも普段の暗そうな感じはせず、明るい浴衣によりごく普通の女性に見える。
「だけど相変わらずオカルト小説読んでんのな」
「こればっかりは譲れないわ」
こういうときくらいまともなものを読んでほしいという気持ちはあるが、ラルースが読んで楽しいなら無理に止めはしない。
「ねえ、ガブィナ。うん。お菓子が好きなのは分かるんだ。だけど、アカっちが来たんだから食べるのはやめたらいいと思うんだ」
「モグモグ、うん。分かった」
こっちもこっちとて、あの頃から変わらないガブィナがお菓子をテーブルの上で食べていた。
その横ではあまり背丈の変わらないオルナズがガブィナ同様お菓子を食べていた。
「ねえねえ、ガブィナお兄ちゃん、これ頂戴?」
「いいよ。一杯食べて成長するんだよ、オルナズ」
「うん!!」
お菓子を愛する二人は会って1日足らずて仲良くなり、今やお菓子同盟の仲間としてお互いの好きなお菓子を教えあったり、わざわざ学院都市からこの農業都市に来ることもあるくらい仲良しになっている。
ガブィナからすれば可愛い弟のような存在なのだろう。
「食べてもいいから、お互い浴衣を汚さないようにな」
「「はーい」」
二人はまたお菓子の話を始める。
そんな二人を横目に眠たげに話すルカと、その横で何やら真剣に話を聞くサネラのもとへ向かう。
「はあ、眠い」
「駄目ですよ!まだまだ聞きたいことはたくさんあるんですから!」
何をそんな切羽詰まった様子で聞いているのか分からないが挨拶ぐらいはしといたほうが良いだろうということで二人のいる席へと向かう。
「委員長、久しぶり」
「あら、アカツキ君、元気にしてたかしら」
「まあまあな」
話し相手がアカツキに移ったことを確認したルカはやっと寝れると言いながら睡眠につく。
いや、慣れてはいるがここまで寝てばかりだと不安になる。
「委員長のほうはどうだ?」
「私は常に元気よ。それよりもアレットの方が心配よ」
「あいつは頑張り過ぎてるからな、まあ俺が悪いんだけど」
サネラがアレットのことを好きなのは本人から言われた時はびっくりしたが、それらしい態度を取っていたよなということで無理矢理納得させた感じだか、アレットには大事な存在が居た方が無茶し過ぎないので良いかと思うが、問題はアレットが思っていた以上に鈍感だったことだ。
「アカツキ君、あれはああいう男だから良いのよ。貴方に救われたんだから、貴方が救われても当然よ。だからそんなことは言わなくていいのよ」
「そっか。俺からすればアイツを助けるのは当然のことだったんだけどな」
「それを言うなら貴方の為にアレットが頑張るのもアレットからすれば当然のことになるわ」
サネラからすればアレットが大変な時は側に居られれば良いのだ。だが、それは今も叶っていない。
「私も頑張るわよ。少しでもいいからアレットを手助け出来ればそれでいいもの」
「委員長は本当にそれで..」
「良いのよ。今は」
今は、か。
アカツキは頑張れよと一言残すと席を離れる。
アレット、ガルナ、ガブィナ、ミク、リナ、サラ、ララ、サネラ
学院都市でアカツキと同じクラスで共に戦った戦友であり親友。
アレットは神器に飲まれたことで長い間正気を失っていたが、アカツキの奮闘によりアレットを救いだすことに成功した。
アレットはそのことでアカツキに恩を感じている。
「おにーちゃーん!!」
アカツキが大広間にいた仲間に一通り挨拶を終えると大広間の扉が開かれ浴衣姿の愛らしい少女がアカツキの胸の中に飛び込んでくる。
「どう?アルフに似合ってる?」
「ああ、とっても似合ってるよ」
「ありがと!」
アルフ
アカツキが初めて訪れたキュウスの屋敷で出会った少女で、ウズリカにアルフのことを頼まれ、密かに手紙のやり取りをしていたアカツキの大事な妹のような存在。
「お父さんがアズーリのお姉さんと来るから、そしたら出発するって」
「そうか。じゃあそれまでジャンケンでもするか?」
「うん!」
それから、浴衣に着替えたナナやグルキスと遅れて現れたシラヌイ(クセル)も合流し、アルフがジャンケンで全敗したり、お菓子連合が全員集合したことによりお菓子No.1決定戦が開かれるなど、各々が自由に時間を過ごしていると、ようやく浴衣姿のアラタとアズーリ、グラフォルが大広間に到着する。
「おっさん、随分遅かったな」
「祭りに喧嘩は付き物だ。今まで事態の収拾に手一杯だったんだよ」
「そうだったのか、お疲れ様」
時間は多少掛かったが、こうして今日参加出来る者達が全員集合した。
「それじゃ、時間も少ないし早速花火を見れるところに行こうか。先にジャックスとメイド達が準備をしてるから、着いたらすぐに宴を始められるよ」
ジャックスまで来ていたのか。
あいつと会うのは学院都市以来だな。
「皆、ついてくるといい」
アズーリとアラタが先頭を歩き、それに続いて各々楽しそうに話ながら列を作り、目的地へと向かう。
「ねえねえ楽しみだね、お兄ちゃん」
「そうだな、こうやって皆で集まるのも一年ぶりだ」
アカツキの腕を掴みながら周りよりも楽しそうにはしゃぐアルフはもう20歳なのだが、成長は大してしていない。
これは子供の頃の劣悪な環境が原因かと思われたが、通常の人より多くの魔力を保持していながら、その魔力の調整をすることも出来ず、魔法に関する知識も無いので、魔力の循環が正常に行われていないことが原因と判明した。
魔力の循環と体の老いは関係していると昔から言われており、現在の学者もそう言っている。
その学者からこれ以上アルフは成長しないとはっきり言われたのだ。
理由は本来、子供でも持っている魔力の放出されるゲートのようなものは閉じきっており、魔力の補給をすることも出来ず、外側からの干渉も不可能であり、魔法を発動させることも不可能で、これからどう技術が進歩しようと、アルフの閉じきった門は開くことはないらしい。
子供の頃に魔法を教える者が居れば、アルフは今も周りの皆と同じように成長出来たらしいのだが、当時のアルフの周りの人間は後処理に追われ、アルフは一人で子供のように本を読んでいた。
そのこともあってか、精神的な面でもアルフの成長は見受けられない。
学者が言ったデメリットは成長の著しい低下、しかし学者はこうも言った、体の中だけで魔力の循環を常人の数倍行えるということは、通常の人間よりも長い時間を生きることとなる。
「この少女、いや彼女は貴方達の亡骸を見て、どう思うでしょうか。確かに不老不死とは素晴らしい。ですが、それはとても残酷なことでもあります。推定ではアルフさんは、300歳はゆうに越えることが出来るでしょう。ですから死とは救いでもあるんですよ」
と、途中からまるで体験してきたかのように学者の男は語っていた。
「アルフ、今の生活は楽しいか?」
「うん!お兄ちゃんが遊びに来てくれるから嬉しいよ!」
アルフの屈託のない笑顔からは、これからどのように長い時を生きていくのかという心配も、大事なものを失う恐怖も一切感じられない。
今はこれでいい。
グラフォルが自分の娘に課された厳しい現実に対してこう言った。
今を笑って生きてくれればそれでいい。
一種の現実逃避と思われるかもしれないが、これは優しさでもあった。だから...。
「お兄ちゃん?大丈夫、どこか痛いの?」
「ん?ああ、大丈夫だよ」
一体今日で何度目だろう。
偉そうに暗いことを考えるなと言っときながら、自分はこうだ。
「今を笑って生きる、か」
―――なんて甘くて優しい言葉なのだろう。
アズーリの屋敷から数十分掛けて、アカツキ達はジャックス達が用意していた宴の場に案内される。
そこは農業都市が奴隷制度から解放された年に行われた祭の時よりも大きくなった高台で、様々な料理が並べられ、学院都市でアカツキが傷ついていた時に誰よりも近くに居てくれた恩人とも言える二人がメイド達の中心で立っていた。
一人はジャックス、アカツキの悩みを聞き、真剣に悩んでくれた男。
―――もう一人は。
「サティーナ...か?」
アカツキの記憶が正しければサティーナは数々の都市で悪事の限りを尽くしたジューグが何者かに暗殺された時にジューグの死体を持ち、都市壊滅部隊に自首、今まで行ってきた主の不始末を一手に背負い投獄されていたはずだ。
「なんで、お前が」
「本当に、お久しぶりです。アカツキ様」
アカツキが詳しく話を聞こうとした時にジャックスがその間に立ち。
「今、話すのは長くなるので後で話しませんか?折角作った料理も冷めてしまってはもったいないですし」
「僕もジャックスに賛成だね。歩き疲れたから、さっさと座りたい」
聞きたいことは色々あるが、アカツキは一旦その話を聞くことをやめることにする。
わざわざこんな場所まで来てくれたのだ、サティーナから話を聞くのは後からでも遅くはない。
「そうだな、まずは席につくか」
各々、自分の好きな席につくと、メイド達がアルフ以外の全員のグラスにナルフリドを注ぐ。
「それじゃあ、今年も無事開かれた七夕祭りに」
アズーリはグラスを高く上げて。
「カンパーイ!!」
「「「「「カンパーイ!!」」」」」
町中に響くような声で宴の始まりが告げられる。
「料理はどんどん追加していきますから、皆さんたくさん食べてください」
ジャックスが料理を運びながら話してばかりでなかなか箸が進まないアカツキ達を食べるよう促す。
「ああ、今は話に夢中だけどそのうちお腹が減って皆食べるから安心しろって」
いまだにアルフとジャンケンをしているアカツキに言われても説得力は全くないが、確かに少しずつ料理に手をつける者が多くなってきており、あながちアカツキの言っていることも間違ってはいないらしい。
「おにーちゃーん!!早く続きしようー」
「はいはい。んで今のところ俺の26勝でアルフの0勝だよな」
「あんた未来でも見えてんの?」
ナナの言い方から大人げないを通り越して、アカツキに対する恐怖に切り替わってきている気がするのは気のせいだろうか。
しかし、そうは言われても勝つものは勝つのだ。
仕方のないことだろう。
「ねえ、貴方も良い大人でしょ?少しはアルフちゃんにも勝たせてあげなよ」
「委員長、無駄だよ。相棒は何故かジャンケンだけには負けなくないみたいだし」
「姉さん」
「ええ。あれは最適の大人ね」
「ほざいてろ。俺の耳は特注品で自分にとって都合の良いこと聞けないようになってるんだよ」
「うわ...」
ナナにそこまで本気で引かれると、流石のアカツキにも心に響くが、こればかりは譲れないのだ。
「アカツキ、このままジャンケンをしてもお前の評判が岩盤に達するわけだが、そろそろやめたらどうだ」
「いや、俺はいつでもやめていいんだけどアルフがな」
またもジャンケンに負けたアルフがもう一回!!と叫び、再戦を申し込む。
時間が経つにつれアカツキの信頼が下がっていくと同時に宴の場も盛り上がっていく。
―――そして。
「おぼろろろろろrrr」
まさに様式美。
プロの吐き人と不名誉なあだ名をつけられた男は今日もまた吐くのだった...。
「うん。知ってたけどね、折角苦労して作った浴衣を着ながら吐かれると私は残念だよ」
「慣れたけどさ、あんたは学習しなよ」
そうは言われるけど、こういう日でしか目一杯飲めないので許してほしい。
普段はクレアに途中に止められるのだが、宴会の場となれば吐くまで許してくれる、というか半分諦められてるのではないだろうか。
「おい。そっちに夢中になるのもいいがよお。そろそろ時間だぜ」
眠いと言って、クセルにバトンタッチしたシラヌイの体を使いながらそわそわした様子で空を見上げる。
―――そして。
「来た」
誰かが待ち望んでいたかのような呟くと、空に無数の花が咲き誇る。
赤、青、黄色、緑、紫など色とりどりの花火が空を埋め尽くすと民家から眺める人々、町を闊歩する人々が熱狂的な歓声を上げる。
「我ながら良い出来だぜ」
「時間を掛けた甲斐があったね、アラタ」
「そうだな」
まだ半分酔いが回りながらアカツキが空を見上げると。
「すげえな」
アカツキの知っている花火よりも更に鮮やかに、記憶に深く刻まれる美しい花火が世界を照らす。
歓声はやがて収まっていき人々は、美しい、それしか言い様のない花火に見とれる。
「大丈夫ですか?」
誰もがその美しい花火に見とれる中で、クレアだけがアカツキに話しかけてくれる。
「ああ、大分収まったかな」
クレアに手を引かれ起き上がると、宴の席に戻り眠ってしまったアルフを自分の膝の上に乗せ、アカツキはその幼い容姿をしたアルフの頭を優しく撫でる。
「あれから五年、色々変わったな」
「そうですか?アカツキさんはまた吐いてましたよね」
「いや、まあ、うん。そういう意味じゃなかったんだけど」
若干うろたえるアカツキを見てクレアはイタズラっぽく微笑むと冗談ですよ、と笑顔で言う。
「そうですね。やっぱり変わっていきますよ。人も町も」
「そうだよな」
時間は誰もが平等に与えられ、過ぎていく。
かつての町並みは薄れていき、新しい町の姿が色濃く頭に刻まれる。
「でも、今は幸せですよね?」
「ああ、やっとの思いで掴んだ日常だ。幸せだよ」
アカツキとクレアが話していると七夕祭りのフィナーレが始まる。色とりどりの花火は町を照らし、何度も形が変わり、数えきれない量の花火が夜空を覆う。
―――特大の花火が最後に打ち上げられ、空にその全貌を見せてから一分ほど輝き続け、その姿が空から消えると少しの間余韻と感動に浸り、
「「「「ウオオオオオオ!!!!」」」」
祭りの最後に相応しい大歓声と共に祭は終わりを迎える。
―――その後、アカツキ達も興奮冷めやらぬ様子で騒ぎ続け、結果また吐くまで飲み続けた。
深夜0時を過ぎると誰かがもう時間だからとその場を離れると、少しずつ人数は減っていき、30分もする頃にはジャックスとサティーナ、メイド達が後片付けを始める。
アカツキとクレアの二人も片付けを手伝おうとしたが、主にそんなことはさせれないと拒否された。
いや、本当はそんな忠義心に満ちた言葉では無かっただろう。
翌日聞いてみるとジャックスは悪びれもしない様子でただ単に酔っぱらいに手伝われても片付けが遅れるからだと言われた。
その言葉にアカツキは何とも言えない気持ちになるが、その話は今語ると長くなるのでよしておこう。
「本当に大丈夫ですか?」
クレアに手を引かれながらアカツキは覚束ない足取りで帰路に着くが、途中でアカツキは用事があるからと自宅から随分離れた農業都市の聖域とも言える湖に到着する。
「ここで何か用事があるんでしたよね?」
「ああ、とても大事で、今日やるとずっと前から決めてたんだ」
クレアが小首を傾げると、アカツキはおもむろに小さな黒い箱を取り出す。
「クレア、祭の後に俺と一緒に旅をしたいと言ってくれたことを覚えているか?」
「はい、覚えてますよ。一生忘れることはない最初のお願いですから」
思えばあれから旅が始まったのだ。
クレアが勇気を振り絞って、アカツキの旅についていくと一帯時にはとても驚かれたが、あそこから全てが始まった。
辛いことを何度も乗り越え、一人で越えられない壁は仲間達が一緒に乗り越えてくれた。
時には喧嘩をして、時には下らないことで笑いあったりした。
幸せなことも辛いこともたくさんあった。
そんな旅の始まりが、ここから始まった。
「ここは俺にとって始まりの場所だ」
アカツキは恥ずかしそうに頭を欠くと 。
「お前との出会い、旅の始まり。俺の人生はここから全て始まったんだ」
「―――正直、お前がついてきてくれるって言ってくれた時、嬉しかったんだ」
一人で旅に行くとあんなに言っていたのにも関わらず、アカツキは一人が怖かった。
だから、クレアの勇気は結果的にアカツキを救うこととなった。
「だからさ、お前の次は俺だ」
アカツキはクレアの前で膝をつき、黒い箱を開ける。
中にはクレアの髪の色と同じ白い宝石がはめられた指輪が箱の中から月の光に反射して、綺麗に輝く。
「―――ずっとお前のことが好きだった。絶対に幸せにしてみせる、だから俺と結婚してくれ」
アカツキは長い間胸の中に秘めていた思いと共に熱いプロポーズの言葉をクレアに伝える。
最初は単に旅の時と同じ感覚で一つ屋根の下に住んでいた。
理由としては、アカツキは新しい生活を始めるに至って今まで蓄えてきた財産を各都市の貧しい人々の為に寄付したことにより、クレアの手を借りながら生活することにして、クレアも少し嬉しそうにそれを快諾してくれた。
「随分長い時間を掛けちまったけど、ようやく本当の思いを伝えられたよ。結果的にフラれても俺は気にしないし...」
「こちらこそよろしくお願いします」
「別に怒りも...。ん?」
あっさりと答えを返してくれたクレアにアカツキは一瞬時が止まったように硬直する。
やがて。
「本当に良いのか?」
少し自信なさげに質問してくるが、クレアはずっとアカツキに好意を抱いてきており、様々なところでそれらしい態度を取ってきたてもりだが、気づかなかったらしい。
クレアには断る理由は何一つ無いのだ。
それほどまでにクレアもアカツキのことを愛していた。
「アカツキさん」
アカツキは勇気を持って告白をしてくれた。
ならば、次はクレアが勇気を見せる番とばかりにアカツキと同じようにしゃがみ、口をアカツキの唇に近づける。
「ん...」
二人は人気のない湖の近くで唇を重ねると、ふと頭の中どこかで聞き覚えのある声が響く。
『幸せな日常を掴んだ二人にささやかなプレゼントを差し上げます』
―――同時刻、遺跡に集中した魔力の発生源を調べるべく遺跡に訪れていたアスタは奇跡とも思える光景を目にする。
「なんだ....これは」
ボロボロに朽ちていたはずの遺跡がまるでかつての神殿のように神々しい光と共にそびえ立っていた。
「つい数分前はボロボロだったはずた、どうしてこんなことに?」
数万を越える思索の果てにたどり着いた結果は『謎』だった。
アスタにもこれほどまでの復元は不可能であり、そもそも当時の神殿を知らない人間にはこれほどまでの完璧な復元は不可能に近いことだ。
「魔力の量も先程までとは桁違いだ
突然起きた異変の前に呆然と佇むアラタの前で更に不可思議な現象が起こる。
白い光と共に無数の魔方陣が神殿の中心部に発生し、そこへ魔力が集中していく。
「まずいな、もしあの魔方陣が魔獣の発生源になるとしたら...!!」
最悪の展開が頭の中を過るが、そんな心配も杞憂に終わる。
『星を輝かせましょう』
今まで見たことのない白いローブ姿の女性が魔方陣から現れたかと思うと一瞬で神殿に集中していた魔力が空に向かって放たれる。光の柱が空に伸びると、一つの流れ星が空を駆ける。
「まさか...」
一つ、また一つと流れ星が空を駆けると、無数の星が今までとは比べ物にならないくらい輝き始める。
「はは、これは魔獣の召喚なんかよりよっぽど上位の魔法じゃないか」
星に干渉する魔法など聞いたことはないが、もしあの白いローブの女性が神に近い人物、それこそ神だとしたら。
「奇跡の魔法...」
人には到底出来ることのない神にのみ許された奇跡の魔法がこうして目の前で起こった。
数百、数千、はたまた数万年に一度あるかないかの奇跡をこの目で見ることが出来たのだ。
「すごいな、運が良いどころの話じゃないぞ」
―――場面は戻りアカツキとクレアはその奇跡をアスタと同じように眺めていた。
「さっきの声...」
とても大事で、近くにいたはずなのに記憶をどれだげ模索してもあの声に該当する人物は誰一人とて存在しない。
「けど、ありがとうな。最高のプレゼントだ」
空を駆ける無数の流れ星と瞬く星々を眺めながら二人は帰路につく。
―――これはとても幸せなお話。
皆が笑って明日を語ることが出来る幸せで当たり前の日々。
もしこんな世界があったら二人の優しくて誰に聞いても仲が良いと評判の夫婦と一人の可愛い娘はとても幸せな未来を送ることが出来るだろう。
【七つの日に星は輝く】
七夕の特別話だというのに三日も遅れて投稿してしまった...。
そしてなんやかんやで昨日は誕生日でした。
(正直家族が祝ってくれるまで気づかなかった...。)
まあ、はい。
ありきたりだけど幸せな日々を送るという圧倒的ハッピーエンドのお話です。
でも、もし気が向いたら続きを投稿するかも。
このお話の捕捉などもそのうち。